駒の流儀・第13部

第64章「謎の客」

暇名小五郎 「石辺さん、つまりこういうことですね。あなたはタクシーの客を乗せて、あのマンションの前まで来た。そして、その客に頼まれて808号室まで行き、トロフィーを持って降りてきた。そして、タクシーに戻ったらその客はいなくて、いきなり刑事が来て捕まった」

   石辺五郎 「ああ!1!1!!11!!!!!!!!」
 

       石辺は憮然とした表情である。

暇名小五郎 「すると、その男はどこで乗せた客なのですか?」

      これは肝心なところである。
  

   石辺五郎 「拾ったばかりだ!!1!!!!!!!!1!!!!!」

暇名小五郎 「ん??」

  石辺五郎 「そこのセブンイレブンで、コーヒー飲んでたら吉祥寺まで乗せてくれてゆうから、乗せて走ろうとしたら、そこのマンションに忘れ物したてゆうから、そこの前まで行ったら頼まれたんでねえか!!!1!!1!!1」

      暇名は、遠くから乗せてきた客だとばかり思っていただけに、意外な答えだった。

暇名小五郎 「つまり、セブンイレブンの店の中で、その客に声を掛けられたんですね」

  石辺五郎 「さつきからそうゆてんでねえか!!!1!!1!!!1」

格闘技が趣味だという石辺は、体格も良く、睨まれると凄みがあった。

暇名小五郎 「はい。それで部屋には鍵がかかってないから、そのまま入って右奧の洋室にトロフィーが置いてあるので、それを持って戻ってきてくれと言われたのですよね?」

     暇名は、なるべく刺激しないように穏やかに言った。

    石辺五郎 「ああ、そうだ!1!1!1!1!!!1!11」

タイプは違うが、湯川女史と同じくらい気を使う相手だった。

暇名小五郎 「私もさっきあの部屋に行ってきたのですが、あなたのお話どおりだとすると、時間がかかり過ぎるように思うのですよ。言われたとおりにすると、30秒もかからないで出て来れます」

  石辺五郎 「そ、そんなことゆたて自分にはわかんねえけどな!!!1!!!!!!!!!!」

暇名小五郎 「つまり、ほかの事は何もしないで、まっすぐ出てくれば30秒位なのに、あなたは5分もかけています。何をしてたのですか?」

  石辺五郎 「ゆてることがわかんねえ!!!!11!!1 自分はなもしてねえからな!!!1!!!!」

何か都合が悪いのか、石辺は怒鳴るように言った。
        とりあえず、警察では石辺五郎を数日間、拘留することになった。

世渡甚六三課長 「ま、身元も職場もはっきりしてるので、すぐ帰すことになるが、暇名さんの印象はどうだね?」

 暇名小五郎 「まだ不可解な部分があるので、なんともいえませんね。頼んだという客の人相も不明だし、本当に頼まれたのかも疑問ですから」

渡り鳥旭警部 「そうだな。すっきりしないね」

   温対記者 「その頼まれて持ってきたトロフィーというのは、どんなものですか?」

渡り鳥旭警部 「うむ。行方8段が、将棋大賞の勝率第1位賞を受賞したときのトロフィーだそうだ」

   温対記者 「じゃあ、貴重なものですねえ」

細波雷蔵刑事 「あの、課長。私の疑問なのですが、これまで怪人60面相は自分で品物を盗んでいて、他人に盗みを頼むということはしてませんでした。なぜ、今回だけ人に頼んで盗んだのでしょうね?」

       あまり発言しなかった細波刑事だが、鋭いところを突いてきた。
      暇名小五郎も、疑問点として考えていた箇所である。

  世渡甚六三課長 「うむ。たしかにそうだ」

暇名小五郎 「同感です。犯罪者にはパターンがあって、だいたい同じ方法で犯行を重ねるものです。その意味では傾向が違いますね」

  渡り鳥旭警部 「暇名さんが言う意味は、怪人60面相の犯行ではないということですか?」

暇名小五郎 「断定はしませんが、その可能性もあります。あるいは怪人60面相による偽装か、または陽動作戦かも・・・」

        ここまで話してる途中で、暇名はふと違うことが頭に浮かんだ。

暇名小五郎 「まてよ・・・。被害者は木村8段のほうかも・・・・」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 金, 05/28/2010 - 16:29 categories [ ]

コメントの表示オプション

お好みの表示方法を選択し、「設定の保存」をクリックすると、表示方法を変更することができます。

駒の流儀・第13部  第68章

 第68章「目撃者」

不満多羅オーナー 「実は、うちの大那店長から電話で報告を受けたときに、初台店近くのマンションでの盗難事件の話を聞きまして、それで思い当たることがあったものですから・・」

     不満氏は、髪の毛はだいぶ薄くなっていたが、品の良い紳士だった。

 渡り鳥旭警部 「そうでしたか。で、どんなことを?」

不満多羅オーナー 「はい。容疑者として捕まっている人は、初台店の常連客ですが、だからといって、わざと有利なことは言いません」

   渡り鳥旭警部 「そうでしょうとも。よくわかっています」

不満多羅オーナー 「初台店は、タクシーの運転手さんが多いのですが、石辺さんは目立つ人なので、よく知っています」

  渡り鳥旭警部 「ええ」

     なかなか本題に入ってくれないので、渡り鳥は内心じれったい思いだった。

不満多羅オーナー 「それで、石辺さんがうちの店の中で会ったという男ですが、その人相を店長から聞きまして、お電話したわけです」

   細波雷蔵刑事 「はい。それで?」

       細波のほうも、いらいらしている。

不満多羅オーナー 「はい。その日、私が上北沢店で余った弁当を売るつもりで、初台店まで運んできました。その時、入り口から出てきて、すれ違った男が、その人相の男でした」

     人相といっても、サングラスにマスク、野球帽なので、正確には人相とはいえなかった。

  渡り鳥旭警部 「本当ですか!」

細波雷蔵刑事 「何時ごろですか? 見間違いと言うことはないですね?」

不満多羅オーナー 「いいえ。服装も黒っぽいブレザーにズボンでした」

      時間も服装などの特徴も、石辺五郎の供述どおりだった。

   暇名小五郎 「何か話しをしましたか?」

不満多羅オーナー 「いいえ、ただすれ違っただけですから」

 暇名小五郎 「特に目に付いたことはありませんでしたか?」

不満多羅オーナー 「さあ・・・」

    暇名小五郎 「何か持っていたとか。例えばカバンとか傘とか・・」

不満多羅オーナー 「いや。何も持っていませんでしたな」

 暇名小五郎 「他の客や店員さんは、気づかなかったようなのですが、どうしてオーナーさんはわかったのでしょうか?」

不満多羅オーナー 「それはね、日頃から私は、自分の店の客層がどうなっているか、男か女か、若いか年寄りか、学生なのかサラリーマンなのか、常に観察しているからですよ」

 暇名小五郎 「そうですか。よくわかりました」      

     このオーナーが、8店舗も経営している理由がうなづけたようだった。

渡り鳥旭警部 「どうも、ご協力感謝します」

       刑事たちは、礼を述べて店を出てきた。

細波雷蔵刑事 「警部、驚きましたねえ。オーナーが目撃者とは」

 渡り鳥旭警部 「まったくだ。だが、これで石辺は釈放だな」

       署に戻ると、世渡課長が待っていた。

世渡甚六三課長 「お、暇名さんたちも一緒に来たのか。丁度良かった。どうだったね?」

  渡り鳥旭警部 「はい。実はセブンイレブンのオーナーが目撃してました」

 世渡甚六三課長 「ほお」

細波雷蔵刑事 「こういうわけです。・・・・・」

      不満オーナーの証言で、石辺五郎の供述が真実であることが確認された。

世渡甚六三課長 「うむ。やっぱり石辺は、本当のことを言ってたんだねえ」

  渡り鳥旭警部 「そうなりますね。不満オーナーが、嘘を言う理由も無いですから」

世渡甚六三課長 「そうすると、こういうことになるのか。怪人60面相は、警察官が張り込んでいるのを察知して、咄嗟に石辺を代理人に仕立てて、行方8段の自宅からトロフィーを盗ませようとした」

   暇名小五郎 「はい」

世渡甚六三課長 「2人が接触したのは、セブンイレブン初台店の中で、最初は客を装った。そして、車に乗ってから、すぐ忘れ物をしたと言って、石辺に取りに行かせた」

   暇名小五郎 「結構です」

   実は、暇名小五郎には細かい点で、疑問がいくつかあったのだが、あえて言わずにいた。
    まだ疑問が、具体的な形になっていなかったからである。

世渡甚六三課長 「石辺は、料金を倍額払うと言われて喜んで引き受けた。そして、指示されたとおり808号室へ入り、トロフィーを持ち出してきた。そして、タクシーへ戻ってみると、客はいなくなっていて、警察が飛び掛ってきたというわけか」

       世渡課長は、自問自答するように繰り返しつぶやいていた。
      こうして、石辺五郎は嫌疑が晴れて、釈放されたのである。

駒の流儀・第13部  第67章

第67章「容疑者の反応」

 石辺五郎 「まだなんかあんのか!!!11!!!!!!!」

再度の取調べで、石辺は機嫌が悪かった。

渡り鳥旭警部 「うむ。さっき初台のセブンイレブンに行ってきたが、お前が言うような男を見た人はいなかった」

   石辺五郎 「したら、自分は嘘ゆてるてのか!!1!!!!!!!!!」

渡り鳥旭警部 「いや、そうは言っていない。ただ、目撃者がいないので、事実かどうかわからんということだ」

 世渡甚六三課長 「ところで君は、その客の男が別れたがっている彼女と出くわしたら困るから、代わりに行って来てくれと頼まれたんだったねえ」

   石辺五郎 「ああ!!!!1!」

世渡甚六三課長 「もし本当に、その彼女と鉢合わせしたらどうするつもりだったのかね?」

  石辺五郎 「ああ、そん時は友達だから遊びに来たて言えて言われたんだけどな!111!111」

世渡甚六三課長 「なるほど。用意周到だね」

  細波雷蔵刑事 「しかし課長。彼女云々自体が作り話なのですから、鉢合わせすることはあり得ませんよ。だから、出会った場合を想定して、言い逃れの答えを用意させるというのは理屈に合いませんよ」

  世渡甚六三課長 「そんなことはないね。石辺氏に作り話だと悟られないようにするためだと思う。慎重で綿密だよ」

     世渡課長が、石辺五郎に煙草を差し出して、火をつけたところで、渡り鳥警部がいきなり懐から手紙を出して、石辺の目の前に置いた。
  

渡り鳥旭警部 「この手紙はお前が書いたのか?」

   石辺五郎 「なんだこれは!!1!!11!!!」

       不意に手紙を突きつけられて、石辺は面食らった様子だった。

細波雷蔵刑事 「覚えが無いはずないだろ。お前が書いたことは分かってるぞ」

   石辺五郎 「これは書いた字でねえじやねえか!!!1!!!1」

手紙を手にとって見た石辺は、鼻で笑った。世渡課長は、その様子をじっと観察していた。

渡り鳥旭警部 「その通りだ。字体からバレないように、切り抜いた文字を貼っている。なかなか用心深いじゃないか」

 石辺五郎 「自分はこんなも知らねえ!1!1!1!」

世渡甚六三課長 「ま、知っててもそう言うだろうがね。はっきりするまで、もう少し居てもらうぞ」

      結局、細波刑事の提案で手紙を見せたものの、はっきりとした反応は無く、石辺が嘘をついているかどうかは判然としないままだった。

世渡甚六三課長 「うむ。ほんとに分からないのか、とぼけてるのか、どうもわからん」

  渡り鳥旭警部 「同感です。とぼけてるとしたら、相当な役者ですなあ」

細波雷蔵刑事 「私には、嘘を言ってるようには見えませんでした」

 世渡甚六三課長 「うむ。どうしたものかなあ」

     翌日、セブンイレブンの大那店長から世渡課長に電話があった。
       店のオーナーが、お話したいことがあるから来て欲しいということで、早速、渡り鳥警部と細波刑事が初台まで駆けつけた。

     暇名小五郎と温対記者も、世渡課長からの連絡でそれぞれ初台店まで急行した。

渡り鳥旭警部 「お電話を頂きまして。何かありましたか?」

 大那舞斗店長 「わざわざすみません。もう少ししたら、店のオーナーが来ますので、奧でお待ち下さい」

     奧といっても、コンビニのバックルームは、狭い机を1つ置いた事務室があるだけで、大人3人入れば満室である。

渡り鳥旭警部 「オーナーさんは、ここに住んでるのではないんですか?」

 大那舞斗店長 「ええ。ここの2階は私が住んでまして、オーナーの自宅は上北沢です」

      温対記者と暇名小五郎は、座る椅子が足りず、立ったまま聞いていた。

細波雷蔵刑事 「そうですか。ここへは車ですか?」

 大那舞斗店長 「そうです。あちこちに店があるので、車でないと動きがとれないんですよ」

渡り鳥旭警部 「ほお。ここだけじゃないんですか。何店舗お持ちなのですか?」

  大那舞斗店長 「えーと。上北沢、東松原、高円寺、朝日橋、用賀、馬事公苑、登戸、それに初台で8店舗です」

温対記者 「凄いすね。やり手のオーナーさんですねえ」

      話をしているうちに、入り口から60歳代位の男性が入ってきた。
       店員が頭を下げて挨拶しているところをみると、彼がオーナーのようだった。

不満多羅オーナー<68歳> 「どうも初めまして。不満といいます」

       刑事たちに名刺を渡して、挨拶した後、不満オーナーが意外なことを口にした。

駒の流儀・第13部  第66章

第66章「暗礁」

  結局、石辺五郎に依頼したとされる男を、見たという目撃者は現れなかった。

細波雷蔵刑事 「防犯カメラのテープ交換を忘れるというのは、よくあることなのですか?」

  大那舞斗店長 「そうですね。原則は24時間なのですが、それを守っている店は、ほとんど無いと思いますね」

渡り鳥旭警部 「ほお、そうなんですか」

 大那舞斗店長 「はい。万引き予防という視点からだと、46時中録画すべきなのですが、ビデオテープは最長でも6時間なので、そのたびに取り替えるのは、結構手間が掛かるんですよ」

渡り鳥旭警部 「なるほどねえ」

  大那舞斗店長 「実は、今回のように忘れるということも度々あって、珍しいことじゃないんですよ」

細波雷蔵刑事 「へえ。そういうもんなんですか」

  大那舞斗店長 「ええ。ですから万引き予防というよりは、強盗対策の意味合いのほうが強いので、どうしても夜間の11時頃から朝まで録画するようになっています」

渡り鳥旭警部 「なるほど。どうしても強盗は、客の少ない深夜になるからか」

  細波雷蔵刑事 「録画したテープは、何日位保管しておくのですか?」

大那舞斗店長 「店によって違いますが、うちは1週間くらいです。繰り返し使いますから、すぐボロボロになりますけどね」

     両刑事は、次に代々木自動車に出向いて、営業所長と面会した。

天秤座冬彦所長<48歳> 「うちの石辺が事件を起こしたと聞きましたが、ご迷惑をおかけしました」

     中年の営業所長は、実直そうで腰の低い男だった。

  渡り鳥旭警部 「その石辺さんですが、もう勤めは長いのですか?」

天秤座冬彦所長 「15年ほどになります。長いほうですね」

      代々木自動車の応接室に通されたが、すぐコーヒーが運ばれて来た。

  細波雷蔵刑事 「勤務態度などは、どうですか?」

天秤座冬彦所長 「遅刻や無断欠勤などはしないし、真面目ですが、少し乱暴なところがあって・・・」

      刑事たちにも、所長の言おうとすることは分かった。

  渡り鳥旭警部 「会社の寮に住んでいるそうですが、寮には何人ぐらい入っているのですか?」

天秤座冬彦所長 「100人前後です。ほとんどが独身で、地方出身者ですよ」

  渡り鳥旭警部 「ここだけの話ですが、石辺さんは過去に、寮で何か問題を起こしたということがありましたか?」

天秤座冬彦所長 「つまり喧嘩とか、盗みとかですか?」

       飲み込みが早い。所長は刑事たちの意図を察していた。

  渡り鳥旭警部 「ええ。警察に連絡するほどではないトラブルがあったかどうかですが」

天秤座冬彦所長 「そうですねえ。酒を飲んで騒いだことはありますが、根は真面目で悪いことをする人間ではないと思いますよ」

      上司が従業員を庇うのは当然だった。
     刑事は、所長にも例の乗客のことを聞いてみたが、知らないようだった。
       他の運転者たちにも聞いてくれたが、誰も知らないと答えた。

   

    警視庁に戻って来たふたりの刑事は、早速世渡課長に報告を行った。

渡り鳥旭警部 「セブンイレブンの店長と、代々木自動車の営業所長にも面会して話を聞いてきましたが、収穫なしでした」

      どうやら、暗礁に乗り上げた船のようになってきた。

世渡甚六三課長 「石辺の証言が事実かどうかが、まだ分からんなあ」

  細波雷蔵刑事 「タクシー会社の所長や同僚の話では、悪いことするような人間ではなさそうです」

世渡甚六三課長 「うむ。だが、見かけでは判断できん」

  渡り鳥旭警部 「一応、寮の石辺の部屋も覗いてきましたが、別に怪しいものは出てきません」

世渡甚六三課長 「そうか」

  細波雷蔵刑事 「課長。この際、石辺五郎にあの怪人60面相からの予告状や犯行声明文を見せてみたらどうでしょうか?」

      時折、変わった提案をするのが、細波刑事の特徴だった。

世渡甚六三課長 「うん?! なぜだ?」

  細波雷蔵刑事 「再尋問という形で呼んで、いきなりこの手紙を見せて、反応を見るんです」

世渡甚六三課長 「ほお」
 
  細波雷蔵刑事 「不意を突いたら、案外ボロを出すかも知れません」

渡り鳥旭警部 「成る程、面白いね。ある程度、咄嗟の態度で分かることがある」

      この方法は、取調べの過程で時々用いられることがあるが、結構効果がある手法であった。
       一種の嘘発見器のようなものである。 

世渡甚六三課長 「よし。試してみよう」

      世渡課長は、石辺五郎を取調室に再度連れて来るように命じた。

駒の流儀・第13部  第65章

第65章「被害のない被害者」

    ふいに暇名小五郎の脳裏に浮かんだのは、もうひとりの候補者木村8段宅のことだった。

暇名小五郎 「警部、豪徳寺のほうはどうなりましたか?」

 渡り鳥旭警部 「うむ。容疑者を検挙したので、あっちのほうは解散させたよ」

暇名小五郎 「そうですか。一応、木村8段に被害はないかどうか、もういちど確認していただけますか?」

  渡り鳥旭警部 「うん? まだ石辺が怪人60面相かどうかは分からないが、トロフィーを持ち出している以上、狙われたのは行方8段で間違いないはずだが・・」

      渡り鳥警部は、暇名が何故、木村8段のほうを気にするのか不思議そうだった。

暇名小五郎 「はい。それはその通りですが、念のための確認です」

  渡り鳥旭警部 「そうか。いいだろう」

      
      渡り鳥警部からの指示を受けて、すぐさま細波刑事から、木村8段に連絡がいったが、何も盗られたものは無いという回答だった。

  温対記者 「暇名さん。やはり行方8段のほうですよね」

暇名小五郎 「今の状況では、それしかないですね」

       途中で、世渡課長も顔を出した。

世渡甚六三課長 「結果として犯人は別人のようだが、被害は無事に食い止めた。それだけでも前進だろう」

     怪人60面相の犯罪は、失敗したのであろうか。被害者はいても被害は無かった。

渡り鳥旭警部 「いや課長、まだ石辺が犯人ではないと決まったわけではないです」

  世渡甚六三課長 「わかってる。だが、今までの犯行と比べても、やり方が稚拙だ。まず違うとみたほうがいいだろう」

暇名小五郎 「私も同意見です」

 世渡甚六三課長 「問題は、石辺の供述が本当かどうか、依頼したという男は存在するのかだが、裏を取って、事実だったら釈放していいよ」

渡り鳥旭警部 「わかりました」

      渡り鳥警部と細波刑事は、再び初台に向った。

       こんどは最初にセブンイレブン初台店へ入った。
      店にはあらかじめ連絡しておいたので、店長が待っていてくれた。

渡り鳥旭警部 「どうも忙しいのに恐縮です」

 大那舞斗店長<38歳> 「いいえ、構いません」

      まだ若い店長だった。
  

渡り鳥旭警部 「近くのタクシー会社の運転手を、盗難事件の容疑者として現行犯逮捕しました」

 大那舞斗店長 「知っています」

       マンションでの怪人60面相による盗難事件は、もう近隣に知れ渡っていた。
 

渡り鳥旭警部 「その容疑者ですが、自分は犯人ではなく、店の中で声を掛けられた客の男から、品物を持ってくるように頼まれたと供述しています」

  大那舞斗店長 「うちの店の中でですか?」
 

細波雷蔵刑事 「そうです。それでその話が本当かどうか確認したいのです」

 大那舞斗店長 「なるほど。で、その男はどんな人相ですか?」
 

      石辺五郎の供述どおりの説明をしたが、当時の客や従業員に聞いても、みな記憶がないということだった。

 大那舞斗店長 「私は自宅で仮眠してましたが、いつもその時間帯はタクシーの運転手さんや、近くの学生さんたちが弁当やおにぎり、飲み物などを買いに来ますので、物凄く混雑します」
 
細波雷蔵刑事 「じゃあ、なかなか気がつきませんね」

 渡り鳥旭警部 「店内に防犯カメラが備えてありますが、録画したテープがありますよね?」

       渡り鳥警部は、ここへ来た最大の目的に話を移した。

大那舞斗店長 「録画テープですか・・。それがですね、その時間帯のものは無いんですよ」

  渡り鳥旭警部 「無い!?。 どうしてですか?」

大那舞斗店長 「はい、ちょうどその時間にテープがいっぱいになってて、テープ交換していなかったんです」

 細波雷蔵刑事 「いつもは誰がテープを替えるのですか?」

大那舞斗店長 「私が店に居るときは、私が交換するのですが、バイトの学生が休んだので、前日は私がシフトに入っていたので・・・」

  細波雷蔵刑事 「それじゃあ、店長さんが居ないときは、誰がテープ交換するのですか?」

大那舞斗店長 「別に誰と決まっているわけではないです。誰でも出来る作業ですから、私が居ないときは、その時間に入っている者がすることになっています」

  渡り鳥旭警部 「では、どうしてその日は録画しなかったのですかね?」

大那舞斗店長 「はい。さっきも言ったように、混んでる時間帯だったので、テープを替えてる余裕が無かったのだと思います。そのうち時間が経って忘れてしまったようです」
 
 渡り鳥旭警部 「うむ。つまり録画していなかったのですね」

       店長は、申し訳なさそうに頭をかいた。
 

コメントの表示オプション

お好みの表示方法を選択し、「設定の保存」をクリックすると、表示方法を変更することができます。