駒の流儀・第12部

第60章「侵入者」

 温対記者 「だけど、怪しい人なんか出入りしたりしたら、どうするんですか?」

      温対も、ムキになって聞いた。

今陣孝太郎 「どうもしませんよ。私は警備員じゃなくて、管理人ですから」

     言われてみればその通りだが、嫌に冷静な男である。

  温対記者 「そ、そうすると、誰が出入りしても自由ということですか?」

      こうなると、もう引っ込みがつかない。

今陣孝太郎 「そうね。あんまり変なのは注意しますが、基本的には自由です」

      あくまでも割り切った考え方をするのは、性格のようだった。

  温対記者 「でも、普段あまり見かけないような人が来たら、気をつけますよね?」

       もう、意地である。

今陣孝太郎 「あなたね。ここの居住者は何人いると思います? 300人ですよ。そして、その友達や親戚に家族、仕事関係の人とかセールスマンに業者を加えると、その倍以上です。その人たちの顔を覚えてられますか?」

  温対記者 「そうなんですか。そう言われると・・」

       とても太刀打ちできない。
 

今陣孝太郎 「それに、怪しいといったって、どういう人が怪しいのかね? 私は怪しい者ですとでも書いたプラカードを、首に下げてるんですか?」

       つけ入る隙がなかった。この管理人は、只者ではないようだ。

渡り鳥旭警部 「暇名さんたちは、何処で待機しますか?」

      警部が、話題を変えた。

  暇名小五郎 「そうですね。出来ればここで、ご一緒させてくれませんか?」

      このマンションの管理人室では、各階の廊下の様子はモニターに映し出されるようになっており、渡り鳥警部は、ここで指揮を執っていた。

  暇名小五郎 「細波さんたちは、どこにいるのですか?」

渡り鳥旭警部 「うむ。行方8段の自室の隣りの部屋です。809号室を借りた」

 温対記者 「じゃあ、犯人が来たらすぐ連絡できますね」

      暇名たちが来てから、1時間ほど過ぎた。
       
      さらに、20分ほど経ったとき、正面玄関入り口から体格の良い男が入ってきた。

渡り鳥旭警部 「今陣さん、今の男は居住している人ですか?」

     警部は、すぐ管理人に尋ねた。

 今陣孝太郎 「さあ。見たこと無いね」

      その男は、ゆっくりとエレベーターの前まで歩いていった。

  温対記者 「エレベーターに乗りましたけど、まさか8階じゃないですよねえ?」

      温対の言葉とは逆に、エレベーターは8階で止まった。

渡り鳥旭警部 「いま男が8階で降りた。ゆっくり部屋番号を確認しながら歩いてるぞ」

      渡り鳥警部が、携帯で話をしている相手は、どうやら809号室で待機している細波刑事のようだ。

渡り鳥旭警部 「808号室の前で、何かを確認しているようだ。左右を見ているぞ」

      男は、廊下に誰もいないのを確認してから、ドアに手を掛けた。

渡り鳥旭警部 「中に入った。まだ動くな」

       その男が、怪人60面相なのか? 緊張が走った。

  細波雷蔵刑事 「了解。指示を待ちます」

      暇名小五郎も温対記者も、8階の廊下を映しているモニターに釘付けになっていた。

 温対記者 「まだ出てこないですねえ。何してるのかなあ?」

      その男が行方8段の部屋に侵入してから、5分ほど経過した。

暇名小五郎 「そうですね。もうそろそろ出てくるはずですが・・」

      暇名の言葉が終わらないうちに、男が出てきた。

渡り鳥旭警部 「出てきたぞ。手に何か持っている」

      温対は、手のひらが汗でびっしょりになっていた。

  細波雷蔵刑事 「抑えますか?」

渡り鳥旭警部 「いや、まだだ。もう少し待て」

 細波雷蔵刑事 「了解」

        行方8段宅に侵入した男は、落ち着き払って、ゆっくりとした足取りでエレベーターに乗り込んだ。

渡り鳥旭警部 「よし。エレベーターに乗ったぞ。部屋を出て追跡しろ」

  
       渡り鳥警部が、刑事たちに号令を掛けた。
     
     怪人60面相は、ついに正体を現したのであろうか? 風雲急を告げるかのように、外は雨が降り出してきていた。  

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 05/24/2010 - 13:21 categories [ ]

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駒の流儀・第12部  第63章

第63章「取調べ」

  住居不法侵入の疑いで逮捕された男は、早速警視庁で捜査三課の取調べを受けていた。

世渡甚六三課長 「名前は?」

  石辺五郎<39歳> 「イシベゴロウだ!!1!!!!!!!!!!」

尋問は、世渡課長が直々に行った。

世渡甚六三課長 「生まれはどこだね?」

  石辺五郎 「福島県の会津若松だ!11!!!!!!!」

世渡甚六三課長 「ところで君は、なぜ捕まったのか解かるかね?」

  石辺五郎 「さつきからわかんねてゆてんでねえか!!!!1!!」

 石辺は大きな声で吠えた。

 石辺五郎 「自分がなにしたてんだてさつきから聞いてんでねえか!!!1!!!!!!!11!!!」

世渡甚六三課長 「まず、他人の家に勝手に入ったこと。それから・・・」

  石辺五郎 「勝手に入ったんでねえぞ!!!!!!111」

世渡甚六三課長 「ほお。どういうことだね?」

        世渡課長は、身を乗り出した。
 

 石辺五郎 「自分があそこのビルの前まで、乗せてきた客のやろに頼まれたんだ!!!!!!11」

世渡甚六三課長 「頼まれた?」

          課長は、今度は座りなおした。

  石辺五郎 「そうだ!11 客のやろが808号室が自分の部屋だから、そこに行って右奧の洋間に置いてあるトロフィーを持って来てくれてゆうから、しかたねえから取りに行っただけでねえか!!!!!!」

世渡甚六三課長 「だが、客がなぜそんなことを君に頼んだんだね?」

      取調べが行なわれている部屋には、渡り鳥警部や細波刑事、そして初台から駆けつけてきた暇名小五郎と温対記者も、特別の許可を受けて同席していた。
  

 石辺五郎 「もしかしたら別れようとしてる彼女が、来てるかも知れねんで、会ったらまずいから、自分の代わりに取って来てくれて頼まれたてことでねえか!1!11!1!1」

世渡甚六三課長 「君は変だとは思わなかったのか?」

  石辺五郎 「別になんも変でねえじやねえか!1!!111 それにタクシー代も倍出すてゆうから、ありがてえと思っただけだけどな!!!!1!!!!」

世渡甚六三課長 「部屋の鍵はどうした?」

       文字通り、鍵を握る質問である。
 

  石辺五郎 「鍵はかかてねえから、そのまま入れてゆてた!1!!1!!1」

世渡甚六三課長 「なるほど。それで品物を持ってタクシーに戻ったら、いきなり捕まったというわけだね」

      課長は、この答えについては軽く聞き流してしまった。

   石辺五郎 「そうだ!1!!!!!!111!」

世渡課長は、暇名小五郎のところへ来た。

世渡甚六三課長 「暇名さん、どう思うかね?」

 暇名小五郎 「ある程度、納得いきますが、まだわかりませんね」

渡り鳥旭警部 「課長、石辺ですが。たしかに代々木自動車の運転手でした。あの車は石辺専用の営業車です」

 温対記者 「暇名さん。やっぱり見覚えがあると思ったのは、代々木タクシーの制服だったんですねえ」

        温対記者は、ようやく思い出したようである。

世渡甚六三課長 「そうか、そうするとまんざら嘘でもなさそうだな」

 暇名小五郎 「三課長、できたら私も少し質問したいのですが、よろしいですか?」

      警察官でない者が取り調べをすることは出来ないことになっているが、尋問ではなく、確認という形ならば良いということで、暇名小五郎が石辺五郎に質問することになった。
  

暇名小五郎 「石辺さん。あなたに頼んだ客の人相は、覚えてますか?」

   石辺五郎 「よく覚えてる!1!!1」

暇名小五郎 「そうですか。で、どんな人相でしたか?」

  石辺五郎 「そうだなあ、サングラスしてマスクもして、野球帽被ってたけどな!!!1!!!1!!」

  温対記者 「ええ! それじゃあ何もわからないすよお」

暇名小五郎 「うむ。完全な変装ですね。では、背は高いほうでしたか?」

  石辺五郎 「さあな。高いような、普通ぐれえだと思うけどな!1!1」

暇名小五郎 「なるほどね。低くはなかったということですね」

       石辺は言葉遣いは荒っぽいが、温対記者が見ても、嘘をついてるようには見えなかった。
 

駒の流儀・第12部  第62章

第62章「5分の意味」

  エレベーターに乗って8階で降りた2人は、あらかじめ許可を受けていたので、すぐ808号室に入った。
   入り口には制服の警察官が2名、立ち番をしていた。

 温対記者 「凄い立派な部屋ですねえ」
     

     もちろん部屋の主の行方8段は、警察の指示であらかじめ安全な場所に、身を移していた。
  

暇名小五郎 「さっき管理人さんに聞いたら、2LDKらしいです」

      2人の住んでるボロアパートとは、別世界だった。

  温対記者 「うわぁ、広いリビングだ。13帖はありますねえ。あ、こっちはキッチンです。反対側はバスにトイレですよ」

      温対は、まるで部屋探しに来たみたいである。

暇名小五郎 「ははは。ところで、部屋の中はほとんど荒らされてませんね」

       広いLDKを一瞥すると、暇名は左奧の6帖の洋室に入った。

暇名小五郎 「ここが寝室のようですが、きれいに片付いています」

      暇名は、この部屋は簡単に済ませて、隣りの4.5帖の洋室に入った。

  温対記者 「全部の部屋がフローリングですねえ。羨ましいなあ」

暇名小五郎 「温対さん、犯人が侵入したのは、この部屋です。ほれ、ここに物が置いてあった跡があるでしょう?」

     暇名小五郎が指差した細長い置き台には、将棋関係の道具や書籍などが置かれてあったが、1箇所だけ不自然に空いているスペースができていた。

  温対記者 「ほんとだ。ここに置いてあった物を盗んだんですね」

       暇名小五郎は、その置き台のスペースを見つめながら、じっと考え込んでいた。

  温対記者 「暇名さん。なんかありましたか?」

暇名小五郎 「ええ。過去4回は犯行現場にギンナン面の駒が置いてありましたが、今回はありませんね」

  温対記者 「あ、ほんとだ。ないですね」

暇名小五郎 「どうしてだろう?」

      暇名は、不思議そうに駒がどこかに落ちてないか探していたが、結局どこにも無かった。

  温対記者 「ねえ暇名さん。ここに置いてあったのは何だったんですかねえ?」

暇名小五郎 「そうですねえ。さっきちらっと見た感じでは、男が持っていたのはトロフィーのようでしたね」

  温対記者 「ああ、そう言われると、そんなふうに見えました」

     暇名は、もう一度部屋の中を見回してから、またリビングルームに引き返し、再び6帖の洋間に入った。

暇名小五郎 「変だなあ」

  温対記者 「どうしたんですか?暇名さん」

暇名小五郎 「侵入者が持ち出したのは、トロフィー1個でしたよね」

  温対記者 「ええ」

暇名小五郎 「温対さんが、仮に怪人60面相だとして、トロフィー1個を盗み出すのに、どの位かかりますか?」

   温対記者 「そうですねえ。時間ですよね? 玄関から部屋に入って、トロフィーを見つけて持ってくるだけですから、30秒もあれば出て来れます」

暇名小五郎 「はい。私もそのぐらいだと思います。でも、あの男が部屋に侵入してから、出てくるのに5分かかっています。ちょっとかかり過ぎです」

   温対記者 「ですけど、僕が30秒と言ったのは、あくまでも最短距離で行った場合のことですから・・」

暇名小五郎 「それはわかります。初めて入る部屋なら勝手がわからないし、何処にいくつ部屋があって、何を置いてあるかもわかりません」

  温対記者 「そうですよね。それに部屋に誰か居るかも知れないでしょう」

暇名小五郎 「はい。しかし、部屋に誰もいないということは、前もって分かっていたと思います」

   温対記者 「でも、どうして前もって留守だと分かっていたと言い切れるのですか?」

暇名小五郎 「そうでなければ、逆に5分では早すぎるからですよ」

     名探偵は、細かいところまで注意深く観察していた。

  温対記者 「なるほどぉ。たしかにそうですね」

暇名小五郎 「つまり、前もって留守なことも知っていて、盗むべき品物も決めてから侵入したにしては、時間がかかり過ぎるように思うのです」

     温対記者には、暇名探偵に言われるまでは、5分という時間が不自然だとは気づかなかった。

  温対記者 「たしかに。僕が泥棒に入ったら、見つかる前に出来るだけ早く、部屋から逃げ出したいと思いますねえ」

暇名小五郎 「そうでしょう? この5分は、不思議な時間ですよ」

駒の流儀・第12部  第61章

第61章「逮捕」

  ついに怪人60面相が姿を現した。温対記者は大スクープに興奮していた。
   細波刑事とその部下たちは、すぐさまもう1機のエレベーターで下へ降りた。

   渡り鳥警部と合流した刑事たちが、すぐ後ろで見つめているのもわからず、その男は行方8段の部屋から持ち出した物を持ったまま、しばらく外の様子を窺っていた。
    周りに誰もいないのを見てから、マンションの前に停車しているタクシーに近づいた。

渡り鳥旭警部 「逃げるぞ。取り押さえろ!」

 侵入者 「なんだ!11!1 お前らは誰だて聞いてんでねえか!!!!!!!!11!!!!11!!」

いきなり刑事たちに取り押さえられた男は、大きな声を張り上げた。

細波雷蔵刑事 「住居不法侵入で逮捕する」

  侵入者 「なんだと!!!! なんのことゆてんだかわかんねでねえか!1!1!!1!1!!!」

渡り鳥旭警部 「驚いたようだな。神妙にしろ!」

  侵入者 「なにが神妙だ!!1 ふざけんでねえぞこのやろ!1!!!1!!111!!!!!!!」

細波雷蔵刑事 「いいから話は警察で聞く。おとなしくしてろ」

  侵入者 「自分はなもしてねえてゆてんでねえか!11!1! お前ら覚えてろよ!!!!!!!111!11」

騒ぐ男を、強引にパトカーに乗せて警視庁に連行した。
      さきほどから降りだした雨は、やや小降りになっていた。

     
 
     警察が去った後、暇名小五郎は何やら玄関前で、不思議そうにして周りを見回していた。

  温対記者 「暇名さん、とうとう捕まえましたね。僕たちもすぐ警視庁へ行きましょう」

      暇名は温対の声が聞こえないかのように、まだ何かを探しているようだった。

  温対記者 「どうかしたんですか?」

暇名小五郎 「いや、温対さん。さっきの男の服装に見覚えありませんか?」

  温対記者 「え、服装ですか? モニターだと色が映らないんで、よくわからないけど、そう言われると何処かで見たような気もしますね」

暇名小五郎 「それに温対さん、変だと思いませんか?」

   温対記者 「何がですか?」

暇名小五郎 「さっきの男、タクシーに何しに近づいたんですかねえ?」

  温対記者 「え? 何しにって・・、タクシーに乗ろうとしたんじゃないんですか?」

      温対記者には、暇名がなぜそんなことを聞くのか、わからなかった。

暇名小五郎 「はい。みんなそう思ったのですが、運転手がいないんですよ」

  温対記者 「あ、そういえば・・。でも、煙草かなんか買いにいってるんじゃないですかね」

暇名小五郎 「私も、はじめはそう思ったので、戻ってくるのを待ってたんですよ」

     なるほどそれで暇名探偵は、さっきから周りを見渡していたのかと納得した。
      暇名に言われて、温対も周囲を見渡したが誰も来なかった。

  温対記者 「たしかに変ですね。タクシーの運転手が、こんなに長く車から離れているというのも」

       ようやく温対記者も、何か妙だと気がついた。

暇名小五郎 「だから、あの男はタクシーに乗ろうとしたのでは無いかもしれない」

  温対記者 「じゃあ、なんのためですか?」

暇名小五郎 「さお、まだ分かりません。とりあえず、808号室の様子を見てから行きましょう」

      2人は、エレベーターまで戻って、行方8段の部屋に向った。

     さきほどからその様子を窺っていた管理人の今陣孝太郎が、2人の後姿をじっと見ていた。

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