駒の流儀・第33部 真相編

第161章「状況証拠」

 怪人60面相から来た手紙を見ることが出来た唯一の人物とは誰なのか、不利舎耕介が答える前に、別のところから声が掛かった。

今陣孝太郎管理人 「藤田舞子さんでしょう。探偵事務所の秘書兼受付兼事務員、ですね !?」

      湯川慶子委員 「女ね。さすがに目の付け所が違うわね」

 喝采賢介委員 「小生も一瞬そう思ったが、将棋関係者や捜査関係者以外で、ということで、捜査関係者の一人に含まれると判断し、舞子は、除外しました」

    大橋宗雪理事長 「なるほどのお。捜査関係者といえば、そうとも言える」

      不利舎耕介副委員長 「うむ。たしかに暇名事務所の藤田舞子さんを含めると、2人になる」

藤田舞子事務員 「ええ!私も含まれるの?」

  温対記者 「不利舎さん。それはないですよお。舞子ちゃんは、暇名探偵の秘書ですよ」

       不利舎耕介副委員長 「ははは。わかってます。一応含まれると言っただけで、彼女は何の関係もありませんよ」

    傍で聞いていた暇名小五郎も、苦笑いしていた。

大橋宗雪理事長 「それで、一体誰なのじゃな?」

      不利舎耕介副委員長 「思い出していただきたいのですが、第5の流儀、つまり<金の流儀>の時に、行方8段のマンションに侵入して逮捕された男がいましたね」

仁歩犯則書記長 「覚えてます。たしか、タクシーの運転手さんで、結局は誤認逮捕で釈放された人ですね」

      不利舎耕介副委員長 「はい。その男を尋問する際、怪人60面相からの手紙を見せたはずです。そうですよね、渡り鳥警部」

 渡り鳥旭警部 「うむ。その通りだ」

   細波雷蔵刑事 「あれは、私が提案して、いきなり手紙を見せて、反応を探ったんでした。あまり効果はなかったですけど」

      不利舎耕介副委員長 「誰のことか、皆さんはもうお分かりでしょう。偽者の怪人60面相を名乗り、次々に殺人を重ねた男でもあります」

      会場内を見回して、不利舎は一段と大きな声で言った。
  

       不利舎耕介副委員長 「連続殺人鬼は、そこに居る<石辺五郎>であります」

       一度は、容疑者から外れた男が、再び浮かび上がってきた。あまりの意外さに、一同呆然とするばかりだった。

石辺五郎 「おい!お前馬鹿でねえのか!!!!!1! なんで自分が犯人なんだ!!!!1!1」
 
    不利舎耕介副委員長 「おや、石辺さん。違うというのですか?」

 石辺五郎 「当たり前でねえか!!!!! ふざけんでねえぞこのやろ!!1!!!!1!!!」

大橋宗雪理事長 「つまり、五郎殿は、怪人60面相では無かったが、間違って逮捕された時に手紙を見せられた。そのことを利用して殺人を思いついたということかのお?」

         不利舎耕介副委員長 「お察しの通りです。第1の殺人は、片思いの女性を藁人形氏に奪われたことを根に持っての犯行ですが、第2の犯行は、山岡組長が自分の身辺に近づいてきたことだけではなく、兄弟分の小茶園若頭のためでもあったのですよ」

 後呂記者 「小茶園若頭に頼まれたということですか?」

        不利舎耕介副委員長 「いや。小茶園若頭は知らないでしょう。石辺が勝手に、彼のために凶行に及んだのです」

 仁歩犯則書記長 「それは、筒井本部長が看破していましたね」

      不利舎耕介副委員長 「そして、第3の犯行で越中氏を殺害したのも、石辺氏が秋田県で新聞配達をしていたことを追求し、<キョーシロウ>と呼ばれていた人物であることが、発覚するのを恐れたためであります」

 石辺五郎 「キョーシロウて、なんのことだ!111!111 勝手なことばかしゆてんでねえぞ!1!1!!!!!11!」

湯川慶子委員 「ねえ。じゃあ、なんで石辺さんが<キョーシロウ>なの?」

       不利舎耕介副委員長 「もちろん調べてあります。石辺五郎は、子供の頃から暴れん坊で、喧嘩早い少年だったのです。それで友達からは、凶暴な五郎とか、狂人五郎と言われていたのですよ」

湯川慶子委員 「それなら、<狂五郎>じゃないの?」

    不利舎耕介副委員長 「はい。ただ、それではあまりにも直接的過ぎるので、一段下げて<狂四郎>となったのです」

筒井村重本部長 「たしかに、狂四郎はともかく、仲間に狂五郎と呼ばれているのは、聞いたことがある」

      不利舎耕介副委員長 「そうです。今、筒井さんが言われたことは、タクシー仲間の不知火氏らから証言を得ております」

喝采賢介委員 「うんうん。さすがホームズですなぁ」

     石辺五郎 「なにが<うんうん>だ!11 お前らなあ、自分はたしかに狂五郎て呼ばれてたこともあるけどよ、だから人殺ししたてことじやねえじやねえか!1!!11!!!11!!1」

不利舎耕介副委員長 「石辺さん。あなたは、セブンイレブンの初台店によく行きますか?」

      不利舎は、いきなり話を変えた。

石辺五郎 「ああ。そりやあ会社の近くだからな!1!11!11」

不利舎耕介副委員長 「では、その初台店のオーナーが、都内に8店舗所有しているということは、知っていましたか?」

石辺五郎 「そんなこと知らねえけどな!11!1111 なんでそんなこと聞くんだ!1!1!!1!1」

      ここで、不利舎耕介は、天然流捜査官に手を振って合図をした。横に居るのは、セブンイレブンの不満多羅オーナーだった。

不利舎耕介副委員長 「では、不満オーナーにお聞きします」

      不利舎は、不満オーナーの傍に行って質問した。

不利舎耕介副委員長 「第3の殺人事件があった日、すなわち越中事務局長が殺害された日ですが、その日の夕方、下高井戸店の監視カメラに映っていた人物は、この人ですか?」

      石辺五郎のほうに顔を向けながら聞いた。

不満多羅オーナー 「そうです」

      
不利舎耕介副委員長 「そうですか。その石辺さんを、下高井戸店では、よく見かけるのですか?」

不満多羅オーナー 「いいえ。初めて見ました」

不利舎耕介副委員長 「なるほど。それは不思議ですねえ。私も実際に歩いてみましたが、下高井戸店から桜上水の越中氏のアパートまでは、15分位の距離ですよ」

石辺五郎 「だからなんだ!1!1!!!1!!!!」

不利舎耕介副委員長 「変じゃないですか! なぜ今まで一度も行かなかった下高井戸店に、殺人事件の当日だけ行ったのですか?」

石辺五郎 「そ、そんなこと自分の勝手でねえか!1!1!!1」

不利舎耕介副委員長 「不満オーナーがご覧になった、その日のビデオテープでは、石辺氏は店内でどのように映っていましたか?」

不満多羅オーナー 「はい。雑誌の立ち読みをしていました」

不利舎耕介副委員長 「どのぐらいの時間、立ち読みしていたのでしょうか?」

不満多羅オーナー 「そうですねえ。1時間弱ぐらいです」

不利舎耕介副委員長 「石辺さん。普通1時間も立ち読みする人は、あまりいませんよ。何か他に目的があったのでしょう?」

石辺五郎 「目的てなんのことだかわかんねえけどな!11!1自分は面白えから見てただけでねえか!!1!!111」

   不利舎耕介副委員長 「どんな雑誌を読んでいたのですか?」

石辺五郎 「エロ本見てただけでねえか!111!1」

        不利舎耕介副委員長 「不満オーナーからみて、何か気になることはあったのですか?」

不満多羅オーナー 「はい。雑誌を見ながら、ときどき周りを見回していました。私は万引きかなと思ったぐらいです」

  石辺五郎 「ふざけやがて、自分が万引きなんかするわけねえじやねえか!1!!!1!11!!1」

       不利舎耕介副委員長 「実は、第2の殺人が起きた八幡山の山岡組長のマンションの近くにも、不満オーナーは店を持ってますね」

不満多羅オーナー 「はい。上北沢店です」

         不利舎耕介副委員長 「私は、八幡山の殺人事件当日も、石辺氏が上北沢店に来ているかも知れないと思って、その日のテープを見せてもらいましたが、そっちには映っていませんでした」

石辺五郎 「当たり前でねえか!111 そんなにあちこちで映ってるわけねえじやねえか!11!!!!!1!111」

      不利舎耕介副委員長 「たしかに、そんなに都合よくはいきませんな。しかし、動機があって、愛称の由来、殺人当日の監視カメラの映像。これだけでも、状況証拠として十分なのですよ」

     高名な推理作家でもある不利舎耕介の推理だけに、圧倒的な説得力があった。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 10/25/2010 - 11:50 categories [ ]

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駒の流儀・第33部  第165章

第165章「順番の変更」

 岡目八作税理士は、話が回りくどいという評判もあったようだが、税務の説明は極めて明快で分かり易かった。

不利舎耕介副委員長 「暇名君。途中で悪いが、ちょっといいかね?」

        暇名小五郎 「はい。何でしょう」

 不利舎耕介副委員長 「今の君の説明だが、犯人役と思われる男が将棋大会に出た話や、結婚したい女性のことなど、合同検討会でも聞いたことがないし、いつ、そんなことが分かったのかね?」

    大橋宗雪理事長 「うむ。そう言われれば、そうじゃのお」

不利舎耕介副委員長 「暇名君にしてみれば、頭の中で整理できているのかも知れませんが、我々の側からすれば暇名探偵の頭の中まで見ることは出来ませんので、是非、暇名探偵が探り当てたいきさつも併せてご説明いただきたい」

   湯川慶子委員 「あなたも結構しつこいわね。血液型は何型なの?」

       暇名小五郎 「はは。わかりました。不利舎先生、私はまだ一度も誰が犯人だとは言っておりませんよ」

      ライバルからの申し出だけに、暇名としても邪険に知らぬ顔というわけにもいかなかった。

          暇名小五郎 「或る男の話も、それが誰を想定してのものかや、将棋のライバル関係の話や、同じ女性を巡るトラブルの話なども、すべて推理の過程の中で暇名の推測として語っているのです」

 不利舎耕介副委員長 「うむ。それで」

          暇名小五郎 「私の推理の方法は、細かな事実の積み重ねや、状況、性格、行動、動機などから、合理的に可能性を分析し、仮説を組み立てていくものです」

       長年、行動を共にしてきた温対記者には、暇名探偵が言おうとしていることは、よく理解できた。
 

       暇名小五郎 「すべてが実際に見聞きしたものでも体験したものでもなく、特定可能な人物の状況、性格、行動、動機などを総合的に勘案検討して、結論へと導いていくものであり、今はその過程をお話している段階だと、ご理解下さい」

     暇名小五郎に、低姿勢でこられては、不利舎耕介としても、これ以上の突っ込みは避けた。
      却って評価を下げることを知っている。この辺りが不利舎耕介という男の凄いところであった。

 不利舎耕介副委員長 「うむ。わかった。続けたまえ」

      暇名小五郎 「岡目先生によると、妻と兄弟姉妹ということですが、藁人形茂和社長には、兄弟が3人おりましたが、一番上の兄と弟は既に他界しています。残っているのは、千葉県にいる姉だけです」

 山城寛斎事務局長 「その場合の相続分は、どうなるんやろな?」

岡目八作税理士 「妻の法子さんが4分の3、姉が4分の1です」 

  皆本義経編集長 「4分の1なら、たいしたことないなあ」

       暇名小五郎 「いえいえ、とんでもない。4分の1でも、財産が多いから凄い金額になりますよ」

岡目八作税理士 「はは。我々が、一生遊んで暮らせるほどでしょうねえ」

        皆それぞれに、その金額に思いをめぐらせていた。

喝采賢介委員 「ところで暇名さん。たしか、あなたはこの事件は相続がらみではないと言いませんでしたか?」

      暇名小五郎 「はて? そんなことを言いましたか?」

 今陣孝太郎管理人 「私は、相続に関係ないとは聞いてませんがねえ」

喝采賢介委員 「そうでしたかねえ。聞き間違いかなあ」

   温対記者 「僕が、暇名さんに<もしかして相続がらみの事件なんですかねえ>って聞いたことがあるんですけど、その時暇名さんは<あり得ますね>と答えてくれてます」
 
 喝采賢介委員 「うんうん」

       暇名小五郎 「はは。そうでしたね。私は可能性は十分にあるでしょうけど、五分五分で、まだ何とも言えませんと温対さんに答えたはずです」

      読者のかたも思い出したことであろうが、このとき温対記者は、相続財産が目的なら茂幸さんがどうして殺されたのかと、暇名探偵に疑問を投げかけている。
       その答えが、これからの会話へと続いている。

大吉三郎委員長 「たしかに財産は魅力だが、殺されたのは子の茂幸氏ではないか。資産家の茂和氏を殺害するのならわかるが」

     筒井村重本部長 「おそらく、先に相続人である茂幸氏を殺害してから、次に父親の茂和氏を殺害しようとしたのではないかな。そうすれば、相続の権利者が変わる」

仁歩犯則書記長 「しかし、それなら茂和社長は、とっくに殺されていなければならないはずですよね」

  後呂記者 「でも殺されたのは、山岡組長と越中事務局長です。変ですね」

 大橋宗雪理事長 「うむ。儂も同感じゃ。暇名探偵のとおりなら、なぜ藁人形社長は殺されないのかのお?」

         暇名小五郎 「はい。順序としては筒井さんの指摘どおりです。ですが、犯人は何も茂和社長を殺す必要は無いのです」

大橋宗雪理事長 「ほお。なぜじゃ?」

       暇名小五郎 「そのことは、殺人犯が駒の流儀の順番を変更してまで、殺人を急いだ理由と重なるのです」

 今陣孝太郎管理人 「よく分からないねえ」

    湯川慶子委員 「あなた、頭悪いわねえ。親より先に息子を殺す必要があったということよ」

         暇名小五郎 「本当は犯人としては、怪人60面相の仕業に見せかけるためにも、粛々と駒の流儀書どおりに事を運びたかったのですが、ゆっくり待っていられない状況になってきたのですよ」

丸潮新次郎委員 「犯人が予定したより、流儀書に基づく事件の進行が遅かったということですね」

      暇名小五郎 「まさにその通りです」

筒井村重本部長 「だが、なぜ進行が遅いとまずいのかね?」

        暇名小五郎 「ご存知のように、藁人形社長は1年ほど前から、福井県の脳外科病院に入院していました」

 仁歩犯則書記長 「ほお。そんなに前からですか。息子さんが亡くなったことによる心労だと思ってたけど」

    読者から見ると、なぜみんな藁人形氏の余命がわずかであることを知らないのかと、訝しがるかも知れないが、藁人形社長の病状は、家族と医者のほかは暇名探偵と温対記者しか知らないことだった。

     暇名小五郎 「私は、その病院の最所医師に話を聞くことが出来たのですが、病名や病状など詳しいことは患者の秘密ですので、話すことは控えます」

湯川慶子委員 「それは分かるけど。容態は悪いのね?」

      暇名小五郎 「ええ。先ほども、相続順位のことで説明したように、子と親のどちらが先に亡くなるかによって、誰が相続人になるかが変わってきます」

 仁歩犯則書記長 「なるほど。親のほうが先に亡くなりそうなほどの、病状になったということなのですね」

       暇名小五郎 「そうです。それが流儀書の順番が変わった理由です」

駒の流儀・第33部  第164章

第164章「最大の動機」

 名探偵によると、犯人の動機は1つではなく、もっと多くの要因が重なったものだということだった。

       暇名小五郎 「まず、動機を明らかにするために、殺人者の人物像を確認しておきましょう」

大吉三郎委員長 「うむ。それは大事なことだ」

      暇名小五郎 「犯人は、故猫面忠治氏の新聞配達のアルバイト仲間でした。本名は分かりませんが、友達からは<キョーシロウ>と呼ばれていたのです」

 皆本義経編集長 「重要なポイントだねえ」

        暇名小五郎 「そうなのです。なぜ、その名で呼ばれたのかは、犯人に直結する鍵なのですが、それがどうしても分かりませんでした」

仁歩犯則書記長 「我々も同じです」

       暇名小五郎 「キョーシロウの年齢も、はっきりしていませんが、見た感じでは、忠治氏より年上に見えたそうです。不利舎氏が説明したとおりです」

丸潮新次郎委員 「そうすると、忠治氏が現在生きていれば36歳ということだから、犯人は38歳前後ということになるが」

         暇名小五郎 「はい。私もそのぐらいにみていますが、実際にはもっと上か、あるいは年下ということもあり得ます」

 湯川慶子委員 「そうよね。私なんか、実際より5歳は若く見られるもの」

       自分で言っているので、間違いはないようだ。

  喝采賢介委員 「いいや。10歳は若く見えますなあ」

     こうなると、世辞というよりは詐欺である。

        暇名小五郎 「はは。いずれにしても、50歳代とか20歳代ということは、無いでしょう。35歳から45歳ぐらいまでと思います」

仁歩犯則書記長 「同感です」

  大橋宗雪理事長 「ところで、先ほど犯人には、結婚したいほど惚れた女がいたということじゃが、では、犯人は独身の男ということだのお」

          暇名小五郎 「はい、そうです。そこで、もう1つあるといった動機ですがね、それは<お金>です」

仁歩犯則書記長 「カネ・・ですか」

      暇名小五郎 「はい。お金が動機です。そして、これが最大の動機だとも言えます」

喝采賢介委員 「なるほどお。将棋に恋敵にカネとは、ずいぶん恨まれたものですなあ」

     笑いが起きた。喝采の軽妙な相槌で、雰囲気が和んだ。
   

       暇名小五郎 「藁人形家は、福井地方では有名な資産家です。社長の藁人形茂和氏は、三愛不動産という会社を経営していますが、小浜市やその近郊にも土地などの不動産を、たくさん所有しております」

 不利舎耕介副委員長 「資産家だということは、我々も承知している。だから、なんなのだ?」

       暇名小五郎 「仮に、藁人形社長が亡くなった場合は、遺産は妻の藁人形法子さんと、長男の茂幸氏が相続するはずでした」

不利舎耕介副委員長 「だが、まだ藁人形社長は生きてるぞ」

        暇名小五郎 「はい。そこで、私は、ある機会があって三愛不動産の顧問税理士さんにお会いした時に、相続について、教えてもらったのです」

 山城寛斎事務局長 「さすがは暇名はんやな。転んでもただ起きない人やから」

      また笑いが起こった。関西弁で言われると、何でもないことでも、おかしく聞こえるから不思議だった。
 

      暇名小五郎 「先生。ちょっと手助けお願いしますよ」

岡目八作税理士 「はは、いいですよ。まず、もし茂幸さんが生きていたら、財産は妻の法子さんが2分の1、子の茂幸さんも2分の1相続します」

     暇名探偵に呼ばれて、岡目税理士も会場に来ていた。もし、間違った税法解釈があったら、指摘してくれるように頼まれていたからである。
 

山城寛斎事務局長 「うーん。わしは財産もっとらんから、考えたことも無かったがな」

   湯川慶子委員 「あら。あなた結構貯めこんでるように見えるわよ」

         暇名小五郎 「ははは」

岡目八作税理士 「次に、子の茂幸さんが亡くなったことで、被相続人に両親がいれば、財産は妻の法子さんが3分の2、直系尊属である両親が3分の1ということになります」

  今陣孝太郎管理人 「うむ。難しいものだなあ」

筒井村重本部長 「だが、たしか茂和社長には、両親がいなかったと思うが」

       暇名小五郎 「そうでした。先生、その場合はどうなりますか?」

岡目八作税理士 「妻と、兄弟姉妹ということになります」

駒の流儀・第33部  第163章

第163章「顔見知り」

  暇名小五郎 「私も不利舎先生の真似をして、一連の3件の殺人事件を、もう一度考察してみましょう」

湯川慶子委員 「そうね。そのほうが、事件の全体像がつかめるわよね」

  喝采賢介委員 「そうそう。湯川さんの言うとおりですなぁ」

       暇名小五郎 「まず、第1と第2の事件では、犯人は被害者と酒を酌み交わしています。少なくとも、顔見知りであったわけです」
 

山城寛斎事務局長 「それは確かやろうな。親しいかどうかは分かりまへんが、知り合いではあったちゆことや」

      関西将棋連盟の事務局長も、駆けつけてきていた。

 丸潮新次郎委員 「うむ。山城さんの指摘のように、親密度が争点になりますね。両方の事件の場合、2人だけで酒を飲んでいることから、かなり親しい付き合いだったと考えるのが妥当でしょうなあ」

       暇名小五郎 「ええ。その可能性は極めて高いでしょう。しかしですね、そんなに親しくなくても、2人だけで酒を飲む場合もあり得ます」

仁歩犯則書記長 「たとえば、どんな場合でしょうか?」

      暇名小五郎 「つまりですね、2人きりのほうが都合がいいとか、他の人がいては困るとかいう場合です」

 喝采賢介委員 「うんうん」

仁歩犯則書記長 「それはこういうことですか。それほど親しい間柄ではないが、聞かれては困るような重要な話があったとか」

       暇名小五郎 「はい。そうです」

大吉三郎委員長 「聞かれたら困るのは、被害者のほうかね?」

        暇名小五郎 「おそらく、両者だったと思います。どちらの事件もです」

大橋宗雪理事長 「ほお。どちらの事件もだとすると、藁人形氏も山岡組長も、お互いあるいは、3人が知っている人物だとも考えられるがのお」
 
      暇名小五郎 「いいえ。藁人形氏と山岡組長は、面識はないでしょう。知らない間柄です」

  筒井村重本部長 「ふーむ。複雑ですなあ」
 
今陣孝太郎管理人 「第3の越中氏殺しでは、犯人は一緒に酒を飲んでいませんね。留守中に侵入して、毒を入れておいたそうですが、そうすると知り合いかどうかは判りませんね」

         暇名小五郎 「ご指摘の通りです。それについては、順を追って説明するつもりです」

    暇名小五郎 「さて、第1の藁人形茂幸氏の殺害ですが、動機はいったい何だったのでしょうか」

喝采賢介委員 「それそれ」

       暇名小五郎 「ご承知のように、藁人形氏は、アマ将棋界では有名な強豪であり、彼のせいで代表になれなかったり、優勝を逃したりして、個人的に憎しみをもっていた人は、多勢いたはずです」

 葱巣鴨輔 「俺のこと言ってるのかなあ・・・」

湯川慶子委員 「だって、それは負けたほうが弱いんだから、仕方ないわよ。そんなことで憎むなんて男らしくないわね」

  喝采賢介委員 「うんうん。そのとおりですなあ」

        暇名小五郎 「はは。湯川さんに、先に言われてしまいましたが、将棋の勝ち負けが理由で殺されるとは、どうしても考えられませんよ。何か他に理由があったはずです」

山城寛斎事務局長 「たとえば、どうゆうことが考えられるんやろなあ?」

        暇名小五郎 「ここに来ておられる葱巣鴨輔氏のことではありませんが、ある人物がいて、彼もまたアマチュアとしては相当に強かったのですが、いつも藁人形氏が彼の前に立ちはだかっていたのです。どんな大会でも、決勝や準決勝で負け続けたのです」

 大橋宗雪理事長 「うむ。目の前の壁じゃのお」
 

         暇名小五郎 「はい。大きな壁ですが、それだけなら自分が弱いので仕方が無いし、我慢もできたのですが、どうしても許せないことが起きたのです」

湯川慶子委員 「なに?」

      暇名小五郎 「犯人が結婚したいとまで好きになった女性を、藁人形氏が奪ったことです。そのことが、憎しみに拍車を掛けたのですよ」

 不利舎耕介副委員長 「だが、女を取られたぐらいで殺しはしないと言ったのは、暇名君ではないか」

        暇名小五郎 「はい。ですが、理由が重なった場合には、恨みや憎しみが倍増して、殺しに発展するというケースは十分にあり得ます」

寅金邪鬼警部 「それは、暇名さんの言うとおりだ。むしろそういうケースが多いし、一般的だな」

       
       鬼警部が、暇名探偵の説を補足してくれた。

今陣孝太郎管理人 「なるほどねえ。憎い理由が重なってくると、憎さが倍増して、殺人事件にまで発展したということか」

  湯川慶子委員 「それなら分かるわ。私だって、惚れた男を取られたら、殺すかも知れないわね」

    誰も冗談とは思えないほど、湯川女史の顔は、殺気立っていた。女は、他人のことでも自分のこととして、同化してしまうのが恐ろしい。

      暇名小五郎 「そして、動機はそれだけではなかったのです」 

 

駒の流儀・第33部  第162章

第162章「ほえる犬は噛まない」

 不利舎耕介の鋭い追及に、さしもの無頼漢もタジタジだった。直接的な証拠は無いものの、状況は石辺五郎に不利だった。

大橋宗雪理事長 「うむ。いままで行ったことがない下高井戸店で見つかるとは、偶然にしても妙じゃのお」

  湯川慶子委員 「でも、タクシーの運転手さんなのだから、どこの店で見かけても不思議ではないわよねえ」

   喝采賢介委員 「そうそう。湯川さんのの言うとおりだなぁ」

丸潮新次郎委員 「たしかに怪しいけど、何とも言えないね」

       不利舎説が強まる中、一方では、石辺犯人説を訝しがる声も出てきた。

        暇名小五郎 「不利舎さん。私は、石辺氏は殺人犯では無いと思っています」

     先ほどから、不利舎耕介の推理を熱心に傾聴していた暇名小五郎が、ようやく腰を上げた。

不利舎耕介副委員長 「ほお。名探偵さんには、私の推理はお気に召さないようだが、一体なぜだね?」

      暇名小五郎の突然の参戦に、不利舎耕介は不快感を隠さなかった。

       暇名小五郎 「この事件の犯人像とは、かけ離れているからですよ」

筒井村重本部長 「そうかな。いかにも凶暴な男で、殺人犯であっても不思議はないが・・」

  喝采賢介委員 「うんうん。たしかに言えますなぁ」

        暇名小五郎 「はは。吠える犬は噛みませんよ」

      いかにも暇名らしい、洒落た比喩である。この人を小ばかにしたような台詞が、ますます不利舎の怒りを買った。

不利舎耕介副委員長 「石辺が違うというなら、根拠を言え」

         暇名小五郎 「石辺さんには、動機がありません」

不利舎耕介副委員長 「動機は、さっき説明したと思うが」

       暇名小五郎 「いいえ。殺人の動機としては弱すぎます。片思いの女性を取られたぐらいで、人は殺しませんよ」

 不利舎耕介副委員長 「そんなことは限らないじゃないか。人によっては、あり得ることだ」

         暇名小五郎 「勿論、絶対無いとは言いません。それに、<キョーシロウ>の意味は、不利舎さんの推測とは全くかけ離れたものなのですから」

 湯川慶子委員 「自信たっぷりね」

       暇名小五郎 「不利舎先生。もし、よろしければ、私に謎解きの機会を下さい。そうしたら、順を追って、この事件の全容を解明したいと思います」

不利舎耕介副委員長 「ほお、いいだろう。そこまで言うのならやってみたまえ。但し、恥をかかないようにな」

    ついに、日本一の名探偵暇名小五郎が、21世紀最大のミステリーに挑む。
      果たして、冷酷かつ残虐な連続殺人鬼の素顔を暴くことができるのであろうか。

      暇名小五郎 「謎解きに入る前に、石辺さんにお聞きしますが、下高井戸のセブンイレブンで読んでいた本は、たしか成人向けの雑誌だと言いましたよね」

石辺五郎 「ああ!!1 いんでねえか、エロ本見てたて!11!1!1」

      暇名小五郎 「もちろん構いません。ただ、初台の行方8段宅での石辺さんの5分間の謎を、気にしている人が多いのでお聞きしたのです」

石辺五郎 「なんだそんなことゆてんのか!1!111」

      暇名小五郎 「はい。あの時、行方宅に置いてあった成人向け雑誌を読んでいたんですよね?」

石辺五郎 「ああ。お前よくわかてんでねえか!1!!1!1 読んでたんでなくて、いい女のヌード写真が載ってたんで、ちよつとだけ眺めてただけでねえか!11!11!1」

 湯川慶子委員 「そういうことだったの? 男ってしょうがないわねえ」

       暇名小五郎 「はは。おかげで、ずいぶん悩まされましたよ」

不利舎耕介副委員長 「うむ。余計な手間隙が掛かったな」

      暇名小五郎 「さて、この連続殺人事件の出発点は、秋田県上小阿仁村であることは、不利舎氏の指摘するとおりです。その村の猫面家で盗まれた流儀書が、後に殺人事件を引き起こすきっかけとなったのも、皆さんご承知のところです」

喝采賢介委員 「うんうん」

      暇名小五郎 「そして、猫面忠治氏の遊び仲間のうち、ひとりは怪人60面相でした。もう1人の少年こそ、狂気の殺人鬼であることも、不利舎氏によって明らかにされました」

大橋宗雪理事長 「うむ。ここまでは、同じだのお」

        暇名小五郎 「問題なのは、3つの殺人事件のうち、どれが本命で、どれが付け足しの殺人だったのかによって、犯人像は全く違うものになってしまうということです」

今陣孝太郎管理人 「そのとおりだな。順番どおりではないのか?」

       暇名小五郎 「普通は順番どおりです。しかし、この事件は通り魔殺人や、快楽殺人のような性質のものではなく、練りに練った計画殺人なのです」

       名探偵は、あくまでも自信たっぷりに断言した。

丸潮新次郎委員 「たしかに衝動的な殺人なら、順番どおりということだなあ」

       暇名小五郎 「だとすれば、3番目の殺人が本命で、その前の殺人は、本命をかき消すためのダミーということも考えられます」

喝采賢介委員 「おとり殺人ですな」

   仁歩犯則書記長 「なるほど。どの事件が本命なのかを決めることは、重大な意味がありますなあ」

         暇名小五郎 「第1の殺人があった後、山岡組長は福井県の脳外科病院を。越中事務局長は、秋田県の新聞販売店を、それぞれ探っている途中で、不幸な結果に遭遇しました」

 大吉三郎委員長 「それは、どういう意味を持つのかね?」

        暇名小五郎 「はい。殺人鬼にとって、この2人の行動は、大変危険なものだったのです。つまり、山岡組長は殺害動機を、越中事務局長は殺人者の素顔に、それぞれ迫るところだったからです」

仁歩犯則書記長 「どっちが分かっても、犯人に直結しますね」

 湯川慶子委員 「でも、そういうことなら、やはり本命は、最初の殺人ということにならないの?」

      暇名小五郎 「仰るとおりです。この順番をどう考えるかが、最も重要で、最も難解なところでした。結論から申し上げると、殺人は順番どおりに実行されたのです」

大橋宗雪理事長 「うむ。やはり藁人形氏殺害が、本当の目的だったということかのお?」

    暇名小五郎 「そうです。では、藁人形氏は何故、殺されたのでしょうか?」

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