駒の流儀・第23部

第111章「守秘義務」

 茂和の妻は、途中で藁人形社長の額や腕を、濡れたタオルで拭いてあげた。

藁人形法子 「ほかには、何年ぐらい入院してるのかとか、何人兄弟かとか、どんな人が見舞いに来てるかとかを聞いたそうですわ」

     暇名小五郎 「そうですか・・・」

       暇名は、同じ質問をして、山岡と同じ答えを聞いた。
      その後も、質問はしたものの、取り立てて気になる話は得られなかった。

 暇名小五郎 「お邪魔しました。どうも有難うございます」

      2人は、礼を述べて病室を出てきた。

温対記者 「暇名さん。あんまり参考になる話は無かったですねえ」

       暇名小五郎 「ええ。まあ・・・」

温対記者 「山岡さんは、何が知りたかったんですかね?」

       廊下を歩きながら、温対が独り言のようにつぶやいた。

    暇名小五郎 「そうですね。なんでしょうかね」

        暇名もまた、独り言になっていた。

   暇名小五郎 「山岡組長は、茂幸氏殺しの動機を探っていたのは間違いないです」

温対記者 「はい。僕もそうだと思います」

      暇名小五郎 「そしてその動機ですが。山岡さんは、恋愛や金銭ではなく、復讐と考えたのではないですかね?」

温対記者 「なぜです?」

      暇名小五郎 「まだ推測にすぎませんが、警察の調べでは、殺された茂幸氏には、これといって恨まれるような動機が見つからなかったはずですよね」

温対記者 「はい。そうでした」

       暇名小五郎 「だけど、本人には無くても、その家族や親しい人にはあるということも考えられます」

温対記者 「はあ。つまり・・・」

     暇名小五郎 「そこで、山岡さんは被害者ではなく、その家族、特に母親よりも父親のほうに、犯人の動機が潜んでいる可能性があると睨んだのかも知れません」

温対記者 「あ、なるほど。それで、父親の状況を知りたかったというわけですね」

      暇名小五郎 「はい。ひとつの可能性ですがね」

温対記者 「暇名さん。たしか小茶園若頭が、山岡組長は福井に泊まるので、自分だけ先に東京に帰ったと言ってましたよね」

     暇名小五郎 「はい。そう言ってました」

温対記者 「山岡さんは、福井に泊まって何してたんですかねえ?」

       暇名小五郎 「私も実は、そのことが気になっていました。大体想像はつきますがね」

温対記者 「ほんとですか? 教えてくださいよ」

     暇名小五郎 「おそらく山岡組長は、翌日、再び病院にやって来て、担当医の先生に、藁人形茂和氏の病名や病状を聞きに来たんだと思います」

温対記者 「そうか。どうしても知りたかったからですね・・・。だけど、それならどうしてその日のうちに、聞きに行かなかったんですかねえ? なにも泊まって、次の日に聞きに行かなくてもいいのではないすかね?」

           珍しく、論理的である。

     暇名小五郎 「そのとおりですがね、多分、その日は担当の医師は不在だったのでしょうね。それで、翌日にしたということだと思います」

温対記者 「なるほどねえ。それなら解かります」

    暇名小五郎 「温対さん。今から確認しましょう」

    いったん1階の受付に戻ってから、暇名は事情を説明して、藁人形社長の担当医師に面会を求めた。

受付嬢<28歳> 「只今、先生が参りますので、お待ち下さい」

     可愛い感じの女性が、電話で連絡を取ってくれた。
    2人が、しばらくロビーで待っていると、中年の男性が急ぎ足で来た。
     <最所才吾>と名乗った医師は、2人を来客用の応接室へ案内してくれた。なかなか優秀そうな医者にみえた。

最所才吾医師<41歳> 「お話は、よく分かりました。ですが、患者の容態や病名に関することは、お話しすることはできません。守秘義務がありますから」

      やはり、暇名が思ったとおり、山岡組長が藁人形社長に面会に来た日は、講義があって不在だったとも言った。

      温対記者 「その翌日に、山岡さんが会いに来たんですね」

最所才吾医師 「そのようです」

    温対記者 「お医者さんが、患者さんのことを話せないのは解かるんですけど、殺人事件に関することなんで、なんとか教えてくれませんか?」

最所才吾医師 「申し訳ありませんが・・」

     暇名小五郎 「山岡さんにも、やはり教えなかったのですか?」

 最所才吾医師 「ええ。その山岡という人は、相当強引に聞きだそうとしてましたけど、教えてはいませんよ。しつこくすると、警察を呼ぶと言うと、帰って行きました」

     暇名小五郎 「山岡さんは、病気のことのほかにも、何か聞いていたでしょうか?」

最所才吾医師 「そうですねえ。・・・病気以外のことでは、付き添いの女性の名前とか、誰か他に訪ねて来たかとかですね」

     暇名小五郎 「わかりました。最後に、山岡さんが帰る時に、これから何処かへ行くというようなことは、言っていなかったでしょうか?」

最所才吾医師 「いいえ。何も言いませんでした」

       どうやら、山岡組長は、福井市に泊まってまで、担当の医者に会いに来たものの、肝心な話は聞けなかったようであった。
        結局、山岡組長の足取りは、ここで途絶えた。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 08/09/2010 - 11:02 categories [ ]

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駒の流儀・第23部  第116章

第116章「捜査の方針」

 警視庁捜査一課の会議には、赤外線警視総監が特別に要請した暇名探偵も、オブザーバーとして出席していた。

赤外線透警視総監 「これで、一連の殺人事件の被害者は3人になった。すべて同一犯人の仕業かどうかも含めて、いま一度検討したいと思う。各自の意見を聞きたい」

    金銀銅鉄一課長 「怪人60面相が、盗難事件と殺人事件の両方に関与しているかどうかはともかく、3件の殺人事件については、同一犯とほぼ断定できます」

赤外線透警視総監 「うむ。根拠は何かね?」

    金銀銅鉄一課長 「殺害に毒を使用していること。そして、その毒も同一のものであること。殺害状況も酷似していること。そして、第2、第3の事件の被害者が、いずれも第1の事件について、なにかしら関わっていたことが挙げられます」

寅金邪鬼警部 「いま課長が申しましたように、この3件の事件には相互に繋がりがあります。単独の事件ではなく、あきらかに連続殺人事件だと思われます」

   赤外線透警視総監 「うむ。暇名さんの意見はどうでしょうか?」

暇名小五郎 「はい。同じ考えです。これだけ状況的に関連性があるのに、それぞれが単発の殺しだというほうが不自然でしょうね。私も連続殺人事件だと思います」

     赤外線透警視総監 「分かりました。それで、現在までに把握していることは?」

金銀銅鉄一課長 「第1の事件では、毒物を入れたと思われる人物が存在しています。店長が目撃していますが、変装していたため人相は不明です。指紋その他の物的証拠は出ていません」

    天然流誠捜査官 「第2の事件ですが、被害者の自宅マンションで、ビールに混入した毒物を飲んで死亡しています。遺書は無く、誰かと一緒に飲んでいて毒を盛られたものと推定されます」

赤外線透警視総監 「なぜ、そう言い切れるのだね?」

    天然流誠捜査官 「はい。あらかじめビール瓶に毒を混入するのは不可能です。一緒に飲んでいた者が、犯行後、自分のグラスを持ち去ったと考えるのが妥当です」

暇名小五郎 「第1と第2の事件については、少なくとも顔見知りの犯行ということになりますね」

    金銀銅鉄一課長 「そういうことです」

赤外線透警視総監 「なるほど」

     寅金邪鬼警部 「第3の事件は、一緒に飲んでいたのではなく、被害者が旅行に出かけている間に、留守宅に侵入して、冷蔵庫の麦茶に毒を混入させたものと思われます」

赤外線透警視総監 「被害者は、旅行に出かけていたのか?」

    寅金邪鬼警部 「はい。事務局の職員によると、福井県と秋田県を周ってくると言って、出かけたそうです。おそらく旅行から真っ直ぐ自宅へ帰ってきて、すぐ麦茶を飲んで死亡したと推定できます」

赤外線透警視総監 「しかし、もし,留守中に毒物を混入したのならば,帰って来た越中氏が,何故,麦茶を飲むことを殺人者は知っていたのかな?」

     暇名小五郎 「知っていたというよりは、可能性ですよ警視。いまの時期、コーヒーやお茶よりも、冷えた麦茶に手を出すと考えるのは自然です」

赤外線透警視総監 「そうかも知れないが、麦茶はコンビニのペットボトルか?それとも,水出しなのか?冷蔵庫に,他の飲料はなかったのか?詳しく知りたいね」

    天然流誠捜査官 「警視の仰ることはわかりますが、冷蔵庫には麦茶以外の飲み物は、入っておりませんでした。麦茶は専用のポットに水出しのものです」

寅金邪鬼警部 「このところの猛暑だからねえ。おそらく越中氏は、自宅に帰るとすぐ、冷たい麦茶を一気に飲んだんだろうなあ」

    暇名小五郎 「はい。そうでしょうねえ」

金銀銅鉄一課長 「越中氏は、部屋の鍵は掛けて行ったんだろ?」

    暇名小五郎 「課長、あの程度の鍵なら簡単ですよ。私でも開けられます」

赤外線透警視総監 「ところで、福井県というと、山岡組長が何かを聞きに行っているところだったね?」

     天然流誠捜査官 「そうです。第1の被害者の実家があるところですので」

赤外線透警視総監 「秋田県のほうは?」

     寅金邪鬼警部 「それがまだ分かっていません。なぜ越中氏が、秋田県へ出かけたのかは不明です」

赤外線透警視総監 「暇名さんは、何かご存知ですか?」

    暇名小五郎 「さあ。私も分かりません」

     暇名には、はっきりと答えるほどの確証はなかったが、ぼんやりと想像できるものはあった。

赤外線透警視総監 「犯行声明はどうなったのか?」

    金銀銅鉄一課長 「第2、第3の殺しについては、犯行声明は来ておりません」

赤外線透警視総監 「ほお。それは、どう解釈しているのかね?」

    金銀銅鉄一課長 「それについては、まだみんなの意見がまとまっておりません。慎重に検討しているところです」

寅金邪鬼警部 「なぜ、後の2つの事件に犯行声明が出されなかったのかは、第1の事件とは無関係を装うためとか、実際に今まで犯行声明を出していた人物とは違うからとか、いろいろ意見が分かれております」

    赤外線透警視総監 「暇名さんの考えは?」

暇名小五郎 「私は、犯人に余裕が無くなってきたからだと考えてます。もう、殺しは切羽詰っていて、なりふり構っていられなくなったというところではないでしょうか」

     天然流誠捜査官 「私も暇名さんの意見に賛成です。あくまでも同一人物による連続殺人です」

赤外線透警視総監 「うむ。わかった」

  金銀銅鉄一課長 「さて、これからの捜査方針としては、3つの殺人事件の繋がりというか、動機の解明に全力を挙げるつもりでおります。暇名さんも何かわかれば、連絡願いますよ」

    暇名小五郎 「承知しました。私はこれから、将棋連盟のほうを当ってみます」

      警視庁から千駄ヶ谷の将棋連盟へと、暇名は足を伸ばした。
     事務局長が殺害されたばかりの将棋会館だったが、表面的には穏やかに見えた。
      事務局の窓口に行って、伊加職員を呼び出すと、すぐ出てきてくれた。

伊加訓生職員 「あ、どうも。暇名さんでしたか」

     暇名小五郎 「お取り込みの最中でしたか?」

伊加訓生職員 「いえ。それほどでもないです。何か?」

     暇名が思っていたよりは、職員の顔は暗くなかった。
 

駒の流儀・第23部  第115章

第115章「事務局長の死」

 暇名小五郎が、怪人60面相からの挑戦を受諾してから、3日過ぎた。
  
  将棋連盟の越中事務局長は、福井県に行くと言い残して出かけてから、死体で発見される日までの間に、伊加訓生職員と次のような会話を交わしている。

越中褌事務局長 「伊加君。怪人60面相の正体が、どうしても掴めないでいるが、山岡組の組長が殺害された事件は、必ず奴に関係があるよ」

     伊加訓生職員 「ええ。たしかに怪人60面相の名前で、藁人形アマ竜王が殺されてますし、山岡組長は、その関連で福井県まで行ってますよね」

越中褌事務局長 「そうなんだ。秋田と福井には、目に見えない糸が繋がっているよ」

    いつになく越中事務局長は、緊張した顔つきをしていると伊加は思った。

越中褌事務局長 「福井県には何かがある。私も福井県に行こうと思うんだよ。それから、もう一度秋田県にも行って来る」

     伊加訓生職員 「わかりました。こっちの留守は守ってますので、何かあったら連絡してください」

    警察の事情聴取でも、伊加職員は、この会話のことを話している。

京王線の桜上水駅から、甲州街道を背にして、真っ直ぐ環八通りを目指して歩いて行くと、経堂駅へと続く<すずらん通り>と交差する。
  その少し手前、狭い交番の前を横切って、左へ折れると、閑静な住宅街となる。

昔は、このあたりは、ところどころ畑だったが、今はその面影も無く、学生相手のアパートや寮なども数多く建っていた。
   将棋連盟の越中事務局長が住む、木造二階建てのアパートも、この一角にあった。

  すでに連絡を受けた、警視庁捜査一課の刑事たちが到着していた。

  寅金邪鬼警部 「えらいことになりましたね。将棋連盟の事務局長ですよ」

     ベテランの鬼警部も、あまりの意外さに困惑しているようだった。

金銀銅鉄一課長 「うむ。たしか越中とか言ったな」

      驚きの度合いは、冷静な課長もおなじようであった。

     寅金邪鬼警部 「死因は毒物です。手口がおなじです」

天然流誠捜査官 「課長。やはり青酸カリです」

      もちろん、若い捜査官にも動揺があった。

  金銀銅鉄一課長 「怪人60面相か・・・。死亡時刻は何時ごろだ?」

寅金邪鬼警部 「昨夜の7時頃です。発見されたのは、今朝の10時20分です」

     金銀銅鉄一課長 「第1発見者は?」

天然流誠捜査官 「将棋連盟の職員です。そこに居ます」

     見ると、将棋連盟の伊加訓生職員が青白い顔をして、隣の部屋に立っていた。

金銀銅鉄一課長 「あなたが死体を発見したときの様子を、詳しく話してください」

   課長は、伊加が話しやすいように、出来るだけ穏やかな口調で言った。

伊加訓生職員 「はい。部屋には鍵が掛かっていたので、大家さんと一緒に中に入りました。入り口の冷蔵庫の傍に事務局長が倒れていました。死体の近くに割れたコップがあって、床は濡れていました」

     伊加と一緒に、話を聞いていた家主も、伊加の供述に相槌を打った。

   寅金邪鬼警部 「それで、どうしました?」

伊加訓生職員 「僕の携帯で、警察に電話しました」

    金銀銅鉄一課長 「警察が来るまでの間は、どうしていましたか?」

伊加訓生職員 「大家さんと2人で、ここでじっとしていました」

   寅金邪鬼警部 「なるほど。賢明な判断でしたなあ」

金銀銅鉄一課長 「越中氏のアパートへは、何しに訪ねたのですか?」
 

伊加訓生職員 「前日は、地方から帰ってくる予定になっていて、今朝8時には出社して、僕と打ち合わせすることになっていました」

    金銀銅鉄一課長 「なるほど。ところが、その時間になっても現れなかったということだね?」

伊加訓生職員 「はい。携帯も通じないので、心配になったからです」

   金銀銅鉄一課長 「わかりました」

天然流誠捜査官 「課長。その割れたコップの中に、青酸カリが残っていました。床にこぼれていた液体は麦茶でした」

    金銀銅鉄一課長 「うむ。こんどはビールではなく、麦茶を一緒に飲んだというのか」

    寅金邪鬼警部 「課長。それがですね、誰かと一緒に居た形跡はありません」

金銀銅鉄一課長 「形跡がない? どういうことかね。誰かが飲ませたのではないのか?」

    天然流誠捜査官 「はい。普通、誰かと一緒の場合には、グラスや食べ残しの皿とか、箸があったり、椅子が動いていたり、話し声が聞こえたり、何らかの兆候があるのですが、その形跡が全く無いのです」
 
金銀銅鉄一課長 「うむ」

   寅金邪鬼警部 「あそらく、あらかじめ冷蔵庫の中の麦茶に、何者かが毒を入れておいたものと思われます」

天然流誠捜査官 「犯人は、越中氏の留守を見計らって侵入したようです」

 金銀銅鉄一課長 「うむ。それにしても、どうして将棋連盟の事務局長が・・・」

     警察は、ますます焦点が絞れなくなって、ゼロに近くなっていくのを感じていた。

駒の流儀・第23部  第114章

第114章「殺人の連鎖」

伊加訓生職員 「事務局長に用事があったのですか」

     暇名小五郎 「そうなんですよ。明日から1週間の対局がついてる棋士について、いろいろと情報をもらおうと思って来たのですがね」

    この明日という日にこだわる者もいるようだが、<明日>という字は、明るい日と書くのである。
    余計なことを言ってしまったが、無論、手紙が届いた日の翌日からであり、双方共に了解済みのことである。
  

伊加訓生職員 「それなら、今、関西の事務局長が来てますので、聞いてみます」

     伊加が2階へ上がっていくと、すぐ見覚えのある
山城事務局長が降りてきた。

山城寛斎事務局長 「どうも。しばらくやったなあ」

     暇名小五郎 「ご無沙汰してます」
 

  温対記者 「こんにちは。風小僧さんは一緒じゃないんですね」

 山城寛斎事務局長 「そや。今回はわしひとりやがな」

     一通り挨拶が終わると、早速訪問の目的を話すと、快く承諾してくれた。

山城寛斎事務局長 「わしでよければ、お手伝いするよって、なんでも聞いてくれてかまへんで」

   山城は、東京に連盟役員との打ち合わせに来たのだが、個人的用事もあって、明日まで滞在するということだった。

      暇名小五郎 「お忙しいのにすみません。それぞれの棋士について、可能な限りの個人情報を知りたいのですが・・・」

山城寛斎事務局長 「たとえば、主にどないなことでっか?」

      暇名小五郎 「そうですねえ。成績や受賞歴などは、連盟のホームページで分かりますので、できればもっと個人的なことです」

山城寛斎事務局長 「もっと個人的ちゆうと、具体的にはどういうことやろか」

       暇名小五郎 「たとえば、結婚してるとか、趣味、家庭環境、女性関係、学歴、性格などといったところです」

 山城寛斎事務局長 「なるほど。そないなことなら、だいたいのことはわかりますよって。ほな、ひとりずつ見ていきまひょか」

     暇名たちが、関西の事務局長から、対局予定者の情報を教えてもらうだけで、3時間以上かかった。
      暇名も温対も、熱心にメモを取りながら聞いていたが、さすがにベテランの事務局長は、各棋士のことを詳しく知っていた。

       暇名小五郎 「とても参考になりました。有難うございます」

  温対記者 「明日は、山城さんは東京でデートですか?」

山城寛斎事務局長 「はは。ま、そんなとこでわ」

     越中事務局長は不在だったが、関西の事務局長が居てくれたのは幸運だった。

    将棋連盟からの帰り道は、千駄ヶ谷駅まで歩いて20分ほどだったが、考え事をしたり、話し合ったりするのには丁度よい時間だった。

温対記者 「ところで山岡さんのほうですけど。山岡さんが殺されたことと、その前に福井県に行ってたこととは、関係あるんですかねえ?」

      暇名小五郎 「あるでしょうね」

     暇名探偵は、事もなげに言い放った。

温対記者 「なぜすか?」

     暇名小五郎 「温対さん。藁人形茂幸氏と山岡組長を殺害した犯人は、同一人物だと思いますか?」

 温対記者 「ええ、思います。手口が同じすから」

       暇名小五郎 「そのとおりです。だから、藁人形氏の殺害に関連して、山岡氏の殺害も行われたと思われます。つまり、言い方を替えると、藁人形氏の殺害が無ければ、山岡氏の殺害も無かったということです」

温対記者 「・・・」

     暇名小五郎 「いいですか温対さん。山岡組長が福井県に行ったのは、藁人形氏の実家があるからです。小浜市も福井市も、考え方は一緒です」

 温対記者 「たしかにそう思いますけど、じゃあ山岡組長は藁人形氏の事件について、何か重要な手掛かりを掴んだんでしょうかねえ?」

     暇名小五郎 「はい。重要な手掛かりを掴んだか、あるいは手掛かりを得る直前まで迫ったのではないかと思うのです」

温対記者 「し、しかし。そんな手掛かりが、福井県にあったんでしょうかねえ?」

    事件について話していると、あっという間に千駄ヶ谷の駅に着いた。
        そこで2人は別れた。
    

     暴力団山岡組長の殺害から、幾日も経っていないというのに、暇名小五郎も温対記者も予想もしていなかった人物が殺害されるという、さらなる狂気の新展開が待っているのである。

    明日から4日間は、魔界の盆踊り大会のため、休載する。
 

駒の流儀・第23部  第113章

第113章「挑戦受諾」

温対記者 「僕が調べてきた1週間の対局予定表です。61局ありました」
    
      寅金邪鬼警部 「おう、用意がいいな。61局ということは、122人か。これは大事だな」

 温対記者 「でも、女流の対局を外すと53局です。それに同じ人が2回対局したりすることがあって、結局103人が対象です」

      渡り鳥旭警部 「うむ。103人でも凄い数だ。この中から被害者を当てるのか」

赤外線透警視総監 「これは、思った以上に大変ではないのかね?」

      暇名小五郎 「はは。たしかにそうですが、なんとかやってみますよ」

       警部たちの心配をよそに、暇名探偵は平然としていた。

天然流誠捜査官 「暇名さん。今気がついたんですが、この手紙の中で、<君はそのヒントから、第7の流儀の被害者となるプロ棋士を当てること>という文章がありますね」

     暇名小五郎 「ええ」

天然流誠捜査官 「ということは、怪人60面相は被害者をあらかじめ決定済みだということです。棋士の対局態度を見て被害者を決定する訳ではないということになりますよね!?」

       暇名小五郎 「はい。仰るとおりです」

赤外線透警視総監 「ほお」

      暇名小五郎 「天然流さんが言うように、怪人60面相は、あらかじめ被害者を決めています。流儀の違反理由は、こじつけにすぎません」

温対記者 「そうですよねえ。暇名さんは、ずうっとそう言ってましたよね」

     暇名小五郎 「おそらく、最初の盗難を起こしたときには、最後の7人目まで決まっていたはずです」

天然流誠捜査官 「そうでしょうね」

       カミソリ捜査官も、頷いた。

    暇名小五郎 「だからこそ、被害者の共通点探しが重要だったのですよ」

寅金邪鬼警部 「なるほど。偶然の流儀違反が理由なら、共通点など無いからな」

      暇名小五郎 「そういうことです。これで益々、被害者の共通点を見つけなければならなくなりました」

金銀銅鉄一課長 「逆にいえば、被害者7人の共通点がわかれば、怪人60面相の正体も分かるということだな」

     赤外線透警視総監 「うむ。それだけではなく、7人目の棋士が誰かも分かることになるねえ」

暇名小五郎 「はは。期限までには、間に合いそうも無いですけどね」

      暇名小五郎は、銀座の事務所に温対と一緒に戻ってくると、すぐ、自身のブログに挑戦受諾のコメントを書き込んだ。

藤田舞子事務員 「先生、ほんとに大丈夫なんですか?心配ですよお」

    暇名探偵が廃業すれば、藤田舞子も失職するので、心配になるのは当然だった。

 温対記者 「舞子ちやんが失業したら、うちの社に来ればいいよ。いつでも編集長に頼んであげるから」

      暇名小五郎 「おいおい、もう私が負けるみたいだねえ」

温対記者 「す、すみません」

    藤田舞子事務員 「ところで先生。期限が10日後ということは、1週間の対局が終わり次第すぐってことですよね?」

暇名小五郎 「そうなるね」

      藤田舞子事務員 「それは凄く、きついと思いますけど・・・」

暇名小五郎 「たしかにきついけど、挑戦を受けたからには、しかたがないね」

     温対記者 「ねえ、暇名さん1人で53局を全部見ることは出来ないんですから、また連盟事務局や名人審議委員会の人たちに、応援してもらったらどうですか?」

藤田舞子事務員 「そうよ。温対さん偉い。先生、そうしてください」

      暇名小五郎 「いや。今回は、私個人に対する挑戦なので、他の人に教えて、答えをもらったりすれば、ルール違反になりますよ。私ひとりで答えを出さなければならないのです」

      たとえ相手が犯罪者であっても、信義を守るべきだとする暇名小五郎の生き様がみられた。
       おそらく、暇名の座右は<信義>なのであろう。

温対記者 「でも、実際に全対局を見るのは不可能じゃないですか」

      暇名小五郎 「はい、その通りですよ。だからこそ60面相もヒントをくれたのでしょう。つまり、あのヒントだけで解けるよと言ってるのです」

温対記者 「そうか。だから、対局は見る必要は無いということなんですね」

     暇名小五郎 「そうです。実際、物理的に不可能なことを要求しても、挑戦を受けるはずがありませんからね。必ず2つのヒントだけで、答えは出るはずです」

温対記者 「わかりました。僕に出来ることなら、なんでも言ってください」

  その週は、B級2組とC級1組の順位戦があるため、いつもの週よりも対局が多かった。
 暇名探偵と温対記者は、棋士たちの特徴をつかむために、将棋連盟を訪れた。
 

温対記者 「こんにちは。事務局長の越中さんは、おりますか?」

    伊加訓生職員 「あれ、温対さんじゃないですか。事務局長に用事ですか?」

温対記者 「そうなんですよ。暇名さんも一緒です」

     暇名小五郎 「どうも。ちょっと越中さんに教えてもらいたいことがあって来たのですが、留守ですか?」

伊加訓生職員 「ええ。出かけてますけど」

     暇名小五郎 「そうですか。最近、よくお出かけになってますねえ」

伊加訓生職員 「はい。あっちこっち出掛けてます」

      暇名小五郎 「都内ですか?」

伊加訓生職員 「いえ、都内だけでなく地方にも出かけてるようです」

     越中事務局長は不在だったが、代わりに珍しい人物と顔を合わせることになったのである。
 

駒の流儀・第23部  第112章

第112章「最後の挑戦状」

 福井県での調査も、表面的には成果が無かったように見えたが、暇名小五郎はかすかな手ごたえを感じていた。
  しかし、帰ってきたばかりの暇名に、休む間もなく新たな展開が待っていたのである。

  銀座の暇名探偵事務所に、またも舞い込んできた手紙は、順序から考えると、怪人60面相からの<最後の挑戦状>であった。

世渡甚六三課長 「細波君、君が読み上げてくれ」

      細波雷蔵刑事 「わかりました」

    怪人60面相からの最後の挑戦状は、警視庁の合同捜査本部で公開された。
     勿論、その後、名人審議委員会や将棋連盟、関東連合会にも写しが届けられているのは、言うまでもない。

    

    親愛なる暇名小五郎君

      いよいよ第7の流儀は『飛』の流儀である。
              そして、その心得は『闘』。

       『闘』とは、<将棋も戦闘であり、戦う以上は常に全力で、敵を完膚なきまでに粉砕しなければならぬ。そのためには、限りなき闘志と闘魂を持って、敵と対峙すべきもの也>

      これが、流儀書に記されてある『闘』の心得である。
     この流儀に違反した者には、それにふさわしい品物を罰として頂戴するつもりだ。
    
     なお、この第7の流儀には条件がつく。

      私と暇名氏の最後の知恵比べをしたい。私が勝てば、君は探偵を廃業し、全ての事件から手を引くこと。
     君が勝てば、今まで盗んだ6個の品物を全て持ち主に返還する。そして、二度と盗難事件を起こさないことを約束する。

     勝負は極めて簡単だ。私がヒントを出す。
      君はそのヒントから、第7の流儀の被害者となるプロ棋士を当てること。期限は10日後までとする。
      では、ヒントは次の2つだ。

      1.明日からの1週間のうちに、対局する棋士である。
      2.その棋士は、王手飛車が好きな表裏のある人物だが、最近美しいひとつの絵を手に入れている。

      どうだね自信があるかね? 名探偵君。

     知恵比べに同意するなら、暇名探偵事務所のホームページで、受諾の意思を明らかにしてもらいたい。

         では、君の健闘を祈る。 怪人60面相

赤外線透警視総監 「暇名さんは、この挑戦を受けるつもりなのかね?」

    暇名小五郎 「はい。挑戦された以上は、背中を見せるわけにはいきませんからね」

世渡甚六三課長 「しかし、たったこれだけのヒントで、次の被害者が解かるのかね?」

  細波雷蔵刑事 「そうですよ。暇名さんが、なにも探偵生命を賭ける必要は無いです」

       
金銀銅鉄一課長 「私もそう思うね。応じるべきではない」

    渡り鳥旭警部 「ですが、暇名さんが挑戦を受けるということは、自信があるということだと思う。そうでしょう?」

    暇名小五郎 「はは。自信は無いですよ。でも、逃げるわけには行きませんからね」

      暇名探偵も、思わず苦笑いした。

寅金邪鬼警部 「俺たちは、将棋がわからんので、さっぱり駄目だが、暇名さんならなんとかなる」

    暇名小五郎 「警部。将棋は私も弱いほうですから・・・。でも、なんとか温対さんにも協力してもらって、正解を見つけ出したいと思います」

温対記者 「僕だって、将棋は2級ぐらいしかないすけど、一応将棋担当記者ですから、協力はできます」

     温対記者は、咳払いをして胸をそらせた。    

天然流誠捜査官 「やはり、2人は名コンビですねえ」

     その温対記者だが、彼もただの女好きではなかった。早速1週間の対局棋士を調べてきていたのである。

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