駒の流儀・第11部

第55章「共通点」

大吉三郎委員長 「どうもさっぱり共通点が出てこないねえ」

 後呂記者 「4人とも全員男性というのはどうですか?」

皆本義経編集長 「バカヤロー! ふざけてる場合か!」

後呂にしてみれば、真面目に言ったつもりだった。

湯川慶子委員 「そういうこと言い出すなら、4人とも眼鏡をかけてないとか、煙草を吸わないとか、酒は飲めないとか、なんだって言えるじゃないの」

  喝采賢介委員 「はい。そのとおりですな」

         一切逆らわないでいる。

不利舎耕介副委員長 「そもそも、この4人は本当に駒の流儀の心得とやらに違反したのでしょうかねえ? 私には疑問だが」

   仁歩犯則書記長 「たしかに仰るとおりで、その点は怪しいというか、プロ棋士の誰もが納得しているのですかね?」

暇名小五郎 「私も同感です。怪人60面相の心得違反だとする行為を、容認するプロ棋士がいるとは思えません。ですから、やはり心得云々はこじつけだと思いますね」

  湯川慶子委員 「そうよね。持って行く品物だって、たいしたものは無いもの。私なんか、くれるって言われても貰わないわよ」

       話が横道にそれてきた。

筒井村重本部長 「4人のうち、タイトル歴があるのは屋敷9段だけですね」

      筒井が、軌道修正した。

   風小僧 「そうです。棋聖位が3期です」

筒井村重本部長 「では、優勝歴はどうだろうか?」

  風小僧 「山崎7段が、一番優勝回数が多いです。新人王戦が2回、NHK杯戦、大和証券杯、早指し新鋭戦が各1回づつで計5回優勝しています」

 世渡甚六捜査三課長 「ほお、新人王というのは2回なれるんですか?」

      たしかに素人目には、不思議なことだった。

大橋宗雪理事長 「うむ。野球の新人王とは違って、何度でも出場可能な制度になっておる。もっとも年齢の制限はあるがの」

  渡り鳥旭警部 「なるほど。そういうことですか」

伊加訓生職員 「ほかには村山5段も、新人王戦で優勝しています。屋敷9段は、全日本プロトーナメントで優勝しております。中田8段は、優勝はありません」

  丸潮新次郎委員 「そうか。これも駄目だね」

不利舎耕介副委員長 「ランクや順位はどうだろうか?」

 越中褌事務局長 「はい。段位はご承知のように、それぞれみな違います。順位戦は村山5段がC級1組、中田8段がB級2組、屋敷9段と山崎7段の2人がB級1組です」

大橋宗雪理事長 「うむ。まったく違うようだのお」

  湯川慶子委員 「棋風なんかはどうかしら?」

喝采賢介委員 「面白いところに目をつけましたなあ。流石です」

       この男は、徹底している。
   

不利舎耕介副委員長 「だが、それも違うな。中田8段は本格派だが、山崎7段は異能派だ。序盤巧者と呼ばれる村山5段、屋敷9段はオールラウンドプレーヤーだ」

 筒井村重本部長 「不利舎さんが言われるように、個性がまるで違いますねえ」

      あれこれ個別に検討しても、この4人にはこれといった共通点が見出せなかった。

大吉三郎委員長 「弱りましたな。突破口が無い」

     みんなが思案に暮れているときに、暇名小五郎の秘書としてくっついて来た藤田舞子が、変なことを言い出した。

藤田舞子事務員 「あの。変なことを聞きますけど、新人王と新人賞は違うものなんですか?」

      一瞬、みなポカンとした表情になった。

 湯川慶子委員 「あなた、ほんとに変なこと聞くわね。同じに決まってるじゃないの」

      湯川女史は、無知な質問だとばかりに嘲笑した。

藤田舞子事務員 「でも、それじゃあ、どうして呼び方が違うのかしら」

  湯川慶子委員 「しつこいわね。同じだって言ったじゃない」

       同じ女性で、しかも若くて可愛い子が発言したのが、気に食わなかったようで、眉間に皺をよせた。

温対記者 「そ、そうだよ。舞子ちゃん、それは同じじゃないかなあ」

        温対が慌てて、2人の間に入った。

 仁歩犯則書記長 「湯川さんが言うように、呼び方が違うだけだと思うけど・・」

山城寬斎事務局長 「いいや、そやないで。舞子はん、いいところに気がついたがな。新人王はタイトルやが、新人賞は将棋大賞の表彰や。全然別物やがな。女の直感は凄いでんなあ」

    
  藤田舞子事務員 「でしょう。やっぱりそうなのね」

     山城も余計な事を言ったものである。湯川女史の顔色が変わった。

  風小僧 「事務局長が言うように、この2つは全く別物でして、記録を調べると、4人とも新人賞を受賞していますよ」

藤田舞子事務員 「ほんとう? じゃあ、それが共通点だわね」

    藤田舞子は小躍りして喜んでいたが、他の男性委員たちは、なぜか息を潜めるようにして一言も発しなかった。

     多勢の将棋通の中で、ただ1人将棋を知らない若い女性が、共通点を探り当てたのである。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 火, 05/18/2010 - 13:41 categories [ ]

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駒の流儀・第11部  第59章

 第59章「初台のマンション」

温対記者 「ねえ、暇名さん。駅からここまで7分ぐらいって聞いてたけど、実際歩いたらもっとかかりましたよねえ」

 暇名小五郎 「はは。17分の聞き間違いじゃないですか?」

      まさか、アベベが歩いての話でもなかろう。
   

  温対記者 「たしか、このあたりにあるマンションだといってました。何処だろ?」

暇名小五郎 「コンビニで聞いてみましょうか?」

      そのほうが手っ取り早そうだったので、2人はセブンイレブンに入った。

  温対記者 「ちょっとお聞きしたいんですけど、<ダイヤパレス初台>って、どの辺にあるかわかりますか?」

     店員は、20代位の若い男性と、50代の女性だった。

男性店員<22歳> 「さあ。このあたりはマンションがいっぱいあって、名前を聞いてもわからないんですよ」

      店員が考えてるときに、誰か入ってきた。

  男性店員 「あ、不知火さん。丁度いいところに来た」
 
不知火一徹<56歳> 「ん? 何んだい?」
 

      店に入ってきたのは、緑のブレザーに紅いネクタイをした50過ぎ位の男だった。
       これが代々木自動車の乗務員の制服である。

 男性店員 「今、お客さんに聞かれたんですけど、ダイヤパレス初台っていうマンションだけど、わかりますか?」
  
不知火一徹 「ああ、そこだよ」

      さすがタクシーの運転手である。即座に分かったようで、不知火は店の外に出て、右前方を指で示した。

暇名小五郎 「あ、あそこですか。わかりました。有難うございます」

     牛乳とパンを買ってから、2人は礼を述べて店を出てきた。

   温対記者 「なんだ。すぐ近くでしたね」

暇名小五郎 「はは。そんなもんですよ」

     もうかなり暗くなってきていた。マンションは、16階建てのきれいな建物だった。

  温対記者 「僕のアパートとは、全然違うなあ」

暇名小五郎 「ははは。そんなことはない。同じですよ」

     
     正面入り口から入って、マンション内の奧にある管理人室に行くと、刑事たちが3人居た。
      全員管理人や掃除人のような格好をしていた。

渡り鳥旭警部 「おお、こっちは暇名さんと温対さんの担当かね。ご苦労さんだねえ」

     渡り鳥警部が、うれしそうに出迎えてくれた。やはり名探偵が来てくれると、心強いのであろう。

暇名小五郎 「警部、今夜当り来そうですね」

  渡り鳥旭警部 「そうだといいがね。あ、この人は本物の、このビルの管理人さんだよ」

        警部は、傍に立っていた男性を暇名たちに紹介してくれた。

今陣孝太郎<44歳> 「イマジンです。ここの管理人をしてます。よろしく」

       40前後の実直そうな男だった。

温対記者 「こちらこそよろしく。行方8段の部屋は何階でしょうか?」

   今陣孝太郎 「8階です」

暇名小五郎 「行方さんは、今は不在でしょうけど、いつもは何時頃に帰ってきますかね?」

  今陣孝太郎 「さあ。その日によって違いますよ。どっちかというと不規則な生活なのでは?」

暇名小五郎 「管理人さんは、ここは長いのですか?」

  今陣孝太郎 「管理人の仕事は長いですが、このビルは3年目です」

      頭の良さそうな人物だった。

暇名小五郎 「そうですか。このビル内に泥棒が侵入するとしたら、どこから入るでしょうねえ?」

  今陣孝太郎 「はは。入り口から入りますよ」

     冗談なのか、本気なのかわからないが、シャープな受け答えをする男である。

温対記者 「それはそうだけど、入り口から入ったら、すぐ見つかるでしょう」

 今陣孝太郎 「そうです。ですが、私には何処の誰かは分かりません。ここの住民の友人や家族かも知れないし、入るのを止めることは出来ませんよ」

駒の流儀・第11部  第58章

第58章「執念の捜査」

   
  木村一樹8段対行方尚志8段戦が終わり、すぐ検討会が開かれたが、こんどばかりはどちらが被害者になるのか意見が分かれたため、2人とも被害者と想定して、対策をたてることになった。

     【霞ヶ関 警視庁捜査三課】

世渡甚六三課長 「専門家の皆さんの意見を聞いても、どちらとも言えないということなので、やむを得ず2人ともマークするつもりです」

 赤外線透警視総監 「うむ。両対局者とも、本来の棋風とは異なる将棋を指していたようだね」

細波雷蔵刑事 「そのようです。それでなおさら分からなかったようです」

  世渡甚六三課長 「但し、2人のうちどちらかが被害者になるのだけは確実でしょう」

赤外線透警視総監 「そうらしいね。対象者はぐんと絞られたわけだ」

      心なしか、警視総監の顔に明るさが戻ってきていた。

赤外線透警視総監 「ところで、怪人60面相には我々が、被害者の共通点に気がついたことを知っているだろうかねえ?」

  世渡甚六三課長 「それは何とも言えません。合同検討会も含めて、かなりの人数が協力してくれてますので、どこかで洩れている可能性はあります」

赤外線透警視総監 「うむ。そうなると現れないということもあるね」

 渡り鳥旭警部 「いや。今までの彼の行動パターンをみても、予告どおり実行していますので、必ずやって来るはずです」

世渡甚六三課長 「私も警部と同じ意見です、警視」

     そういう意味では、怪人60面相は警察の信頼が厚かった。

渡り鳥旭警部 「問題なのは何を盗まれるかですが、それがとんと見当が付きません」

 世渡甚六三課長 「そうだな。今までは、何となく見当が付いたんだがねえ」

渡り鳥旭警部 「はい。とりえず両者が過去に受けた賞品や記念品なども調べてみましたが、これというものが出てきません。非常に難しい状況です」

  赤外線透警視総監 「なんにしても、こんどで5回目だ。またやられたら世間に笑われるだけじゃすまない」

      刑事たちは、赤外線警視の首がかかっていることも十分承知していた。

世渡甚六三課長 「現在、それぞれの棋士の自宅を見張っています。私が陣頭指揮をとって、必ず怪盗を検挙してみせます」

     世渡課長には、派手さはないが、真一文字に結んだ唇には、犯人逮捕への執念が感じられた。

赤外線透警視総監 「うむ。期待してます」

     木村8段の自宅は、世田谷区の豪徳寺。ここは、世渡課長が指揮を取る。
      行方8段の自宅は、杉並区初台で、渡り鳥警部と細波刑事が詰めていた。

     
     週刊ポテト社でも、木村8段宅が皆本編集長と後呂記者。
      行方8段宅が温対記者と暇名探偵が受け持つことになった。名コンビ再びである。
   

     行方8段宅の住所は、渋谷区初台西原1丁目なので、暇名と温対の2人は京王線に乗って、初台駅で降りて歩いた。
 

  温対記者 「歩いても7分位だそうですよ」

暇名小五郎 「駅に近くて便利なところに住んでるんですね。新宿や渋谷にも近いし」

      2人が降りた初台駅は、京王新線の駅であり、新宿からは1駅である。
       ホームは二層構造になっていて、地下2階が上り線、地下3階が下り線である。
      
      2人が出てきたのは、幡ヶ谷寄りの階段を上った地下1階の中央改札口で、その中央改札口を出て地下自由通路を通って、北口へ抜けてきたのである。
 

温対記者 「なんか、この辺はマンションや高級アパートがたくさんありますねえ」

      まさに、マンションなどのビルが林立しているという趣だった。
       甲州街道を背にして、なだらかな坂を降りていくと、途中に大きなタクシー会社があった。

  温対記者 「へえ。こんなところにタクシーの会社がある」

暇名小五郎 「代々木自動車ですよ。私らがいつも乗ってる」

      よく見ると、見慣れた緑の車体に黄色い斜線が引いてあるタクシーだった。

温対記者 「あ、そうですね。都内を走るタクシーでは、よく見かける車ですねえ」

      代々木自動車は、業界最大手のタクシー会社で、従業員教育にも力を入れている優良企業という評判である。

温対記者 「乗務員募集の張り紙も出てますね。給料もいんですかね?」

  暇名小五郎 「はは。さあね」

       その代々木自動車を過ぎると、セブンイレブン初台店があった。

駒の流儀・第11部  第57章

第57章「深夜の決着」

  控え室には、プロ棋士たちも続々と詰め掛けてきていた。単に将棋の研究だけではなく、やはり棋士たちの間にも怪人60面相の噂は広がっていたのである。

温対記者 「でも暇名さん、警察も必死ですよねえ。今度こそ捕まえないと何言われるかわかんないですよね」

  暇名小五郎 「ええ。赤外線警視も、法務大臣に呼ばれたようですしね」

後呂記者 「だけど、こんな こんな取るに足らぬ事件で、法務大臣が説明を求めてくるンですかぁ!?」

  暇名小五郎 「この事件は、我々や一般の人からみるとそうでしょうね。でも、怪人60面相は、わざわざ予告状を郵送してきたうえで、犯罪を実行しているんですよ」

    温対記者 「はい」

暇名小五郎 「と言うことは、警察に挑戦状が突きつけられたのと同じことで、逮捕できなければ警察や国家の威信にかかわる大問題なのですよ」

  温対記者 「なるほどお。だから躍起になってるんですね」

暇名小五郎 「そうです。単に盗られた品物が貴重だとか、価格だとかの問題ではないと思います」

    暇名たちが話しをしている間に、将棋のほうは、だいぶ局面が進んでいた。

温対記者 「あっ、あそこに武者野先生が来てますよ」

      控え室の奥のほうに、武者野7段が将棋盤に向って対峙していたのを、温対が見つけて挨拶にいった。

  温対記者 「武者野先生こんにちは。お邪魔していいですか?」

      顔見知りの温対記者と後呂記者に挨拶されて、武者野7段も快く応じてくれた。
       温対は、早速武者野7段に局面の解説を頼んだ。
 

武者野勝実7段 「やあ、元気そうだねえ」

 温対記者 「先生、現在の局面はどっちが優勢なんですか?」

         素人は必ず優劣を聞きたがる。

武者野勝実7段 「まだ優劣はつかないよ。中盤を過ぎたあたりから差がつくかもね」

 後呂記者 「ねえ、温対さん。この2人って、なんか似てませんか?」

温対記者 「そうかなあ。どこが似てるの?」

       顔はまるで似てない両者だけに、なんのことを言ってるのか、咄嗟にはわからなかった。

   後呂記者 「いや、経歴を見てたらそっくりだと思って・・」

     温対は、後呂に言われて行方尚志8段の経歴を覗いてみた。

      
      青森県弘前市出身 1973年生 37歳
       故大山康晴15世名人門下 順位戦B級1組 竜王戦2組

        1993年4段  2007年8段
     タイトル獲得なし。将棋大賞で新人賞、勝率第1位賞を受賞

       行方尚志8段は、将来性豊かな中堅棋士だが、ここまでは今ひとつ目だった活躍が無かった。

     
    
温対記者 「あれ、ほんとだ。この2人同じ年なの?」

       同年齢とは、たしかに温対でなくとも意外であった。

  後呂記者 「絶対、木村8段のほうが上に見えますよねえ」

     別に木村が、年齢をごまかしているわけではない。

温対記者 「出身地や順位戦のクラスが違うだけで、あとはほとんど一緒だよね」

  後呂記者 「ね、不思議でしょ?」

武者野勝実7段 「ははは。ま、そうやって考えれば不思議なようだけど、実際にはよくあることで、そんなに珍しいことじゃないですよ」

      武者野7段に説明されたものの、本当によくあるケースなのかどうかは、わからなかった。

武者野勝実7段 「本局は、木村さんが積極的に攻めてますね。行方さんが受けにまわってるので、いつもとは逆な印象です」

      武者野7段は、顔に似合わず優しい声をだす。

  温対記者 「木村8段といえば<受け師>と形容されるほどですけど、いつもと違うんですねえ」

        両者ともに、玉は囲いに入っていなかった。

  後呂記者 「普通は美濃囲いとか、ミレニアムとかに囲いますよね。どうして囲わないんだろう」

武者野勝実7段 「はは。囲ってないわけじゃないんです。中住まいといってね、それなりに立派な囲いなんですよ」

      物は言いようで、プロが言えば囲ってなくても囲いにみえるから不思議だ。

 後呂記者 「へえ、そうなんですか。でも、あまり堅い囲いには見えないですけど」

武者野勝実7段 「そうだね。囲いとしては堅くはないが、両者同じようなものだし、これで案外しっかりしてるんです」

    温対記者 「と言うと?」

武者野勝実7段 「例えば、右から攻められたときは左へ、左から攻められたときは右へという具合に、結構懐が広くて捕まらないという利点もあるしね」

       局面は、終盤戦になってきていた。

武者野勝実7段 「この2人は粘り強いから、まだまだ夜中までかかるかも知れないよ」

    武者野7段は、笑いながら脅しのような、同情のような言い方をした。

 温対記者 「ほんとですか? 嫌だなあ」

      温対記者の心配どおり、決着は深夜についたのである。

駒の流儀・第11部  第56章

第56章「実力の8段」

  女同士という言い方もあるが、女の敵は女という言葉もある。
   湯川女史に対して、臆せず堂々と対抗できるのは、藤田舞子ひとりしかいなかった。
  その藤田舞子によって、犯人の動機が解明されようとしていたのである。

筒井村重本部長 「では再度、確認してみましょう。事務局どうですか?」

  越中褌事務局長 「はい、間違いないです。たしかに全員が将棋大賞新人賞を獲得しています」

       どうやら、決まりのようである。

 丸潮新次郎委員 「とうとう共通点が見つかりましたね」

不利舎耕介副委員長 「うむ。しかし、共通点イコール犯人の動機というわけではない。まだ不明な点が多い」

     慎重かつ大胆なところが、ホームズらしい。

 大吉三郎委員長 「それはそうですが、共通点が見つかったことは大きな成果です」

仁歩犯則書記長 「そうすると、これから起こると予測される盗難事件の被害者も、過去に新人賞を受賞していると考えて良いでしょうね」

       駒音探偵団の指し手予想が当り始めてきたようだ。

  喝采賢介委員 「そう考えるのが自然でしょうなあ」

大吉三郎委員長 「では、次の1週間の対局者の中で、新人賞を獲ったことがある棋士を選んで、特にその対局に注意をするということだね」

  不利舎耕介副委員長 「そのとおりです。他の対局は一切無視しても良いでしょう」

湯川慶子委員 「そうね。私も賛成よ」

      湯川女史は、軽く微笑みながら言ったが、横目ではチラッと藤田舞子のほうを垣間見た。

 渡り鳥旭警部 「わかりました。その点については皆さんに怪しい対局を指摘していただいて、なおかつ被害者を想定していただければ、我々のほうで厳重に警戒態勢を固めます」

     警察も、被害者の特定に繋がる共通点が判明したことで、犯人検挙への見通しが明るくなってきた。

      ここで、資料を調べていた事務局の伊加職員が、報告を行った。 

伊加訓生職員 「これからの1週間の対局者の中で、新人賞を受賞している棋士は2名います」

   温対記者 「へえ、誰だろう?」

伊加訓生職員 「はい。木村一樹8段と行方尚志8段です。しかも、この2人が王位戦の紅組で対局が組まれています」

   米中会長 「ほお。偶然だねえ」

喝采賢介委員 「つまり、共通点で可能性があるのは、この対局だけということになりますな」

  越中褌事務局長 「はい。そうなります。この1局だけです」

米中会長 「好取組だよ。彼らは私より強い」

         何を言いたいのか分からないが、目立ちたがっているのだけは確かだった。

筒井村重本部長 「では、今回はこの対戦1局に絞込みましょう。いかがですか?」

誰からも異議無く、木村VS行方戦に注目することで一致した。

     合同会議が終わってから2日後、東京将棋会館特別対局室では、王位戦紅組リーグの木村一樹8段対行方尚志8段戦が始まっていた。

      今日はいつになく控え室の人数が多かった。
     勿論、実力派の8段同士の激突だけに、研究を兼ねて若手の棋士たちも、多勢観戦に来ていたが、プロ棋士たち以上にマスコミや同好会などの将棋関係者が多いように感じられた。
 

温対記者 「暇名さん、今日のギャラリーは凄いですねえ」

       ここで、先手となった木村一樹8段を紹介しておこう。

     
     千葉県四街道市出身 1973年生 37歳
            故佐瀬勇二名誉9段門下 順位戦A級 竜王戦2組

      1997年4段  2007年8段
     タイトル獲得なし。将棋大賞で新人賞、勝率第1位賞などを受賞

       今更、説明の必要がないほどの実力者であり、次の名人の有力な候補と噂されている。
   

暇名小五郎 「はい。でもあまり目立つと、怪人60面相にも気づかれてしまいますね」

      暇名探偵の懸念も当然で、傍目にも何事かという雰囲気であった。

  温対記者 「ねえ暇名さん。もし被害者になるとしたら、どっちですかねえ?」

暇名小五郎 「さあ、わかりません」

        いくら暇名小五郎でも、そこまで分かるわけがなかった。

温対記者 「それはそうですよね。だけど僕は、受けの巧者と呼ばれている木村8段が被害者になるような気がしますよ」

      温対記者は自信ありそうだったが、2人のうちの1人だから、50パーセントの確率はあった。

暇名小五郎 「はは。温対さんの勘が当るといいですね」
 

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