米長邦雄永世棋聖 =内心の葛藤= (1)

第51期名人戦から入ろうかとも考えていたのだが、二上九段の著書「棋士」(2004年5月/晶文社刊)に面白い記事をみつけたので、第1回目はこれをまずご紹介したい。

私はサブタイトルに「内心の葛藤」を選んだ。「葛藤」の風景が8割くらいはみえているような気もするのだが、残り2割が判然としない。そのヒントが、この著書にはあるような気もしている。本というものは、読み返すことによって「感じ方」が変わったりもするから、実に面白い。

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私は四人の会長の下で理事をつとめた。
対照的だったのは、塚田さんと大山さんである。塚田さんはすべて「よきにはからえ」タイプで、夕方になるとそわそわしはじめる。それからの一献によくつきあったのは、おなじく辛党の私だった。
大山さんは逆にすべてを自分で担当し、かつ精力的に片づけるタイプだった。(中略)
 ちなみに、将棋連盟の定款には「名人は会長になれない」との一項がある。それなら大山さんも中原さんも会長になれないのではないかということになるが、これは「現役の名人は」という意味である。現役の名人と会長を兼ねると、その権威は大きい。つまり、そのような独裁体制ではうまくまとまらないぞといっているのである。
 将棋界には実力者の鶴の一声ですべてが決まるという風潮がある。木村義雄会長の時代には、木村名人が「ようがす」と一言いえば、それで決まりだったそうだ。しかし、時代は変わって、それでは若い人たちは納得しない。(中略)
 私の会長時代の将棋界を振り返ってみると、女流プロの進出、海外普及、そして若手のタイトル制覇の三点が特徴的だった。(中略)
 女流は育て方がむずかしい。女性は早く大人になってしまうので、十五、六歳でピークを迎え、そのあと成長がとまってしまう。そこで横道にそれていってしまう者がいる。伸びていかないのである。
 勝負の世界では、一人の天才がでれば、ほかの者たちもそのレベルまではひっぱりあげられる。女性でもひとりの天才がでれば活路が開けるかもしれないのだが、天才が一人でるには底辺の拡大が必須である。一見、女流棋界は華やかだが、実力が追いつかなければ、やがて見向きもされなくなるであろう。問題は山積しているのである。(中略)
 棋士は誰もが一国一城の主である。わがままでない棋士などいない。人の言うことを素直に聞いているようでは、この世界では勝ち抜けない。そういうものたちに、あれやこれや指図し、過度にリーダーシップを発揮することは危険ですらある。また、その柄でもない。みんなの気持ちがあまりかけはなれてしまわないことが何より大切だと考えて、十四年間、そのことだけに心を砕いてきたような気がする。
(「会長の役目」(二上達也「棋士」2004年5月/晶文社刊より引用)
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LPSAと日本将棋連盟の間には現状、埋め難い対立が存在する。私が聞いた限りでは「独自の寄付金集め」あたりから、その対立は深刻の度合いを増し、いわば、独立派に対する切り崩し工作が始まったようだし「同じパイの奪い合い」に連盟側が強い危機感を抱いたのだと推定しているが、あれほどの醜い争いになるのであれば、そもそも女流にも「生活の糧」は絶対に必要なのだから、そこは連盟側も「静観すべき」だったのではないかと思っている。

「同じパイの奪い合い」ではない。男性であれ女性であれ「将棋」というパイが広がるのだからと、何故、そう考えなかったのだろう。その点が私には不思議なのだ。

スポーツの世界でも「男子プロ」が「女子プロ」を潰しにかかるなどということはない。その逆もない。例えば、プロボウラーが男子であれ女子であれ、願っていることのひとつに「アマチュアの活性化」がある。敵対するなどということはない。

その一方で、私自身は、この対立軸をどこか醒めた目でみている部分もある。だから「web駒音」では、この件で殆ど発言しなかった。

二上九段が回想されたとおり、要は「強くなる」将棋だけに傾注し、男の世界で勝ちぬき、四段になるいわば「天才」が出現しない限り、やがては褪せると感じているからだ。

例えば、みなさん、どう思われるだろうか。この質問、少し考えていただきたい。

読者である貴方は将棋ファンである。子供の頃から将棋に親しみ、たまには道場で他流試合も行う。そういうことが苦にならない。ある程度、指せるのだが、頭打ちという感じもしている。今ひとつ、成長しているという実感がない。再入門の気持ちで、もう一度、我流の部分を改善し、しっかり1年間、将棋を学び直したい。

さて、将棋のイベントか何かで、貴方は1年間、52回の指導対局を無料で受ける権利を獲得した。師範は次の候補から自由に選択することが可能である。

A.女流棋士のタイトルホルダー
B.奨励会員三段
C.C級1組のベテラン六段棋士

私ならC→B→Aという順序になる。おそらく今の私の棋力では、とても平手で勝てる方はいないし、飛車落ちでも負け越すことは必定だろう。

しかし、それでも「かっては狼だった棋士」「狼の棋士」を選ぶ。これを偏見だと、みなさんは笑われるだろうか。

投稿者: JC IMPACT 投稿日時: 月, 06/21/2010 - 22:08 categories [ ]