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駒の流儀・第15部第75章「他殺死体」 アマ竜王戦決勝の取材を終えて、後呂記者が会社に戻ると、暇名探偵が来ていて、皆本編集長と談笑していた。 後呂記者 「ただいま帰りました。暇名さんも来てたのですか」 暇名小五郎 「やあ。ご苦労様です」 暇名探偵も、後呂記者がどこの取材で出かけていたのか知っていた。 皆本義経編集長 「お疲れさん。どうだった?」 もちろん、アマ竜王戦のことである。 後呂記者 「大熱戦でしたよ。結局、藁人形アマ竜王の防衛です」 皆本義経編集長 「やっぱりな。強いねえ」 温対記者 「対戦相手は、葱巣鴨輔さんなので、応援してたんだけど残念だなあ」 暇名小五郎 「はは。やはり一度会ってる人だと、情が移りますね」 前作の魔界奇談をお読みの方は、既にご存知のように、闇の棋士と葱巣鴨輔の激闘の場面に、暇名たちも立ち会っていたのである。 皆本義経編集長 「それで、どんな内容だった?」 後呂記者は、野月7段が説明してくれた内容を補足しながら熱戦の経過を話した。 皆本義経編集長 「そうか。葱巣氏にも、チャンスがあったようだな」 後呂記者 「そうなんです。それに藁人形竜王の態度があまり良くないので、よけい葱巣さんに勝ってもらいたかったんですけど・・・」 皆本義経編集長 「態度が良くないというと?」 後呂記者 「そうですね、なんとなくですけど自信過剰というか、相手を馬鹿にしたようなふうに見えました」 暇名小五郎 「ほお。もう少し具体的に教えてくれませんか」 この話に、なぜか暇名小五郎は、興味を示したようだった。 後呂記者 「たとえば挨拶の仕方も、おざなりな感じだし、対局中は考えてる相手を睨みつけるし・・」 温対記者 「彼は何回も優勝してるから、慢心してるのかなあ」 後呂記者 「ええ。遅刻はしてくるし、携帯のメールをみたり、やりたい放題です」 皆本義経編集長 「ほんとか。対局中に携帯のメールなんか見ていいのか?」 後呂記者 「さあ、どうなんですかねえ? 誰も何も言わなかったですけど」 暇名小五郎 「常識的に考えて、対局中にそんなことする人がいるとは思わないから、大会の規定にも明記されていないのでしょうね」 皆本義経編集長 「なるほど。規定になければ、誰も何も言えないというわけか。いかにも日本人の事なかれ主義だな」 温対記者 「そうですよね。それだから、お役所仕事って言われるんですよね」 あまり関係ないように思ったが、暇名小五郎は別に何も言わなかった。 それというのも、アマチュア将棋界最強と称される<藁人形茂幸アマ竜王>の他殺死体が、阿佐ヶ谷の店舗兼住宅で発見されたからである。 通報したのは、この店の店長で、午後3時過ぎに店内の掃除と帳簿の整理をするために、店に入ると店主の藁人形茂幸が倒れていた。 驚いた店長は、すぐ警察に通報した。 店主が座っていたと思われる椅子のテーブルには、から揚げや枝豆、刺身などが残っており、そのほか空のビール瓶が2本と、半分ほど残したままのビールが置かれてあった。 通報を受けた警察は、30分ほどで現場に到着した。
投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 06/14/2010 - 13:08 categories [ ]
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駒の流儀・第15部 第77章
第77章「計画的殺人」
阿佐ヶ谷での<居酒屋店主殺害事件>は、その後意外な方向へ飛び火することになるが、まだこの段階では誰も気がつく者はいなかった。
鑑識課員や立ち番の警察官を残して、刑事たちは報告のため、いったん警視庁へ引き返して来た。
【霞ヶ関 警視庁捜査一課】
寅金邪鬼警部 「課長、検視の結果では、毒殺と断定されました。やはり青酸カリでした」
金銀銅鉄一課長<40歳> 「うむ。報告書を読むと、単純な事件にも思えるが、どうなのかね?」
金銀課長は、部下から報告を受けるときは、常に冷静に疑問点を質しながら聞いていた。
寅金邪鬼警部 「初めは私もそう思いましたが、案外難しそうな事件です」
金銀銅鉄一課長 「ほお。どうしてかね?」
寅金邪鬼警部 「はい。不可解な点がたくさんある事件だからでして。天然流君、説明してくれ」
天然流誠捜査官 「わかりました。まず第1点は、初めて来た客と、店主が一緒に遅くまで何故酒を飲んでいたのか」
金銀銅鉄一課長 「うむ」
天然流誠捜査官 「2点目。店の現金は盗まれていないので、殺害の動機は盗みではありません。考えられるのは個人的な恨みや憎しみですが、それほど憎まれている相手と、深夜に酒を酌み交わすだろうか?」
金銀銅鉄一課長 「うむうむ」
天然流誠捜査官 「さらに、店の従業員は、その晩遅くに来たその客のことを、覚えていないということ」
金銀銅鉄一課長 「誰も覚えていないのかね?」
寅金邪鬼警部 「馬得という店長だけは覚えていたようですが、他の従業員は気がつかなかったと言っています」
金銀銅鉄一課長 「ほお、そんなに混んでいたのかね?」
天然流誠捜査官 「そうなんです。木曜日ということもあって、かなり混んでいて、ホールの女性従業員たちが手一杯なので、店長が応対したそうです」
金銀銅鉄一課長 「その男に、連れはいなかったのか?」
天然流誠捜査官 「いません。その男は1人で来て、ひとりで飲んでいたらしいです」
金銀銅鉄一課長 「なるほどねえ。それで、1点目の疑問だが、一見の客であっても、藁人形社長とは顔見知りだったのだろう。従業員が知らないだけではないのか?」
寅金邪鬼警部 「たしかに、そういうことも考えられますが、かならずしも知り合いでなくても、酒を酌み交わす場合があります」
酒豪の寅金警部が言うと、説得力が出てくるようだ。
金銀銅鉄一課長 「そうかね。どういう場合だ」
寅金邪鬼警部 「たとえば仕事関係の用事で来たような場合です。酒や料理などの仕入れ関係の人。同業者や組合関係の行事などに関する話で来たとか」
金銀銅鉄一課長 「なるほど」
寅金邪鬼警部 「ほかにも、青色申告会とか法人会、納税貯蓄組合などの税金や融資などの話、生命保険の勧誘や自動車保険の代理店とか、いわゆる諸々の仕事関連の人です」
金銀銅鉄一課長 「うむ。だが、そういう人は、もっと早い時間に来るのではないかな?」
天然流誠捜査官 「私も課長と同意見です。深夜にそういう業者が来るのは不自然ですよ」
寅金邪鬼警部 「そうとも言えないぞ。居酒屋だからな。午前中は寝てるし、午後は仕入れやなにやらで忙しい。店が始まれば、会えるのは閉店後ぐらいしかない」
なかなか寅金警部も頑固で、譲らない。
金銀銅鉄一課長 「ところで肝心の、顔かたちや服装はどうなんだ?」
天然流誠捜査官 「それなんですがね、サングラスをしていて、帽子を被り、顔全体にヒゲも生やしていたそうです。明らかに変装です」
金銀銅鉄一課長 「だろうな。それじゃあ、まるで顔がわからんなあ」
天然流誠捜査官 「夜中にサングラスですから、普通は変に思いますが、今時はそういうのも多いようです。光線よけというよりは、一種のお洒落として定着してますので、そんなに変には思われないみたいですね」
寅金邪鬼警部 「おそらく付け髭でしょうから、店を出て、帽子もサングラスもヒゲもとって、まるっきり別人になったのでしょうなあ」
金銀銅鉄一課長 「うむ。計算づくだな」
寅金邪鬼警部 「はい。初めから殺しが目的です。計画性が感じられます」
こうして捜査一課では、動機不明ながら、計画的殺人と判断された。
それにしても、駒音探偵団諸氏の卓越した推理力には、ただただ敬服するしかない。
その調子で、名探偵暇名小五郎より先に、怪人60面相による盗難事件と、何者かによる連続殺人事件を解明してもらいたいものである。
なお、17日、18日は所用のため休載する。
駒の流儀・第15部 第76章
第76章「殺人課」
警視庁捜査一課は、殺人・強盗・傷害・放火などのいわゆる凶悪な事件を、専門に扱っている。
刑事コロンボでいうところの<殺人課>である。
天然流誠捜査官<35歳> 「ガイシャは、この店の主人のようです。従業員が皆、オーナーだと証言してますので確かです」
寅金邪鬼警部<49歳> 「独身かね。奥さんや子供の姿がないようだが」
この店で2年間勤務していて、第1発見者でもある店長が事情を聞かれて、さかんに説明していた。
馬得騒造という名の店長の話によると、この店は<こまおと>という屋号で、2年前にオープンしている。
彼は、開店と同時に勤めている従業員だった。
寅金邪鬼警部 「この店の従業員は、何人ですか?」
馬得騒造店長<42歳> 「わしも含めて6人ですがな」
どうやら、関西系の人間のようだ。
寅金邪鬼警部 「仕事の分担は?」
馬得騒造店長 「へえ、社長とわしが厨房を仕切ってまんね。残りの女性は、ホール担当や」
他の刑事や検視官たちと打ち合わせしていた天然流捜査官が、寅金警部を呼んだ。
天然流誠捜査官 「警部。ビールに毒物が入っていたようです。他殺です」
寅金邪鬼警部 「うむ。なんの毒物かなあ?」
鬼警部は、死体の傍にかがみこんで、口の周りをみていた。
寅金邪鬼警部 「うん? なんか変な臭いがするね」
警部に言われて、天然流捜査官もかがみこんだ。
天然流誠捜査官 「そうですね・・・これは、アーモンドのような臭いですね」
寅金邪鬼警部 「そうか。シアン化水素かも知れないな」
寅金警部が言ったのは、正式にはシアン化カリウムのことで、一般には<青酸カリ>と呼ばれている。
天然流誠捜査官 「はい。たぶん青酸カリだと思われます」
寅金邪鬼警部 「うむ。おそらく間違いないだろうが、一応解剖にまわせ」
天然流誠捜査官 「わかりました」
寅金邪鬼警部 「毒はビール瓶の中にもあるのか?」
天然流誠捜査官 「いいえ。ビール瓶の中には入っていないようです。床にこぼれたものと、テーブルに残してあるコップの中にありました」
寅金邪鬼警部 「自殺という線はどうだ?」
天然流誠捜査官 「ゼロではありませんが、不自然です。遺書もありません。それに昨夜、店の客と飲んでいたそうです」
寅金邪鬼警部 「ほお」
天然流誠捜査官 「もう少し詳しく言いますと、こういうことです。この店は12時で看板になりますが、従業員がみな帰った後も、藁人形店主は客の1人と飲んでいたようです」
寅金警部は、再び馬得店長に質問した。
寅金邪鬼警部 「店長さんが帰るときは、まだ社長さんは客と飲んでいたそうですが、そのお客さんは社長さんの知り合いの方ですか?」
馬得騒造店長 「さあ、わかりまへん。初めて見る客やよって」
寅金邪鬼警部 「ほお。しかし、初めての客と閉店後に一緒に飲んだりしますかね?」
馬得騒造店長 「ま、普通はしまへんね」
寅金邪鬼警部 「どうして社長さんは、そのお客さんと一緒に飲むことになったのでしょうかねえ?」
馬得騒造店長 「さあ。さっぱりわかりまへんがな」
天然流誠捜査官 「だけどね、店長さんだって初めての人と、いきなり一緒に飲んだりしないでしょう?」
馬得騒造店長 「わしにそないなこと言われても、困りますがな。それに、わしが知らないだけで、社長は知ってる人かも知れまへんやろ」
寅金邪鬼警部 「たしかに。それでその客は、何時頃来店したんですか?」
馬得騒造店長 「そうでんな。閉店間際ですわ。20分前位やった」
寅金邪鬼警部 「そういうぎりぎりに来るお客さんは、お断りしないのですか?」
馬得騒造店長 「客商売やからね。こんな不景気な時代に断ったり出来まへんよ。それに、滅多にそないな客はいまへんけど」
馬得店長は、いかにも商売を知らないと刑事たちを馬鹿にしたように苦笑した。
天然流誠捜査官 「12時頃に入ってくる客は、ほとんどいないわけですね」
馬得騒造店長 「そうだす。たまに相撲部屋の若い力士が、関取衆や親方に頼まれて、酒やつまみを買いに来たりするくらいですわ」
刑事たちと馬得店長のやり取りは、まだ続いていたのだが、その内容は警視庁での捜査一課長への報告により明らかとなる。