駒の流儀・第30部 追跡編

第147章「監視テープ」

   不満オーナーは、知ってか知らずか分からぬが、話がさっぱり要領を得なかった。まるで、NHKの野球解説者のMのようである。
    現役時代は、マサカリ投法で切れ味鋭い投球を見せてくれたが、解説者になってからは、国語能力の欠如ぶりを露呈してしまい、大投手だっただけに残念である。

不満多羅オーナー 「私は、ご存知のように都内に8店舗持っています。毎月末頃に各店舗の監視ビデオを点検しに行くんです。なにしろコンビニに限らず、スーパーとか、書店もそうだし、最近では100円ショップとかもそうらしいですけど、万引きが多いものですから」

     暇名小五郎 「そうでしょうねえ」

 不満多羅オーナー 「一般の人からみると、万引きは、まあ、万引きだけでなくあらゆる不正は、ここだけの話ですけどね、お客さんだけとは限らないんですよ」

              オーナーは、声を低くした。

  温対記者 「内部の人も、監視してるということですか?」

         オーナーは、軽く頷いてみせた。

不満多羅オーナー 「それで、必ずチェックしてから保存する必要があるものと、尤も、保存といってもせいぜい半年ぐらいで、長くても1年も保存するものは、そんなにたくさんは無いんですけどね、不要なものとに仕分けして、不要なものを消して、また使います」

     いったい何を言いたいのか、早く本題に入って欲しかった。

不満多羅オーナー 「その際、下高井戸店のビデオテープをチェックしていたら、見たことのある人が映っていたんです。日付を見ると、丁度桜上水のアパートで、人殺しがあった日でした」

      つまり、越中事務局長が殺害された日である。

         暇名小五郎 「ほお。誰が映っていたのですか?」

不満多羅オーナー 「今から再生しますので、ご自分の目で確かめてくれますか?」

      オーナーは、テープをビデオデッキに入れて、再生ボタンを押した。

不満多羅オーナー 「ほれ、ここ。この人です」

  温対記者 「あ! 暇名さん、あいつですよ」

      暇名小五郎 「ああ、ほんとだ。たしかに彼ですね」

      テープには、特徴のある顔が映っていた。

 温対記者 「この人は、下高井戸店には、よく来るんです か?」

不満多羅オーナー 「いいえ。ご承知のように初台店には、代々木自動車も近くてですね、便利なものですから、よく来てくれてますが、下高井戸店で見かけたのは、このときが初めてですよ」

   温対記者 「自宅がこの近くなんですかねえ」

 不満多羅オーナー 「違うと思います。それなら何回でも来るはずですから」

    温対記者 「そうか。たしかにそうですよねえ」

         暇名小五郎 「しかし、彼の職業柄、どこで見かけても不思議ではないですけどね」

 温対記者 「そうですよ。それだけなら別に、問題ないんじゃないですか?」

不満多羅オーナー 「それはそうですけど、初台店でも騒ぎになったし、丁度殺人事件があった日の、すぐ近くの出来事ですからねえ」

      暇名小五郎 「そうですね。偶然にしてはちょっとね。下高井戸店から、越中事務局長の桜上水のアパートは、そんなに近いんですか?」

不満多羅オーナー 「ええ。私は毎朝、健康のために散歩をしてるんですが、犬がいるんですけど犬の運動も兼ねて、桜上水のほうまで行くこともありましてね、私も犬も太りすぎなんで・・・・・」

    温対記者 「それで、近いんですか、遠いんですか?」

不満多羅オーナー 「ですから、歩いても15分位です」

       それを早く言えばいい。

      暇名小五郎 「雑誌を見てますね」

        暇名は、テープをもう一度、見直してみた。

不満多羅オーナー 「気の荒い人なので、雑誌を見て、おとなしくしていてくれるのが、一番助かりますよ」

       暇名は、テープの画面を何度も凝視した。

     暇名小五郎 「温対さん。気づきませんか?」

温対記者 「え、何がですか?」

      暇名探偵に問いかけられても、温対記者には咄嗟に何のことか分からなかった。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 10/04/2010 - 15:06 categories [ ]

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駒の流儀・第30部  第151章

第151章「隠れ蓑」

   ミス・マープルの弁舌は爽やかで、とりわけ男性陣の心を捉えていた。美人は無条件で得なのである。

    湯川慶子委員 「この忠治君の友人2人のうちのひとりが、後の怪人60面相よ」

大吉三郎委員長 「そのとき、<ゆきちゃん>と呼ばれていた少年ですね」

       名人審議委員会の代表が、相槌を打った。

    湯川慶子委員 「はい。そのことについては、順を追って解明していきます。まず、この事件は、駒の流儀書に書かれている<心得>をもとに、歩から始まって働きの強い駒へと順番に、犯罪が進められているの」

 関根銀四郎元総裁 「そのとおりじゃな」

      89歳の関根元総裁も、会場に来ていた。背筋を伸ばした姿勢には、衰えぬ貫禄が備わっていた。

    湯川慶子委員 「歩→香→桂→銀→金というように、順当に盗難が行われたの。ところが、次に角になるはずが、いきなり王になった」

丸潮新次郎委員 「そうでしたね」

       湯川慶子委員 「このことについては、後で暇名探偵が解明してくれるはずですが、簡単に言えば、犯罪者がここで入れ替わったということなの」

喝采賢介委員 「そう。犯罪の質が違ってましたなぁ」

     湯川慶子委員 「さて、結果的に7つ目の盗難は阻止できましたが、次の7人の棋士が狙われたました」

 伊加訓生代理 「屋敷9段、中田8段、山崎7段、村山5段、木村8段、三浦8段そして渡辺竜王です」

     要領よく、湯川女史に代わって伊加代理が7人の棋士を読み上げてくれた。

     湯川慶子委員 「私たち名人審議委員会では、この7人に共通した何かが必ずあるはずだと、確信を持っていました」

皆本義経編集長 「我々もそうでした」

       湯川慶子委員 「そして、出した答えが将棋大賞の<新人賞>だったのよ。これこそが唯一の共通点だと、私たちは小躍りしたのです」

  喝采賢介委員 「そうそう」

         徹底して、湯川女史には逆らわない方針のようだ。

    湯川慶子委員 「ところが困ったことに、三浦8段だけが<新人賞>を受賞していないのよ。ここは、対戦相手の高橋9段が被害者にならなければ、パズルが完成しないの」

筒井村重本部長 「そうでした。そこが、我々も頭を悩ました部分です」

      関東連合会の頭脳ともいえる筒井にしても、解けないパズルだったようだ。

      湯川慶子委員 「さらに、もうひとつの手掛かりとして、その少年が子供の頃<ゆきちゃん>と呼ばれていたことなの」

 不利舎耕介副委員長 「はい。なぜ、仲間からそう呼ばれていたのか、推測が重なりましたなぁ。湯川さんが一番熱心でした」

     湯川慶子委員 「そうね。不利舎さんや、丸潮さんたちと、いろいろ議論したわね。名前の上か下に<ゆき>という言葉がつくか、あるいは顔が芸能人や有名人の誰かに似ているとか、いろんな考え方が出来ました」

大橋宗雪理事長 「うむ。普通に考えれば、やはり、名前の一部だろうのお」

     湯川慶子委員 「はい。仰るとおりよ。私たちも試行錯誤の結果、名前に<ゆき>がつく人物ということで結論づけました」

後呂記者 「亡くなった越中事務局長が、12人の候補者を探してくれましたよね」

    湯川慶子委員 「ええ、そうよ。伊加さん、お願い」

     あらかじめ用意していたようで、伊加訓生がすらすらと、12人の候補者の名前を言った。

      森内利之9段、飯田裕行6段、大内延幸9段
           屋敷伸幸9段、三浦宏行8段、植山悦雪7段

       畠山成行7段、山崎貴之7段、窪田義之6段             高野秀之5段、中尾俊之5段、豊島雅之5段

伊加訓生代理 「以上の12名です」  

       湯川慶子委員 「この中から、年齢、状況などから7人が外されて、結局、森内、畠山、窪田、高野、中尾の5人が残ったわけ」

 仁歩犯則書記長 「うむ。ところが、その5人もアリバイが成立して、最後は除外されたのでしたね」

       湯川慶子委員 「はい。そのとおりよ。それで、いったん振り出しに戻ってしまったわけなの」

大橋宗雪理事長 「儂も、それで困ったのじゃよ」

      湯川慶子委員 「そこで、私はもう一度考えてみたの」

     途中から椅子に座りながら話していたミス・マープルだったが、足を組み替えたときに、ちらっと奧の白いものが見えたような気がした。
      温対記者や後呂記者の、目が点になったのは当然だが、何食わぬ顔で、誰よりも視線が素早く動いたのが、米中会長のようにもみえた。

      湯川慶子委員 「最初の12人の中で、一連の事件の被害者だからという理由で除外したという棋士が、3人おりました。流石にうまい隠れ蓑だったわね。この被害者を装った者の中に、犯人がいたのですから」  

駒の流儀・第30部  第150章

第150章「公開捜査」

 公開捜査の当日となった。あいにくの雨だったが、千駄ヶ谷の東京将棋会館は、朝早くから警察のパトカーが、数台停まっていて、いやがうえにも緊張感が増してきていた。

  朝10時。
    関係者が全員集まった。この中には、駒音探偵団の勇姿もあった。
    まず始めに、進行役として金銀捜査一課長が壇上に立った。

金銀銅鉄一課長 「私は、本日の公開捜査を指揮監督する警視庁捜査一課の金銀と申します。この会場の中と、会館の周りには警察官が配備しており、危険はありません。冷静に行動していただき、何があっても警察の指示に従ってくださるようにお願いいたします。では、これより赤外線警視総監が挨拶させていただきます」

     金銀課長と交替して、赤外線警視総監が登壇した。

 赤外線透警視総監 「皆様、朝早くからご足労頂きまして、恐縮であります。事件の解決のためには、やむを得ない方法だとご理解願います」

     2階の道場には、米中会長を筆頭にプロ棋士たちも多勢駆けつけてきていた。
      一般の将棋フアンは、立ち入り禁止である。

赤外線透警視総監 「只今から、怪人60面相による盗難事件、及び連続殺人事件の公開捜査を行います。なぜ、このような公開捜査を同時に行うのかは、次第に解かってきますが、ひとつ言えることは、怪人60面相の事件が起きなくても、連続殺人事件は起こったはずです」

     300人以上集まっているが、物音ひとつしなかった。

 赤外線透警視総監 「しかし、連続殺人犯は、先に起きた一連の盗難事件を利用し、自身の犯行をその中に紛れ込まそうとしました。それは、この2人の犯罪者の出発点が、同じところにあったからです」

  大橋宗雪理事長 「質問をしてもよろしいかな?」

関東連合会の、大橋理事長がマイイクを持った。

金銀銅鉄一課長 「どうぞ。疑問や質問があれば、いつでも結構です」

    大橋宗雪理事長 「では、両者は知り合いということかのお?」

 赤外線透警視総監 「正確には、知り合いではありません。今、この場所で顔を合わせても、お互い気がつかないはずです。というより、会ったことはないと思います」

      大橋宗雪理事長 「ほお。それでも、両者の出発点が一緒とは、興味深いのお」

赤外線透警視総監 「いずれにしても、公開捜査の進行状況に合わせて、真実が明らかになります。どうか、最後までご協力をお願い申し上げます」

     ここで赤外線警視は、暇名小五郎と温対記者を紹介してから、後はこの2人が事件の謎解きをすると言って、退いた。

    暇名小五郎 「では、僭越ですが、私が怪人60面相の正体に迫りますので、疑問点や質問のある方は、遠慮なく発言してくださって結構です」

湯川慶子委員 「ちょっと待っていただけます?」

急に女性の声がしたので、皆いっせいに声の主を探した。

湯川慶子委員 「怪人60面相を追跡していたのは、暇名探偵だけではありませんわ。私たちも怪人を追いかけていました」

   喝采賢介委員 「そうでしたなあ」

 湯川慶子委員 「私なりに、その正体に迫ったつもりなの。できれば、先に私に謎解きを譲っていただけないかしら?」

  美人に頼まれて、断る男はいない。

      暇名小五郎 「私は構いません。金銀課長、よろしいでしょうか?」

金銀銅鉄一課長 「わかりました。我々の目的は、あくまでも犯罪者の追求です。誰が暴いてもよいことですので、是非湯川女史にお願いします」

 湯川慶子委員 「有難うございます」

      名人審議委員会の委員でもある女流アマ名人は、姿勢良く、特別に設けられた壇上に上がった。
 

湯川慶子委員 「では、怪人60面相の正体ですが、現役のプロ棋士だと申し上げますわ」

        ある程度、予想していたとはいえ、実際にプロ棋士だと伝えられて、衝撃が走った。

 湯川慶子委員 「駒の流儀書は、実際に存在しておりました。実物を見ることはできませんでしたが、秋田県の上小阿仁村というところの民家に、長い間所蔵されていました」

    青野輝一常務理事 「その間、何処に置いてあったのですか?」

湯川慶子委員 「その家の敷地内の蔵の中なの。こちらで言えば物置ということね。だから、ほとんど誰もその存在にさえ気がつかなかったわけ」

     仁歩犯則書記長 「その家の人は、当然知ってますよね」

湯川慶子委員 「はい。そういうものが蔵の中にあることは知っていましたけど、どれだけの価値があり、どれほど貴重なものなのかは知らなかったようね」

    仁歩犯則書記長 「なるほど。そうすると、あまり知っている人はいなくて、ごく限られた人数ということになる」

 湯川慶子委員 「そうね。そして、その巻物はその家の長男が、友人と蔵の中に入って遊んでいた時に、存在を知られたのだと思うの」

    大橋宗雪理事長 「友人は、2人いたようだが、それぞれ面識はないということかの?」

湯川慶子委員 「ええ、そうよ。片方とは将棋の仲間、もうひとりはバイトの仲間だったの」

       堂々とした受け答えは、本物のミス・マープルのようだった。
 

駒の流儀・第30部  第149章

第149章「嵐の前」

 まだ警視総監室には、緊張感が漂っていた。

世渡甚六三課長 「暇名さん、真犯人の見当がついたということかね?」

       暇名小五郎 「おぼろげながらですが・・」

 赤外線透警視総監 「怪人60面相のほうかね、それとも殺人犯のほうか?」

        暇名小五郎 「両方を、今度の公開捜査で、自白にもっていこうと思います」

              きっぱりと言い切った。

金銀銅鉄一課長 「つまり、殺人犯と盗難犯は別人だと言うのだね」

     暇名小五郎 「そのとおりです。お互いの犯罪者は、それぞれを知っていながら、知らないのです」

赤外線透警視総監 「うむ。暇名さんは、いつもながら難しいことを言う」

    それでも、もう慣れているというように、赤外線警視は笑った。

世渡甚六三課長 「つまり、どういうことなのか。我々にも聞かせて欲しいが」

      暇名小五郎 「はい。現在までの調査の内容について、今からお話しますが、その前に警視総監にお願いがあります」

     暇名は、赤外線のほうを向いて、声を改めた。

赤外線透警視総監 「うむ。なんだね?」

      暇名小五郎 「今度の公開捜査については、ここにいるお三方以外は、一切内容を伏せておいていただきたいのです」

 赤外線透警視総監 「それは、どういうことかな? 担当の刑事たちにも伏せておけということなのか?」

       暇名小五郎 「はい。できればそうして下さい。刑事さんたちが信用できないということではなく、公開捜査当日まで極秘にしておきたいのです。何かの弾みで、外に洩れると大変なことになりますので」

世渡甚六三課長 「事前に分かると、犯人が逃亡する恐れがあるということなのか?」

     暇名小五郎 「その通りです。ですから、念には念を入れておきたいのです」

 金銀銅鉄一課長 「では、報道関係にも秘密にしておく必要があるね」

      暇名小五郎 「はい。そうしていただければ助かります」

赤外線透警視総監 「分かった。暇名さんの言うとおりにします。課長たちも、そのつもりで準備をするように」

       公開捜査は、準備万端整ってきた。

    一方、四谷の週刊ポテト社では、温対記者から公開捜査の報せを受けた皆本編集長が、暇名探偵の到着を待っていた。

   暇名小五郎 「すみません。遅くなって。だいぶ待ちましたか?」
 

     警視庁で幹部たちとの打ち合わせを終えた暇名が、急ぎ足で駆けつけてきた。

皆本義経編集長 「暇名さん、いよいよですね。警察のほうは、どうでしたか?」

         将棋担当の温対と後呂も待っていた。
 

    暇名小五郎 「了承してくれました。当日まで伏せていてくれるということで、警視総監が約束してくれましたので、大丈夫です」

皆本義経編集長 「それは良かった。我々のほうからも洩れないようにしないと、今までの苦労が水の泡だからな」

  温対記者 「そうですよ。僕らは大変だったんですから」

皆本義経編集長 「ははは。分かってるさ。心配するな」

     今日の編集長は、機嫌が良かった。

後呂記者 「それで暇名さん。場所と時間は決まったんですか?」

      暇名小五郎 「ええ。場所は千駄ヶ谷の将棋会館です。3日後の朝10時からやります」

        舞台が整ったようだ。

皆本義経編集長 「将棋会館だと、2階の道場ですか?」

       暇名小五郎 「はい。平日ですが、その日だけは臨時休業にしてもらいます」

 皆本義経編集長 「だけど、あの妖怪が承知するかね?」

       暇名小五郎 「大丈夫です。もう米中会長の許可も頂いてます」

        まったく、暇名探偵のやることには、そつが無かった。

皆本義経編集長 「なるほど。じゃあ、それまで綿密な打ち合わせをしておきましょうか」

     いよいよ、魔界奇談名物の公開捜査が開始される。
      満を持して待っていた名人審議委員会の真価が発揮されるのか、それとも名探偵暇名小五郎の推理が冴え渡るのか。

     怪人60面相を名乗る棋士は、いったい誰なのか?
そして、恐るべき連続殺人鬼の正体は?

白熱の攻防戦が繰り広げられようとしている東京将棋会館は、嵐の前の静けさであった。

駒の流儀・第30部  第148章

第148章「画面の真実」

    暇名小五郎 「はは。あとで話します。ところで、不満さん、ここの店は八幡山にも近いですよね」

不満多羅オーナー 「ええ。隣りの駅ですから」

        暇名小五郎 「その八幡山のマンションでも、殺人事件があったことは、ご存知ですか?」

      山岡鉄収組長の殺害事件のことだった。

不満多羅オーナー 「勿論です。やっぱり、すぐ近くなので噂になりましたよ。それでなくても、このあたりは、あまり事件など起きないところなので、それでもまったく無いわけではないですけど、それが殺人事件が起きたものですからね、近所の・・・」

        暇名小五郎 「その事件があった日の、監視テープは見ましたか?」

       まだ続いているオーナーの言葉を遮って、暇名が聞いた。

不満多羅オーナー 「ええ、見てます。あの人は映ってませんでしたが」

      暇名小五郎 「まだ保存してあれば、見たいのですが」

不満多羅オーナー 「いいですよ。どうぞ。今、再生します」

     こんどは、上北沢店のビデオテープを再生してくれた。不満オーナーは、話は回りくどくて長いが、人間性はおっとりとしていて、面倒見の良い好人物の印象を受けた。

 温対記者 「暇名さん。何を探してるんですか?」

     暇名は、問いかけには答えず、じっとビデオの画面を見つめていた。

不満多羅オーナー 「何か分かりましたか?」

      ちょつと不安そうに、不満オーナーが尋ねた。

        暇名小五郎 「はい。いろいろ参考になりました。オーナーさん、この上北沢店と下高井戸店の2本のテープを、お借りしてもいいでしょうか?」

不満多羅オーナー 「どうぞ。使い古しのテープですから、返さなくても結構ですよ」

     コンビニで使用するビデオテープは、市販のビデオを買ってきて、3倍モードで繰り返し使用する。
      そのため、磨耗して償却する期間も短かった。

   暇名小五郎 「恐縮です。では、遠慮なく」

      現在のコンビニの店舗は、デジタル化されていて、アナログ系のVHSを使用することはなくなっているが、不満オーナーの店舗に関しては、未だにVHSが使用されていた。

不満多羅オーナー 「いいえ。役に立ってよかったですよ。私も暇名さんに言おうか、警察に」

     温対記者 「じゃあ、どうも有難うございました」
    

       店を出て、帰りは京王線に乗った。

  
   暇名小五郎 「温対さん。さっきのビデオテープについては、あとでゆっくり説明します。私は、これから警視庁に行って、公開捜査のお願いをしてきます」

温対記者 「そうですか。やっと公開捜査ですねえ」

     暇名小五郎 「はい。温対さんは、会社に戻って皆本さんに公開捜査の話をして、準備を頼んでください」

 温対記者 「分かりました。場所はどこでやりますか?」

     暇名小五郎 「時間と場所は、警察で打ち合わせをしてから決めますので、連絡を待っていてください」

温対記者 「了解です。でも、わくわくしますねえ。また公開捜査をすると思うと」

      暇名小五郎 「はは。うまくいくといいですが」

温対記者 「暇名さんなら大丈夫ですよ。必ず成功します」

       暇名小五郎 「温対さんも、協力してください。なんとしても真犯人を、あぶりだしてみせますよ」

     新宿駅に着いて、2人は分かれた。
      霞ヶ関は、地下鉄丸ノ内線だったが、暇名小五郎は、ふと思いついたことがあって、上野へ向った。

       上野からJRの常磐線に乗り換えた。
      特別快速で、千葉県松戸市まで行き、下車した。
    

      暇名は、松戸市では、何事か確認すると再び上野へ戻って来た。
       その足で、休む間もなく霞ヶ関の警視庁へと直行した。事前に電話をしておいたので、すぐ警視総監室に案内された。

赤外線透警視総監 「暇名さん、公開捜査を頼みたいんだって?」

      いつものように、穏やかな表情の赤外線が、暇名探偵の顔を見るなり聞いた。

   暇名小五郎 「はい。そのお願いで来ました」

      総監室では、金銀捜査一課長と世渡捜査三課長が同席していた。
       暇名小五郎が、犯人の牙城に迫ったことを感じたのか、総監室は緊迫した雰囲気に包まれていた。
 

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