駒の流儀・第24部

第117章「名古屋へ」

暇名小五郎 「越中氏は、旅行から帰ってくるとすぐ、亡くなわれたわけですが、福井県と秋田県には何しに行ったか分かりますか?」

    伊加訓生職員 「いいえ、わかりません。こんなことなら聞いておくべきでした」

      伊加は、申し訳ないという顔をしてみせた。

暇名小五郎 「福井県はともかく、秋田県は何しに行ったのか、どんなことでもいいですが、心当たりはありませんか?」

     伊加は、何かを思い出すように考え込んでいた。

伊加訓生職員 「そうですねえ。前に駒の流儀書のことを聞くために、名古屋へ行ったことがありましたけど」

     暇名小五郎 「名古屋? ああ、関根総裁のとこですか。たしか、週刊ポテト社の後呂記者と一緒に行ったということは聞いていますよ」

伊加訓生職員 「はい、その関根銀四郎という人を訪ねると言って出かけました。後呂君も一緒でしたね」

    暇名小五郎 「その時は、後呂さんから、なにも収穫が無かったという報告を受けていたので、私もそのままになってしまっていたのですが・・・」

伊加訓生職員 「そうでしたか。その後、事務局長は1人で、もう一度関根さんに会いに行ってます」

    暇名小五郎 「ほお。2度も訪ねてるのですか・・・。そのことを後呂記者は知っているのですか?」

伊加訓生職員 「たぶん知らないはずです。二度目は単独行動だと思います。名古屋から帰ってきて、すぐ秋田県に行きました」

     暇名小五郎 「なるほど。で、秋田県のどこへ行ったのでしょうか?」

伊加訓生職員 「すみません。そこまでは言いませんでした」

       頭をかきながら、伊加は何かを思い出した。

伊加訓生職員 「そういえば、関根さんのところにいるときに、事務局長から電話で、秋田県の村について問い合わせがありました」

      暇名小五郎 「どういうことでしょう?」

伊加訓生職員 「はい。秋田県の村を、全部調べて教えてくれと言われて、調べてから連絡しました」

    暇名小五郎 「ほお。それで、何村あったのですか?」

伊加訓生職員 「意外と少なくて、3村だけでした。これがそうです」

      伊加は、机の引出からメモをだして見せてくれた。

     <大潟村、上小阿仁村、東成瀬村>

暇名小五郎 「分かりました。どうも有難うございました」

     又来るかも知れないですがと、言い残して、暇名探偵は将棋会館を出てきた。

  暇名小五郎は、温対記者に電話をした。
   これから名古屋へ行くと誘いをかけると、東京駅まで飛んできた。

温対記者 「暇名さん。名古屋というと、関根総裁を思い出しますけど・・」

    暇名小五郎 「はは。その関根さんに会いに行くんですよ」

温対記者 「あ、やっぱり。 それで、何しに行くんですか?」

    暇名小五郎 「私も、よく分からないんですよ。でも、名古屋には何かがあります」

      暇名探偵は、越中事務局長が名古屋の関根銀四郎氏を訪ねてから、秋田県へ向ったことなどを説明した。

温対記者 「へえ。そういえば思い出しました。うちの後呂記者が、越中さんと名古屋へ行ったはずです」

    暇名小五郎 「ええ。そのことは私も聞いています」

温対記者 「その時は、関根さんが子供の時に駒の流儀書を見た記憶があるが、よく覚えていないということで、あまり参考になる話は無かったと聞いてたけど・・・」

      暇名小五郎 「ええ! 子供の時に見たですって?」

温対記者 「はい。なんか拙かったですか?」

    暇名小五郎 「なにを言ってるんですか! どうして私に知らせてくれなかったんですか!」

温対記者 「そ、そんな大事なことだったんですか?」

     暇名小五郎 「当たり前じゃないですか。もっと前に教えてくれてたら、越中さんは死ななくてすんだかも知れませんよ」

       あまりの剣幕に、温対も事の重大さに気づいた。

温対記者 「す、すみません。後呂くんも、なんにも収穫が無かったと言うもんですから・・」

     暇名小五郎 「私もつい興奮して、すみませんでした。私は、越中さんのその後の足取りを掴みに行って来るつもりです」
 

温対記者 「そうですか。何が分かるか緊張しますね」

    暇名小五郎 「ええ。温対さんと一緒の時は、必ず得るものがありましたからね」

     伝説の名コンビも、一部の読者からは<無能さを露呈している>と叱責されている。
    捲土重来を期すべく、名古屋へ向う2人は、闇の棋士事件で、日本中を駆け巡ったことを思い出していた。 

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 木, 08/19/2010 - 11:15 categories [ ]

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駒の流儀・第24部  第121章

第121章「オーナー交代」

 東北新聞販売店に入り、応対に出てきた奥さんに用件を伝えると、すぐ入れ替わりに店主の益田幸三が現れた。
  温対記者が名刺を渡すと、奥に通された。

益田幸三<55歳> 「この前も、東京から訪ねて来た人がいましたよ」

      越中事務局長のことだと、すぐ分かった。
     その越中氏が、ここを訪れてから、しばらくして殺害されたこと。そして、別の事件にも深く係わっていることなどを説明すると、益田店主も興味をそそられたようで身を乗り出してきた。
 

  温対記者 「そういうわけで、僕らは越中さんが、どんなことを聞きに来たのか知りたいんです」

益田幸三 「なるほど。その時の話ですね。いいですよ」

     店主は、顔は髭を生やしていて怖い印象だったが、話してみると意外と人懐っこい男だった。

 益田桃子<52歳> 「どうぞ。東京から来たのですか。こっちは東京よりは涼しいでしょう?」

益田の妻が、冷たい緑茶を運んできた。

    暇名小五郎 「はい。どうぞ気遣い無く」

     3人で、その冷えた緑茶を飲んだが、このあたりの水質が良いのか、東京では味わえない上手さだった。

益田幸三 「その人は、猫面尺治さんの息子さんの忠治君と、一緒にアルバイトで働いていた少年の名前を教えて欲しいと言ってきました」

     暇名小五郎 「なるほど。それで」

 益田幸三 「教えるもなにも、話を聞くと20年以上も前のことで、その時は私がやっていたわけじゃないんですよ」

       温対記者 「えっ! 違うんですか?」

益田幸三 「はい。私は15年前に今の仕事を始めたんで、その前は違う人がやっていました」

     温対記者 「でも、ここの店だと猫面さんが言ってましたけど・・」

 益田幸三 「そりゃあそうです。場所も店もここですよ。東北新聞店のままですから」

      暇名小五郎 「つまり、オーナーさんが代わったということでしょうか?」

益田幸三 「そうですよ」

      温対記者 「そ、そしたら、ここの店と住居を前のオーナーさんから買ったということですか?」

益田店主は、一瞬怪訝そうな顔をした。

益田幸三 「はは。この業界のことを、あまりご存じないようですね。ここは、私の持ち物ではないんですよ」

       温対記者 「はあ・・」

益田幸三 「新聞販売店の店舗は、通常、新聞社が所有又は賃借してましてね、私たち販売店は、その店舗を無料で新聞社から使用貸借により借りるという関係にあるのです」

       暇名小五郎 「なるほど。そうすると、オーナーさんの家族や従業員は、店舗内に住み込みということなのですか?」

益田幸三 「そういう場合も多いですよ。うちは家族だけですけどね」

      温対記者 「じ、じゃあ、前のオーナーさんには何もないのですか?」

温対からみると、納得のいかない話のようだった。

 益田幸三 「いや。通常、新たに新聞店を開業する場合、廃業したり他の店へ移る既存の販売店主さんに<代償金>を支払います」

       暇名小五郎 「営業権のようなものですか?」

益田幸三 「そうです。代償金というのは、その区域で独占的に新聞を販売する権利の売買代金と考えてください」

      温対記者 「高い金額なんすか?」

益田幸三 「それほどでもないですが、その時点の1か月分の新聞・雑誌等の売上高とするのが慣例です。その他にも、販売代金の未収分や、自転車・バイク・折込機等の備品代なども払います」

     温対記者 「へえ。ずいぶん払うものなんですねえ」

益田幸三 「ええ。ほかにも新聞社には、<取引保証金>を支払らわなければなりません。おおむね1か月分の新聞等仕入相当額ですよ」

       暇名たちは、初めて聞く話で業界の知識として、なんとなく聞いていたのだが、ここでの益田幸三の話は、後に事件の解決に大きく寄与することになるのである。
 

駒の流儀・第24部  第120章

第120章「東北新聞販売店」

温対記者 「それで、その友達の子の顔は、全然しらないんですか?」

  猫面鈴江 「そうねえ。覚えてないです。遊びに来ても、すぐ忠治の部屋に入っちゃってて、帰るときも知らないうちにいなくなっていたから」

     暇名小五郎 「話をしたということも無いのですか?」

猫面鈴江 「そうだねえ。挨拶ぐらいだねえ」

      暇名小五郎 「それじゃあ、今その<ゆきちゃん>って子に会っても、わかりませんね?」

猫面夫妻は、全くわからないと強調した。

 温対記者 「その<ゆきちゃん>という呼び名の由来は、やっぱりわからないすか?」

猫面鈴江 「はい。その殺されたという人にも話したけど、わからないねえ」

    猫面尺治  「忠治たちは、部屋で将棋ばかりしていたようだけど、相手の子が強すぎるって悔しがっていたねえ」

 猫面鈴江 「それで、なんだかしらないけど、その子が大切にしていたグローブを盗んで、部屋の中に隠していたことがあったですよ」

       暇名小五郎 「ほお。そんなことがあったのですか」

       一瞬、暇名小五郎の表情が引き締まった。

猫面鈴江 「私が忠治の部屋を掃除するときに、見たことがないものがあったので、問い詰めたら白状したんですよ。ちゃんと返させましたけどね」

    暇名小五郎 「そのグローブが欲しかったんですかねえ?」

 猫面鈴江 「こうすると、勝てない相手にも勝てるようになるとか言ってました」

    暇名小五郎 「じゃあ、グローブが欲しかったわけではないのですね」

猫面鈴江 「そうなんです。誰かに聞いたか、本で読んだのか知りませんけど、勝ちたいと思う相手が大事にしている品物を盗んで、わからないところに保管しておくと、勝てるようになるらしいですよ。あの頃の子供たちの間では、流行っていたらしいですけど」

 猫面尺治  「あとで忠治が言ってたけど、父親が<ゆきちゃん>をプロ棋士にさせたがっていたらしいねえ」

        温対記者 「へえ。そんなに強かったんですかあ」

猫面尺治 「ああ。忠治も相当強いほうだったけど、その子には歯が立たなかったようだねえ」

  猫面鈴江 「あ、そうそう。その子の父親は10年位前に、なんか悪いことして捕まったとか言ってましたけどねえ」

   暇名小五郎 「そうですか・・。窃盗か何かですか?」

猫面鈴江 「さあ。そこまでは・・・」

     後にプロ棋士になったという<ゆきちゃん>に関する情報は、表面的には何もないようにみえた。
    年齢も不詳で、顔の特徴も不明、同級生かどうかもわからなかった。

  暇名小五郎 「もうひとりの子は、名前と顔を覚えていますか?」

猫面鈴江 「いいえ。その子とは、挨拶もしたことがないです。忠治の部屋に入るときにチラと見るだけですから」

      暇名小五郎 「年齢も分からないですね?」

猫面鈴江 「まるで分かりませんけど、年上みたいでした」

     暇名小五郎 「なぜそう思うのですか?」

  猫面鈴江 「なんとなくですよ。見た感じだけだけど、雰囲気とか落ち着きとか」

     暇名小五郎 「名前を聞いたことはないのですか?」

猫面鈴江 「ないです。学校の友達ではないですしね」

     暇名小五郎 「学校の友人では無いとすると、どこで知り合ったのでしょうか?」

 猫面鈴江 「その子とは、新聞配達のアルバイト先で、知り合ったんですよ」

       暇名小五郎 「ほお。そうでしたか」

猫面尺治  「忠治は、将棋盤を買うとか言って、アルバイトを始めたんですよ」

    温対記者 「その時に知り合った仲間なんですね」

猫面尺治  「新聞販売店は、今でもあるよ。場所も教えようかね?」

猫面は、越中氏に一度聞かれているので、今度は先手を打って、場所を教えた。

   暇名小五郎 「やはり越中さんも、その新聞販売店を訪ねると言っていましたか?」

猫面鈴江 「たぶん、訪ねて行ったと思いますよ」

       2人は、猫面夫妻に礼を述べて、猫面宅を後にした。

温対記者 「越中事務局長さんは、猫面さんのところで、何かをつかんだんですかねえ?」

     暇名小五郎 「さあ。今、聞いた以上の話は無かったでしょうから・・・」

     話をしながら、15分ほど歩いたところに大きな看板が出ていた。

 温対記者 「<東北新聞販売店>か。ここですね」

      建物は古いわりには、それほど痛んだところはないようだった。

駒の流儀・第24部  第119章

第119章「2人の友達」

 秋田県上小阿仁村に到着した暇名探偵と温対記者は、越中事務局長とほぼ同様の経過をたどって、猫面尺治の家にやって来た。

温対記者 「こうやって、越中さんはここまでやって来たんですねえ」

    暇名小五郎 「ええ。これからは我々が、越中さんの分まで頑張らないとね」

       2人が訪ねた猫面家には、丁度夫婦で在宅していてくれた。

猫面尺治 「はあ、そうでしたか。あの人が殺されたんですか・・」

     実直そうな猫面夫婦は、本当に驚いたという顔をしていた。

     暇名小五郎 「私たちは警察ではありませんが、なんとか越中さんの無念を晴らしたいと願っています。どうかご協力ください」

猫面尺治 「よくわかりました。それで、何を話したらよいのですか?」

    暇名小五郎 「まず、越中さんがお宅にお邪魔して、どんなことを聞いたのか。そして、どういう話し合いになったのかを教えて下さい」

     暇名としては、まず越中氏の行動の目的なりを探るところから始めた。

 猫面尺治 「はい。その人は、私の家の蔵の中にある巻物のことを知っていて、見せてほしいと言ってきたのですが、もう家には置いてないと答えました」

      温対記者 「もう無いんですか?」

猫面尺治 「はい。つい最近まであったのですが、泥棒に持っていかれました」

    暇名小五郎 「ほお。その泥棒は、他にも何か盗んでいったのでしょうか? それともその巻物だけが盗まれたのですか?」

猫面鈴江 「それがあんた。その巻物だけ盗んでいったんだから、変な泥棒だったねえ」

   先ほどからしゃべりたそうにしていた猫面の妻が、横から口を挟んだ。

 温対記者 「それで、その泥棒は捕まったんですか?」

猫面鈴江 「いいえ。盗られたれたのは、それだけですから被害届も出してないですよ。駐在さんには出すように言われたんですけど、別にたいした物でもないし、あんまり騒ぎ立ててもねえ、ご近所に知れ渡って噂になったりするのも嫌なんで出来るだけ」

      暇名小五郎 「すみません。その泥棒に心当たりはありますか?」

     妻の話が長くなりそうだったので、暇名が途中で遮って質問した。

猫面尺治 「全然ないよ。あんなもの盗る奴は、この村にはいませんよ」

     暇名小五郎 「そうすると、泥棒は初めからその巻物だけが目的だったようですね。猫面さんの蔵の中に、その巻物があることを知っていた人物ということになりますが」

 猫面尺治 「はい。越中という人も、そのことを気にしていたねえ」

      温対記者 「暇名さん。やっぱり越中さんは、その点を確認していたんですね」

     
猫面尺治 「私らがわざわざ巻物のことを、教えた人はいなかったんだけど、亡くなった息子の友達は知ってたみたいだね」

  猫面鈴江 「そうなんですよ。息子の忠治の友達は、知ってるはずです」

     猫面の妻は、息子が5年前に交通事故で亡くなったことを説明してから、その息子が中学生だった頃の友達に、蔵の中を見せていたことがあると言った。

猫面鈴江 「その巻物を見せたかどうかはわからないけど、よく蔵の中に入って遊んだりしていたから、巻物も見ていると思いますよ」

     温対記者 「そうですか。それなら見ていた可能性はありますよね」

   暇名小五郎 「亡くなった息子さんが中学生の頃というと、何年位前になりますか?」

猫面尺治 「そうだねえ。もう20年以上は経つねえ」

       暇名小五郎 「息子さんが、特に親しくしていた友達というのは、何人くらいいましたか?」

     越中が質問したのと同じことを、暇名探偵も聞いた。

猫面鈴江 「私が知ってるのは2人だけです。ほかにもいたかも知れないけど、家に連れてきたのは2人でしたよ」

     猫面の妻は、越中に聞かれたときに答えたことを、もう一度思い出しながら暇名にも話した。

駒の流儀・第24部  第118章

第118章「再会」

 名古屋に着くと、暇名たちはすぐ関根元総裁宅を訪れた。
  関根銀四郎は、2人を覚えていて、快く迎えてくれた。

    関根銀四郎元総裁 「あまり顔も見たくないのだが、せっかく東京から来たのだから、帰すわけにもいかぬからのお」

      言葉とは裏腹に、元総裁は機嫌は良かった。

温対記者 「その節は、すみませんでした」

     前作<闇の棋士>事件で、関根を殺人の容疑者にしたことを指していた。

 暇名小五郎 「私も、ご迷惑をおかけしました」

     関根銀四郎元総裁 「ははは。まあ済んだことじゃよ。で、何の用事で来たのだ?」

暇名小五郎 「はい。以前に2度ほど、将棋連盟の越中事務局長がお邪魔したはずですが・・」

     関根銀四郎元総裁 「うむ。たしかに会いに来た」

      暇名小五郎は、訝しげにしている関根銀四郎に、その越中氏が殺害されたこと。怪人60面相や駒の流儀書、さらに他の2件の殺人事件が起きたこと、いずれも越中氏が福井県や秋田県に出かけたことが、関係していそうなこと等を要領よく話して聞かせた。

  関根銀四郎元総裁 「ほう。そういうことがあったのか。気の毒にな・・・」

      流石の関根元総裁も、越中事務局長の死には感慨深げだった。

    関根銀四郎元総裁 「それで儂に、越中と何を話したのか聞きに来たというわけだな」

暇名小五郎 「はい、お察しの通りです。どうかその時の、話の内容を教えて下さい」

    関根銀四郎元総裁 「まさか、また儂が犯人だと疑っているわけではないだろうな?」

暇名小五郎 「まさか。考えたこともないです」

    関根銀四郎元総裁 「はは。それは冗談だ。いいだろう、別に隠すことでもないしな」

       軽く笑いながら、関根はお茶を上手そうに飲んだ。

   関根銀四郎元総裁 「あの男が死んだとはのお。信じられん。彼は儂に、<駒の流儀書>のことを聞きに来たのだ」

温対記者 「はい。そのときは、うちの後呂記者も同行していました」

    関根銀四郎元総裁 「そうじゃった。それから後で、あの男だけ1人でやって来たのだ。儂が駒の流儀書を見たのは、何処だったのかと聞いてきた」

 暇名小五郎 「なるほど。そうでしたか」

         関根銀四郎元総裁 「それで思い出したのが、秋田県の上小阿仁村というところだった」

暇名小五郎 「上小阿仁村ですか。よく覚えていましたね」

      温対記者が、前もって秋田県の地図を持参してきていた。

     関根銀四郎元総裁 「いや。すっかり忘れていたのだが、越中という男が思い出させてくれたんじゃよ」

 暇名小五郎 「そうでしたか。その村は、どんなところですか?」

       関根銀四郎元総裁 「そうだのお。何も無い小さな村だったが、子供の時に親父に連れられて行った。その時の家の蔵の中に巻物があったのだ」

温対記者 「それが駒の流儀書だったんですね」

   関根銀四郎元総裁 「そういうことじゃ。中にどんなことが書いてあったのかとも聞かれたが、さっぱり覚えておらぬ」

 暇名小五郎 「子供の時なら、そうでしょうねえ。それで、その訪ねた家は何という家なのでしょうか?」

     関根銀四郎元総裁 「うむ。それが<猫>なんとかとしか覚えていないのだ」

暇名小五郎 「名字に<猫>という字が入るのですね」

  関根銀四郎元総裁 「そうじゃ。越中という男にも、それだけしか話してないが、判かったのかのお」

温対記者 「でも、名前に猫がつくのは珍しいから、すぐ判るんじゃないすかねえ」

     温対という名前も相当に珍しいのだが、本人は気づいていなかった。

    関根銀四郎元総裁 「いまから秋田県に行くのか?」

暇名小五郎 「はい。そのつもりです」

   関根銀四郎元総裁 「うむ。エネルギッシュじゃのお」

       関根は相変わらず、洒落たジョーカーという煙草をくゆらせていた。

暇名小五郎 「関根総裁は、変わりませんねえ」

        関根銀四郎元総裁 「はは。いい意味なのか、悪い意味なのか・・・」

温対記者 「も、もちろんいい意味に決まってますよお。お元気そうでよかったです」
 
     関根銀四郎元総裁 「ははは。ま、元気に行ってきなさい。報告を楽しみに待っているからのお」

      暇名小五郎と温対記者は、関根邸を出ると、そのまま名古屋から秋田へと向った。
     死んだ越中事務局長の足跡を辿るためだったが、この秋田行きが連続殺人事件の解決に繋がる第1歩となったのである。

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