駒の流儀・第18部

第88章「資産家」

  藁人形茂幸の父親は、藁人形茂和といい、福井県小浜市内で不動産管理会社を経営していた。
   先祖代々資産家の家に生まれ、土地などの資産も多数所有している。
      62歳、地元の名士でもあった。

藁人形法子 「息子が亡くなってからは、あまり人に会いたがりませんので、またおいでになっても会わないと思いますわ」

    温対記者 「わかりました。ご主人でなければわからないということでもないので・・・」

      実際、温対にしても、主人に会ったところで、何を質問してよいのかわからなかった。

暇名小五郎 「阿佐ヶ谷の居酒屋ですが、開業の資金はどうされたのでしょうか?」

    藁人形法子 「はい。初めは、主人が出してやると言っていたのですが、贈与になるし、親子間の貸し借りも何かと税務署がうるさいとかで、結局、政府系の融資制度を利用したようですの」

      どうやら、日本政策金融公庫のことのようだ。

暇名小五郎 「しかし、金融公庫でも実績がないと、融資資金にも限度があるのではありませんか?」

       名探偵は、経済方面にも多少知識があった。

    藁人形法子 「仰るとおりです。息子が新規開業資金で5千万円借りるのに、要件がたくさんあって、普通は借りられなのですが、主人が支店長さんと親しくて、主人の保証で利用できたみたいですの」

    暇名小五郎 「なるほど、そういうことですか。もうひとつお聞きしますが、あの店は店長さんが引き継いで営業されていますね。どんな条件だったのでしょうか?」

藁人形法子 「馬得さんは、子供の頃は小浜市に住んでいて、ご両親ともお付き合いがありましたの。その関係で、店長もお願いした経緯があります。ですから、事件の後も、居酒屋を引き継いでもらっています」

   温対記者 「まだ新しいし、繁盛している店ですものねえ」

藁人形法子 「はい。あの店の借金は息子の借金なので、保証人になっていた主人が返済いたしました。馬得さんには、事業譲渡という形で、安く売ってあげたようですわ」

   暇名小五郎 「差し支えなければ、お幾らで売ったのですか?」

藁人形法子 「さあ。主人に聞けばわかりますが、相手があることですし、聞いてもたぶん教えてくれないと思いますわ」

    温対記者 「そうですよねえ。僕らも取材ソースの秘密厳守というのがあるから」

藁人形法子 「はい。馬得さんにも、迷惑が掛かるといけませんので」

   暇名小五郎 「もうひとつ、息子さんは、将棋が大変強かったと聞いていますが、いつ頃から将棋を始めたのでしょうか?」

藁人形法子 「そうですわねえ・・・・・小学生の5年生頃だったと思いますけど」

    暇名小五郎 「誰に教わったのでしょうか?」

藁人形法子 「さあ、まったくわかりません。いつのまにか夢中になっていました」

   暇名小五郎 「将棋の友達は、多勢いましたか?」

藁人形法子 「ええ。何人かいたようですわ。時々家に連れてきて将棋をして遊んでいました」

      丁度お茶が無くなっていたところへ、60歳代半ばくらいの婦人が、紅茶を運んできた。
      品の良い女性だった。

  暇名小五郎 「どなたですか?」

       その女性が部屋を出て行ってから、さりげなく聞いた。

藁人形法子 「主人の姉です。千葉県に住んでいるのですが、息子があんなことになって、私が頼んで暫くの間、手伝いに来てもらっていますの」

       母親の法子は、いまだに食事が喉を通らないほど、憔悴していて、見るからに弱っていた。

暇名小五郎 「そうですか。わざわざ千葉からですか」

   藁人形法子 「ええ。普段は、主人とは仲がよくなかったのですが、こういうときは、やはり姉弟なんですね」

      仲の良くない姉弟というのは気になったが、あまり突っ込んで聞くわけにもいかなかった。
 

暇名小五郎 「義姉さんは、疲れているのか具合が悪そうに見えましたが・・」

   藁人形法子 「やっぱりそう見えますか?」

暇名小五郎 「やっぱり、と言うと?」

   藁人形法子 「お金のことで、苦労しているようですの」

暇名小五郎 「ほお。どういうことでしょうか?」

   藁人形法子 「去年、義姉が保証人になっていたお友達のご主人の会社が、倒産して逃げたらしいんですの」

     なぜか、母親の顔がこのときだけは、明るくなったような気がした。

暇名小五郎 「なるほど。連帯保証していたわけですか」

   温対記者 「それはまずいですよねえ。代わりに払わないとならないし、元気だってなくなりますよね」

     常時、サラ金から借金をして、返済に苦労している温対としては、他人事ではなかった。

暇名小五郎 「ご主人は、お姉さんに援助してあげなかったのですか?」

    藁人形法子 「はい。主人は、義姉の借金は関係ないと言って助けるつもりは無いようですの」

暇名小五郎 「そうなんですか。お姉さんの、旦那さんは?」

   藁人形法子 「ずいぶん前に離婚しています。子供が小さい時だったので、苦労したみたいですけど」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 07/05/2010 - 10:20 categories [ ]

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駒の流儀・第18部  第92章

第92章「大学出のヤクザ」

 暇名たちが、福井県の小浜市を訪れていた時、山岡組の山岡鉄収組長は、福井県の福井市にいた。
      若頭の小茶園猛も同行していた。

山岡鉄収組長 「たしか若頭は、福井県出身だったよなあ」

   小茶園猛若頭 「ええ、そうです。このあたりは、よく知ってますよ」

     2人が歩いているのは、福井市役所を少し過ぎたばかりのところだった。

山岡鉄収組長 「大学も、福井なのか?」

   小茶園猛若頭 「違いますよ。東洋大学です。高校までは福井だったんすけど、大学は東京ですよ」

山岡鉄収組長 「そうか。大学まで出て、ヤクザになる奴も珍しいな」

     どんな勉強をしてたのか怪しいものだが、話しながら歩いているうちに、福井体育館の近くまで来ていた。

 小茶園猛若頭 「組長、あっちのほうに行くと福井商業があります。自分の母校ですよ」

    若頭は、体育館とは逆の方向を、指差してみせた。

     福井商業高校といえば、甲子園の高校野球で全国に知れ渡っている。
      近年は、あまり出場機会に恵まれていないが、北陸の野球界では名門校であった。

    2人は、その福井商業高校のほうには向わず、真っ直ぐ北へ進んだ。

  
  小茶園猛若頭 「もうすぐです。あそこの建物が美術館で、その先すから」

     若頭が教えてくれた通り、目指す建物は、県立美術館と歴史博物館などが立ち並ぶ一角にあった。

      【警視庁 合同捜査本部】

 東京霞ヶ関の警視庁では、捜査一課と三課による合同捜査本部が立ち上げられ、赤外線警視総監が、臨時の本部長を兼任していた。

赤外線透警視総監 「今度の予告状では、例の駒の流儀による一連の盗難事件の犯人によるものと思われるので、三課長が中心になって捜査を進めてください」

     警視の言葉には、強い決意がこめられていた。

世渡甚六三課長 「私は、怪人60面相は2人いると考えていますが、一課のほうでは同一人説だと聞いています。これでは足並みが揃わないのでは?」

合同捜査ならば、意思の統一を図るのは当然であり、世渡の懸念は重要なことだった。

  金銀銅鉄一課長 「いや。まだ同一人と断定したわけでもないし、うちのなかでも意見が割れています。気にせずに、三課長の判断で指揮を執ってください」

     一課長のほうから歩み寄りをみせた。やはり人心掌握術に長けているようだ。

    
世渡甚六三課長 「承知しました。では今後の方針を、渡り鳥警部から説明するように」

      捜査三課の熱血警部が、立ち上がった。

渡り鳥旭警部 「はい。怪人60面相からの予告状に基づいて、対局の監視をした結果、高橋9段が狙われるのではないかという報告がありました」

  寅金邪鬼警部 「ほお。それは、どういう理由からですか?」

すかさず、捜査一課の鬼警部が、説明を求めた。
     協力し合ってとはいいながらも、縄張り争いや手柄争いは見え隠れしていた。

渡り鳥旭警部 「やはり、新人賞を獲得しているという被害者に共通していること、対局の内容など諸々加味して判断しています」

   寅金邪鬼警部 「他に新人賞を獲っている棋士の対局は、無かったのですか?」

渡り鳥旭警部 「いや、いることはいますが、既に被害にあっている棋士ですので、除外しました」

  赤外線透警視総監 「なるほど。同じ棋士が2度狙われるというのは無いだろうねえ」

      捜査本部としては、同一人が再度被害に遭うことは無いだろうということで、被害対象者から外したが、至極当然のことであろう。

寅金邪鬼警部 「それで、高橋9段は何が盗まれそうなのですか?」

   細波雷蔵刑事 「名人審議委員会の話ですと、最優秀棋士賞で贈呈されたときの、<柘植の駒>ではないかということです」

寅金邪鬼警部 「駒ですか。なるほど、あり得ますね。持ち運びにも便利だ」

   赤外線透警視総監 「理由は何かね?」

細波雷蔵刑事 「はい。高橋9段は、駒を集めるのが趣味で、いろいろな種類の駒を収集しているらしいのですが、その中でも一番大事にしている駒だそうです」

   赤外線透警視総監 「なるほど。わかった。こんどこそ万全を期すようにお願いする」

駒の流儀・第18部  第91章

第91章「鬼の棲家」

 順位戦B級1組は、棋士の間では通称<鬼の棲家>と言われていた。
   その鬼の棲家を通り抜けなければ、名人挑戦者を決めるA級リーグへは入れなかったが、A級はさしづめ<悪魔の王宮>とでも呼ぶことにしたい。

   【千駄ヶ谷 東京将棋会館】

 東京将棋会館では、三浦宏行8段対高橋道男9段のA級リーグ2回戦が始まっていた。
   昼食休憩を挟んで、午後の対局が再開されたところである。

    ちなみに両者の昼食のメニューを紹介しておくことにする。興味の無いかたは、飛ばして読んでいただいても結構。

   先手番の三浦8段は、中華風の春雨サラダ、くさやの焼き物、辛し餃子、ニラレバにんにく炒め、茄子のにんにく入り甘味噌焼きと、にんにくネギラーメンのセットであった。 

    いつものウロチョロ食堂からの出前である。

   後手番の高橋9段は、さっぱりとソーメンにおにぎり1個。

  対局再開後、高橋9段が再三、席を立っていたのは、三浦8段の昼食と無関係では無かった。
   試合巧者の三浦8段は、番外戦術にも長けていたのである。

   その三浦宏行8段の、プロフィールを紹介しておく。

    群馬県出身 1974年生 36歳。 西村和義9段門下 
      竜王戦2組  順位戦A級 タイトルは棋聖位が1期。

     優勝はNHK杯戦と新人王戦で、それぞれ1回づつである。
    将棋大賞のほうは、殊勲賞と升田幸三賞を受けている。
     前期は名人戦で、羽生名人に挑んだが、4連敗で退けられた。

     棋風は、重厚で攻めが強い。なんでも指しこなし、相手によって対局姿勢を変えたりせず、わが道を行く孤高の棋士である。

怪人60面相から第6の予告状が来たため、従来どおり合同検討会のメンバーが手分けして、各対局の様子を監視していたが、今日の対局には丸潮委員と湯川委員が務めていた。

    丸潮新次郎委員は、有名なベテラン監督で、主に推理物や、サスペンス物を得意としている。
     しかし、子供の時から時代劇映画が好きで、よく母親に連れられて映画館に通った。

    その影響で、30代の頃は時代劇を中心に撮っており、月形半平太、大菩薩峠、丹下佐善などの作品を多く残している。
     丸潮の時代劇は、どちらかというと孤高の剣士を描くものが多く、忠臣蔵や水戸黄門などの大作は好まなかった。

湯川慶子委員 「ねえ、この対局は危ない感じがするわね」

  丸潮新次郎委員 「私も同感です。注意して見ておいたほうがいいですね」

      結果から言うと、この2人の予感は当っていたのである。

湯川慶子委員 「もし、この対局が狙われるとしたら、被害者は高橋9段ね」

  丸潮新次郎委員 「はい、その通りです。例の新人賞を獲っているほうですね」

     では、高橋道男9段のプロフィールも紹介しておこう。

      東京都出身 1960年生 50歳 佐瀬勇二名誉9段門下。
        竜王戦1組 順位戦A級 タイトルは棋王、十段、王位。

      優勝は、日本シリーズ、天王戦。
        将棋大賞のほうは、新人賞、技能賞、最優秀棋士賞などを獲得している。
       通算600勝を達成しており、堅実で優れた大局観に定評がある。

                  

  丸潮新次郎委員 「局面は、三浦8段が押してますね」

     好きな女性と一緒のためか、今日の丸潮はうれしそうである。
    不利舎委員の悔しそうな顔が、目に見えるようだった。

湯川慶子委員 「休憩前までは、高橋9段のほうが良かったように見えたんですけど・・」

      午後になって、形勢が一気に傾きはじめた。

   丸潮新次郎委員 「どうも、高橋さん変調ですねえ」

湯川慶子委員 「そうねえ。高橋9段どうしたのかしら」

      どうやら、高橋9段自慢の大局観に狂いが生じたようだ。
       夕方を待たずして、高橋9段が投了した。終わってみれば、一方的な展開になっていて、高橋9段のほうに誤算があったようである。
 

駒の流儀・第18部  第90章

第90章「推理比べ」

  鬼警部に捜査一課の部屋に連れ込まれると、丁度、金銀課長や天然流氏も在室していて、予告状の報せに驚いていた。

金銀銅鉄一課長 「驚いたねえ。どういうことだ、いったい?」

     普段は冷静な金銀課長も、驚きの表情を隠さなかった。

   暇名小五郎 「ええ、私も意外でした。殺人を犯した以上、もう盗難は無いと思っていましたからねえ」

温対記者 「僕もそうですよ。暇名さんから聞いてびっくりしてます」

金銀銅鉄一課長 「この文章は、過去の盗難事件の予告状と同一人物のものなのかねえ?」

    暇名小五郎 「たぶん、間違いないです」

      曖昧と断定の入り混じった、微妙な言い方である。

寅金邪鬼警部 「しかし、不思議だねえ。この文面には、人を殺した云々は何も書かれてない」

    温対記者 「そうですよねえ。普通、少しぐらい何か書きますよね」

金銀銅鉄一課長 「たしかにその通りだが、この予告状は本物の怪人60面相のもので、殺人のほうは偽者の可能性が強い。世渡課長の別人説が正しいようだな」

     先日の連帯会議では、怪人60面相偽者説が有力だったが、新たな予告状が来て、再び捜査本部が混乱しだしてきた。

  天然流誠捜査官 「しかし、課長。そうとも言い切れないようにも思います」

金銀銅鉄一課長 「うん? なぜだね?」

   天然流誠捜査官 「つまりですね、あくまでも怪人60面相は1人の人物だと想定してみます」

金銀銅鉄一課長 「それで?」

    天然流誠捜査官 「はい。怪人60面相の真の目的は、殺人にあった。しかし、単に殺すと動機がはっきりして、見破られる恐れがあった」

寅金邪鬼警部 「うむ」

    天然流誠捜査官 「そこで、長期的計画を練った」

寅金邪鬼警部 「それが駒の流儀書というわけか・・」

    天然流誠捜査官 「そうです。犯人は恐ろしく頭の良い奴ではないでしょうか」

金銀銅鉄一課長 「ではなぜ、今回の予告状には殺人に関する記述が無いのかね? もし、動機をカムフラージュするための偽装工作だとすると、当然、同一人であることを匂わせるはずではないか?」

   寅金邪鬼警部 「課長の言うのは、同一人であることを推測できる表現があってこそ、逆に我々に別人だと思わせることができるという意味ですな」

     温対記者は、聞いていて段々、訳が分からなくなってきていた。

天然流誠捜査官 「はい。それも偽装作戦の一環ではないでしょうか?」

    暇名小五郎 「さすが天然流氏です。私も、その説には一理あると思います」

      黙って聞いていた暇名探偵が、天然流説に同調した。

暇名小五郎 「つまり、天然流さんが言うように、怪人60面相は相当な切れ者です。もし、今回の予告状で殺人のことに触れていたら、いかにも<私は同一人ですよ>、動機は偽装ですよと読まれてしまう」

    金銀銅鉄一課長 「なるほど」

天然流誠捜査官 「そこで、わざと殺人のことに触れずに、一見すると別人だと思われるように見せかけた。ところが奴は、捜査一課の優秀性を認めていたのと、暇名さんという名探偵もついていることを計算に入れていた」

     温対記者 「あれ、僕は?」

天然流誠捜査官 「もちろん、温対記者も含めてです」

       取ってつけたような世辞を言った。

  寅金邪鬼警部 「うむ。それで警察の結論が、別人説に傾くように、裏の裏をかいたということか」

金銀銅鉄一課長 「ずいぶん念入りだが、すると暇名さんと天然流君は、怪人60面相は1人の人物だと考えるのだね?」

   暇名小五郎 「そこまで確固たるものではありませんが、同一人説は、まだ捨てきれないということです」

天然流誠捜査官 「私も同じです」

     頭脳明晰な2人が、同一人説を唱えた。
      果たして、怪人60面相の頭脳は、2人の天才の推理能力を超えているのであろうか。

     駒音探偵団の諸氏も、鋭い指摘を寄せてきているようだが、舞台は福井県から秋田県、北海道へと拡がりをみせていく。      
      新たな登場人物と、既出の人物とがどのように関係し、物語が展開していくのか、推理比べをするつもりである。

駒の流儀・第18部  第89章

第89章「見覚えのある男」

 暇名小五郎が、福井県から銀座の事務所に帰ってくると、事務員の藤田舞子が青い顔をして待っていた。

藤田舞子事務員 「先生、たった今、この手紙が・・」

     震える手で藤田舞子が差し出したのは、いつもと違って殺人の容疑者となっている相手からだったからである。

暇名小五郎 「うーむ。怪人60面相からだね。大胆だねえ」

    まさか殺人の嫌疑もかけられている怪人60面相から、また手紙がくるとは暇名名探偵とて、思いも寄らないことであった。

    親愛なる暇名小五郎君

      第6の流儀は、『角』の流儀である。
        そしてその心得は『知』

       『知』とは、<戦術は、常に用意周到にして、深く広く大きな大局観を持たねばならぬ。そのためには普段より知恵、知識、知力の向上に努めるべきもの也>
      
      これが、流儀書に記されてある『知』の心得である。
       この流儀に違反した者には、それにふさわしい品物を、罰として頂戴するつもりだ。
      では、くれぐれも用心されるように。

                   怪人60面相 

        
暇名小五郎 「うむ。これはどういうことだ?」

     予告状を読んだ後、暇名小五郎は、しばらく首をかしげていたが、藤田舞子には温対記者に電話するように命じて、警視庁へと出かけた。

温対記者 「暇名さん、福井ではお疲れ様でした。もう何かあったようですね?」

      霞ヶ関には、温対記者のほうが先に来ていた。

  暇名小五郎 「そうなんですよ。休んでる暇がなさそうです」

     警視庁の廊下を歩きながら、暇名は捜査一課へ行くべきか、三課へ行くべきなのか迷っていた。

温対記者 「だけど驚きましたよねえ。殺人犯から手紙が来るんですから」

   暇名小五郎 「はは。温対さん、まだ殺人の嫌疑がある段階に過ぎませんよ」

温対記者 「そうですけど、殺人の疑いがかかっていることを知ってるでしょうにねえ」

   暇名小五郎 「はい。そこが不思議なところですね」

     まだ、一課か三課か決めかねていた。

温対記者 「どっちへ行きます?」

      道路ならば、十字路の交差点に来ていた。右は捜査一課、左ならば捜査三課である。
       まだ迷っていると、左から来る男性に見覚えがあった。

温対記者 「あれ、あの人。どっかで見た顔だけど。誰だったかなあ」

      その男性は、60歳後半くらいに見えたが、向こうでも温対たちの顔に覚えがあるようで、どちらも同時に会釈を交わした。

  暇名小五郎 「あの人も、我々を知ってるようですね。何処で会った人ですかね?」

       ふたりとも、記憶が曖昧だった。

寅金邪鬼警部 「やあ、暇名さんと温対さん。何してるんだね?」

     いったい何処で会った人なのか、ふたりとも思い出そうとしているときに、捜査一課の鬼警部に声を掛けられた。

    温対記者 「あ、警部。どうもです」

寅金邪鬼警部 「そんなとこで、突っ立ったままどうした?」

    暇名小五郎のところに、また怪人60面相から予告状が来たことを話すと、寅金警部も驚いて、2人をすぐ捜査一課の部屋に引っ張り込んだ。

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