駒の流儀・第9部

第44章「白熱の議論」

大吉三郎委員長 「さて本日は、怪人60面相の事件に対する、初めての合同検討会を開いているわけですが、まず問題点を絞るために、過去の事件経過から犯人像を探るのか、それとも予告状に基づいて次の被害者を推測するのかを決めましょう」

  桜井登常務理事 「そうだね。起きてしまった事件は警察にまかせて、我々は次の事件を未然に防ぐ方法をかんがえましょう」

     将棋連盟からは会長以下3名と事務局長が出席していた。桜井登常務理事からの提案は全員の賛成を得た。

米中会長 「ではそうすることにしますかね。事務局長、会議を進行してください」

 越中褌事務局長 「わかりました。検討できる材料は、今のところ予告状だけです。ここから何か、閃いた方は発言してください」

    なかなかこれだけの材料では、難しいに決まっていた。暫くの間、沈黙が続いた。

暇名小五郎 「まずその前に、私が疑問に思うのは、怪人60面相は3者による合同検討会が行われることを、どうして知りえたのかということです」

  不利舎耕介副委員長 「そのとおり。私もそのことを質問しようとしていたところです」

湯川慶子委員 「そうね。たしかに変ね。どうしてかしら?」

        暇名探偵の疑問は、ほぼ全員の疑問でもあったようだ。

喝采賢介委員 「たしか、手紙の消印は大阪でしたですなあ」

 細波雷蔵刑事 「そうです。投函したのは3日前です」

米中会長 「ほお。それは妙だねえ」

 不利舎耕介副委員長 「つまり、丸潮委員が合同検討会の提案をした時には、すでに投函された後ということになるが」

      聞きようによっては、まるで丸潮委員が怪人60面相ではないかと言ってるようにも聞こえた。

丸潮新次郎委員 「その点については、私に責任があります」

      丸潮委員は、照れ笑いしながら頭をかいた。

  温対記者 「え、どうしてですか?」

丸潮新次郎委員 「私が名人審議委員会の例会で、合同検討会の設置を提案したのですがね、実はあらかじめ他の2者の代表の方には、根回しをしておいたのです」

  湯川慶子委員 「どういうことかしら?」

越中褌事務局長 「その件は、私から説明しましょう。この合同検討会の元々の発案は私でして、3者が一同に介して協議したほうが、意見が集中して効率が良いと思ったのです」

 丸潮新次郎委員 「それで、皆本さんのほうにも前もって了解をとっておいてから、審議委員会に提案したというわけです」

越中褌事務局長 「どうやら、その根回しの途中で合同委員会設置の話は、広まってしまったようです」

  湯川慶子委員 「男の人って、変にプライドが高いのよね。ご自分の提案が秘訣されないように、前もって根回ししてたのね」
  

大吉三郎委員長 「なるほど。それで事前に漏れたということですか」

 丸潮新次郎委員 「面目ない」

      やはり、連盟内部の将棋関係者の線が濃厚になってきたようだ。

不利舎耕介副委員長 「ところで、銀の流儀の中で、柔軟な攻撃と書いてありますが、これに違反するとは、例えばどんな攻撃方法ですかね?」

  西村和義専務理事 「それはですね、アマチュアの人に多く見受けられますが、攻めだしたら止まらないというか、相手の陣地しか見えないという攻めをすることですね」

米中会長 「うむ。アマチュアだけではなく、女流棋士にもその傾向があるね」

     いつも言わなくてもいいことを言う男である。

 喝采賢介委員 「ということは、女流棋士が被害に遭う可能性もあるということですか?」

渡り鳥旭警部 「女流もプロ棋士だから、当然可能性はあるだろうな」

 米中会長 「お言葉ですがね、女流はプロ棋士ではありませんよ」

細波雷蔵刑事 「プロではないのですか?」

 米中会長 「違います。プロ棋士と呼ばれるのは、あくまでも奨励会を卒業して4段になった者をいいます」

皆本義経編集長 「では、女流棋士はアマチュアなのですか?」

 米中会長 「そうです。アマチュア並みということですなあ」

温対記者 「し、しかし。対局料を貰って戦っているんですから、僕はプロだと思いますけどねえ」

 湯川慶子委員 「私も温対さんと同意見だわ。私はアマチュアなので、対局料も給料も頂いていません。女流棋士もプロには違いないはずよ」

     同じ女性のことなので、湯川女史は憤然として言った。

大吉三郎委員長 「まあまあ。今はプロ棋士の正確な定義を論ずる場所ではありません。盗難の被害に遭う可能性がある人を掘り起こしているわけで、その意味では女流棋士も対象になると思いますよ」

 喝采賢介委員 「では、アマチュアの棋士はどうなのでしょうかね?」

不利舎耕介副委員長 「アマチュアの棋士のことは、考えなくていいだろうね。今まですべてプロ棋士が対象だったし、だいいちアマチュアまで範囲を広げたら、多すぎて絞込みが出来ませんよ」

  暇名小五郎 「たしかにそうですね。不利舎さんの言われるとおり、アマチュアの棋士は除外するべきです。混乱するだけでしょうからね」

大吉三郎委員長 「わかりました。では、あくまでも女流を含めたプロ棋士の対局に絞って、経過をみていくことにします」

  皆本義経編集長 「問題は、どの対局だと検討をつけることが事前に出来ないので、あらかじめ全対局に監視委員を配置しておく必要があるということでしょう」

大吉三郎委員長 「なるほど。監視するというわけですね。その点について、もう少し具体的に煮詰めましょうか」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 金, 04/30/2010 - 17:10 categories [ ]

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駒の流儀・第9部  第48章

第48章「柔軟な思考」

渡り鳥旭警部 「候補に挙がった対局は3局ですが、さて、どうやって決めましょうか?」

    この選定作業は難解で、できれば民主党の蓮紡議員に仕分けして貰いたいところであった。

 大吉三郎委員長 「それには、対象となる銀の流儀に関連する品物が何かということから、始めてみてはどうでしょうか?」

      ポアロらしい、理詰めの発想だった。

大橋宗雪理事長 「賛成じゃ。それが一番手っ取り早い」

  皆本義経編集長 「私も同感。心得は、たしか<攻>でしたね。被害に遭う品物は何だろう?」

丸潮新次郎委員 「予告状を読むと、<柔軟性>という表現を使っていますねえ」

  湯川慶子委員 「私もそれがキーワードだと思うわ」

     不利舎耕介が、嫌な顔をした。

筒井村重本部長 「しかし、柔軟性だけではねえ・・・」

      筒井の嘆きももっともで、なかなか柔軟性と品物とは結びつかなかった。

  大橋宗雪理事長 「難しいのお。詰め将棋を解くほうが簡単じゃ」

     この大橋理事長の、何気ない一言がヒントになった。

不利舎耕介副委員長 「詰め将棋? そうだ、それだ」

     不利舎が急に、大きな声をだしたので、みな不思議そうに不利舎のほうを見た。

  米中会長 「どうしたのかね?」

不利舎耕介副委員長 「詰め将棋は、柔軟な思考がないと解けません」

 大吉三郎委員長 「うむ。その通りだ」

丸潮新次郎委員 「だから何?」

      当然のように、丸潮が突っついてきた。        
 
不利舎耕介副委員長 「だから柔軟な思考とは、詰め将棋を指してるということですよ。まだ分からんのですか」

 暇名小五郎 「さすが不利舎さんです。良いところに目をつけましたね。十分あり得ますよ」

     暇名探偵も、不利舎の主張に賛成した。

湯川慶子委員 「そうよね。気がつかなかったけど、柔軟な思考と詰め将棋を関連付けるなんて、素晴らしいわね」

      こんどは丸潮委員のほうが、嫌な顔をする番だった。

不利舎耕介副委員長 「そこで、詰め将棋に関連する品物には、何があるでしょうかねえ?」

 温対記者 「詰め将棋の本」

湯川慶子委員 「ちょっと、それって当たり前じゃないの」

      当たり前と言えば当たり前だが、必要な1手だ。

皆本義経編集長 「攻め駒と守りの駒」

 桜井登常務理事 「そうだね。あと何だろう。わからんなあ」

不利舎耕介副委員長 「いいですか、つまり頭を柔軟にするためには、頭をリラックスさせる必要があります」

 喝采賢介委員 「はい。それは分かりますなあ」

不利舎耕介副委員長 「皆さんは、頭をリラックスさせる時は、どうしますか?」

 世渡甚六三課長 「私は酒かな」

    酒好きの世渡課長が、ようやく口を開いた。

大橋宗雪理事長 「儂は女じゃ」

 米中会長 「はは。酒に女は、私には縁がないねえ」

     人一倍好きなことは、出席者全員が知っていたが、臆面も無く話すものである。

湯川慶子委員 「私はスポーツよ。ジョギングとかテニスとかね。頭がすっきりするわよ」

  喝采賢介委員 「不利舎副委員長の意見はどうなの?」

       ワトスンが、ホームズの意見を尋ねた。

不利舎耕介副委員長 「私なら、音楽を聴きます」

     不利舎からみると、みんなの発想は貧困に映るようで、苦笑しながら自説を披露した。

  湯川慶子委員 「音楽ねえ。じゃあ、CDかも」

       さすがに、レコードとは言わなかった。
 

不利舎耕介副委員長 「いいえ。今の若い人は、音楽を聴くのはCDではなくて、パソコンです」

  後呂記者 「そうかあ。パソコンかあ。僕もそうです」

丸潮新次郎委員 「だが、パソコンと将棋は関係ないだろ」

 不利舎耕介副委員長 「とんでもない。大いに関係ありですよ。棋譜は全部パソコンに入れてるし、将棋の研究もパソコンですよ」

     湯川女史が興味深そうに、2人のやり取りを見ていた。

温対記者 「将棋ゲームも、パソコンですよねえ」

        不利舎は、越中事務局長のほうを向いて質問した。

不利舎耕介副委員長 「三浦9段と村山5段、近藤6段のうち、パソコンを持っているのは誰かわかりますか?」

駒の流儀・第9部  第47章

第47章「女刺客」

 持ち回りで行われることになった合同検討会は、こんどは千駄ヶ谷の東京将棋会館が受け持ちになった。
  1週間の監視結果を受けて、その報告と対策が主題である。
  司会担当は、越中事務局長ではなく、青野常務理事が務めた。

青野輝一常務理事 「では、皆さんからの報告をお受けします。順番にどうぞ」

     最初は、将棋連盟の理事役員たちが報告に立ったが、特別気になる対局は無いようだった。

 伊加訓生職員 「僕は名人戦の第3局を担当しました。挑戦者の三浦8段が非常に積極的で、ちょっといつもと違うかなという印象を持ちました」

   名人戦は、羽生義治名人が3連勝で王手がかかった。
    三浦8段としても、後の無い戦いとなったが、昨日の第3局は、三浦らしい終盤力を発揮して、あわやというところまで名人を追いつめていた。
   まだまだ、すんなりとはいかぬかも知れない。

大吉三郎委員長 「つまり三浦8段が、積極的で攻撃的だったということですね」

  伊加訓生職員 「はい。バランスのよい将棋が持ち味の棋士なので、目立ったということですが・・」

     流石は、連盟事務局きっての将棋通である。見るところが専門的だった。

山城寬斎事務局長 「わしの担当は、谷川先生と近藤6段の銀河戦だすわ。近藤6段が猪突猛進で、かなり一直線で攻め込んどりましたなあ」

 喝采賢介委員 「へえ。それは近藤6段の棋風とは、かなり違うように思いますなあ」

山城寬斎事務局長 「その通りだすがな。勢いつけて攻め込んだ銀が途中で立ち往生や」

   喝采賢介委員 「なるほど。銀が泣いてたんですな」

山城寬斎事務局長 「近藤6段の王様の囲いは、薄いまま攻め続けとったんで、この将棋なんかは狙い目かも知れまへんなあ」

  青野輝一常務理事 「ほかにはどうですか?」

不利舎耕介副委員長 「私は、村山5段と里見女流名人の対局が気になりました」

     里見は、まだ18歳の女子高校生だが、男性棋士から見ると、<女刺客>のような不気味な存在であった。

 米中会長 「ほお。イナズマ対ムラヤマだね」

     会長が、幾分冷やかすように言った。

不利舎耕介副委員長 「と言うのはですね、本来の村山5段の持ち味が、全然見られなかったからです」

     不利舎は、そんな会長の冷やかしなど聞こえなかったように、無視して話を続けた。

 大橋宗雪理事長 「ほお。村山5段の持ち味といえば、序盤の構想力に優れているところだが」

不利舎耕介副委員長 「そうです。序盤のエジソンと呼ばれる田中虎彦9段と並んで、序盤の差し回しに定評のある棋士ですが、今回は全くその片鱗がみられませんでした」

 筒井村重本部長 「うむ。<序盤は村山に聞け>という言葉もある」

丸潮新次郎委員 「相手が女流棋士だったからではないかな。なめて掛かったということでは」

  湯川慶子委員 「そうね。里見さんの色香に迷ったのかも。結局、村山5段らしさが無かったということなのね」

不利舎耕介副委員長 「ええ。序盤から速攻を仕掛けて、まったく退くことなく攻め続ける将棋で、まるで女流同士のような殴り合いの将棋でしたからね」

 大吉三郎委員長 「わかりました。そうすると、今のところ3局が候補にあがっています。この3局に限定して、さらに検討しましょうか」

      出席者に異論は出なかった。その3局を整理してみると、下記のようになる。

     羽生義治名人 対 三浦宏行8段 監視役 伊加訓生
    里見華奈女流名人 対 村山滋秋5段 監視役 不利舎耕介
     
     谷川光司9段 対 近藤正数6段 監視役 山城寬斎

 
丸潮新次郎委員 「私は、女流の将棋は対象から外すべきだと思います。明快な理由はありませんが、なぜか違和感があるからです」

 大橋宗雪理事長 「そうじゃのお。儂も同感じゃ。一番可能性があるのは、名人戦挑戦者の三浦8段ではないかのお」

仁歩犯則書記長 「たしかに、棋譜もネット中継されてますから、誰でも見れますね」

     この仁歩書記長の指摘には、賛同者が多かった。

  喝采賢介委員 「そうそう。それが重要ですな。あまり一般のフアンが手に入れられない棋譜では、対象にならないね」

皆本義経編集長 「うむ。それはそうだが、一般の人ではなく、将棋関係者なら別だ」

  喝采賢介委員 「つまり、我々のような立場の者のことですか?」

皆本義経編集長 「あくまでも可能性ですよ。だから、プロ棋士説が出てくるんだろうがね」

    誰も何も言わないところをみると、皆おなじことを考えていたようだ。

大吉三郎委員長 「なるほど。そうすると、どんな対局の棋譜でも捨てきれないということですね」

   暇名小五郎は、じっと会議の経過を見守っていたが、もう1人越中事務局長も、ほとんど発言しないで出席者の意見を聞くだけだった。

駒の流儀・第9部  第46章

第46章「1週間の対局」

 総勢25名の監視役が決まり、さっそく全対局に張り付いて、少しでも駒の流儀に抵触する疑いがある対局が見られたときは、速やかに報告が行われることになった。

  各自が分担を決めて、監視を始めてから3日目に入っていた。
  現在までのところは、銀の流儀<攻>の心得に反すると思われるような対局の報告は、指令本部ともいえる将棋連盟事務局に届いていなかった。

   その日は、ほとんどの対局が東京将棋会館で行われていたが、東京築地の朝日新聞社8階の芸能文化ルームでは、6局の対戦が既に始まっていた。

  この6局の監視担当は、名人審議委員会から不利舎、湯川、丸潮の3人、関東連合会から筒井、仁歩、大橋の3人であった。

朝日杯将棋オープン戦は、毎年全プロ棋士とアマ10人、女流6人で戦われるトーナメント戦である。
 優勝賞金は1000万円と、かなり美味しい棋戦であった。

  持ち時間は40分しかなく、実力下位の者でも十分に勝てるチャンスがある棋戦だといえる。
  今日は、女流棋士6人が一同に会して、若手男性棋士との対戦ということで、注目が集まっていた。

 清水一夜女流2冠 対 西尾旭5段 監視役 湯川慶子
  千葉凌子女流3段 対 金井耕太4段 監視役 仁歩犯則

 里見華奈女流名人 対 村山滋秋5段 監視役 不利舎耕介
    鈴木環鳴女流 対 瀬川晶二4段 監視役 大橋宗雪

  石橋幸織女流 対 宮田篤5段 監視役 丸潮新次郎
 矢内里絵子前女王 対 大平武弘5段 監視役 筒井村重

    こういう布陣で、対局と監視が行われていた。

不利舎耕介副委員長 「今のところ、気になる進行具合の将棋はなさそうだね」

 温対記者 「そうですよねえ。特に女流棋戦は関係ないと思いますけどねえ」

    温対記者は、監視役ではなかったが、取材も兼ねて会場に来ていた。
     不利舎も温対も、女流の対局には初めから気乗りがしないでいた。

  持ち時間の少ない将棋だけに、進行が早く、すでに勝敗が決まったところもあった。
   将棋フアンとして本日の目玉は、何といっても里見女流名人が若手の代表格の村山5段に挑む対局であろう。

    里見華奈女流名人は、倉敷籐花と2冠を持ち、言うまでもなく、これからの女流棋界を背負う逸材であり、男性棋士が最も恐れる女流棋士といえる。
     <出雲のイナズマ>という形容詞も伊達ではない、18歳の花の高校生でもある。

   対する村山滋秋5段は、東京都出身。
     桜井登9段門下、25歳の有望株である。
    順位戦C級1組 竜王戦4組 2007年には、新人王戦で優勝している。

   

 温対記者 「不利舎さん、いくら里見女流名人が強いといっても、村山5段には勝てないすよねえ?」

不利舎耕介副委員長 「わからんよ。村山5段は、案外女流棋士に弱いって聞いたことがあるしね」

  温対記者 「へえ、そうなんですか。意外ですねえ」

不利舎耕介副委員長 「うむ。確か清水一夜にも負けてるはずです」

     
    あの強い村山が、女流に弱いとは信じられないような話である。
     他にも畠山衛7段や青野輝一9段も女流に弱いという評判だったが、彼らに共通しているのは、真面目でおとなしく必要以上に堅くなるというところかも知れぬ。
   分かり易く言えば、うぶなのである。

 温対記者 「展開が早いですね。どっちがいんですかねえ?」

不利舎耕介副委員長 「まだ形勢は不明ですよ」

    
     局面は、四間飛車の里見に対して、村山が57銀左からの急戦を挑む展開になっていた。

 温対記者 「村山さんの形相が凄いですねえ。相手が女だから意識してんのかなあ」

      男なら誰しも、女に負けられないと思うのは当然であり、仕方が無いことだった。
     女もまた、男に勝つことは大変なことであり、勝てば自信と名誉を得ることができるため、お互いが必死だったのである。

不利舎耕介副委員長 「うむ。一気に攻め落とそうとしている感じだなあ」

    鬼のような形相で、攻め続ける村山5段を見て、不利舎耕介の眼光が一段と鋭くなったことに、温対記者は気づかなかった。
 

駒の流儀・第9部  第45章

第45章「監視」

丸潮新次郎委員 「監視するということは、我々が手分けしてプロ棋士の対局に張り付くということですね」

 皆本義経編集長 「そうせざるを得ないでしょうな」

丸潮新次郎委員 「だいたい、どのぐらいの期間を想定していますか?」

  渡り鳥旭警部 「おそらく1週間以内に、事件は起こると想定しています」

 喝采賢介委員 「つまり、1週間は監視を続けなければならないわけですな」

不利舎耕介副委員長 「なるほど。西村専務、1週間にプロの対局は何局行われるのですか?」

  西村和義専務理事 「そうね、時期によってまちまちですが、今週は何局だろう?」

      西村は、事務局長のほうを見た。

越中褌事務局長 「はい、調べておきましたが、今週はC級1組の一斉対局があるので、かなり多いです。1週間で68局あります」

  温対記者 「ええ! そんなにあるんですかあ?」

      対局数の多さに驚いたのは、温対だけではなかった。

大吉三郎委員長 「全部の対局を監視するとしたら大事だねえ」

      大吉委員長も、思わずため息をついた。

  温対記者 「1人1局としても、68人必要ですよねえ」

越中褌事務局長 「いえ、温対さん。1日で68局やるわけではないので、そんなに人数はいりませんよ。一番多い日で25局です」

  湯川慶子委員 「そうすると、最低25人は必要ね」

西村和義専務理事 「そうなりますね」

      平然として話すのが、西村らしいところだ。

喝采賢介委員 「それだけの人数が確保できますかね?」

後呂記者 「あの、報酬は出るんですか?」

 湯川慶子委員 「あら、あなたお金貰うつもりでいたの?」

後呂記者 「い、いや冗談ですよ。いやだなあ」

       後呂の本音であることは、誰もがわかっていた。

大吉三郎委員長 「まず、名人審議委員会からは5人です」

  皆本義経編集長 「うちは3人出せます」

米中会長 「私のところは、理事役員で対局の無い者は出せるが・・・。桜井君どうかね?」

 桜井登常務理事 「そうですな。10人位はなんとかなりますね」

細波雷蔵刑事 「これで18人です。あと7人」

 西村和義専務理事 「事務局からも出しましょう」

越中褌事務局長 「わかりました。私と伊加は出れます。それに関西からも応援してもらえると思います」

       山城事務局長と風小僧がいる。

渡り鳥旭警部 「俺たちは、将棋の対局を見てもわからんしなあ」

  暇名小五郎 「はは。それに警察の人が傍で見ていたら、やりずらいですよ」

渡り鳥旭警部 「ははは。それもそうだ。あと3人ほどだ」

 越中褌事務局長 「関東連合会からも、応援をいただくのはどうですか?」

丸潮新次郎委員 「なるほど、それは名案だ。なにしろ将棋に明るい人でなければ、この役は務まらないからね」

      米中会長は、あまり乗り気な顔はしなかったが、人手がないのと、他の役員たちが全員賛成だったので、渋々了承した。

大吉三郎委員長 「では連合会の大橋理事長には、私から声を掛けておきます」

  細波雷蔵刑事 「連合会のほうは、何人くらい応援してくれますかね?」

大吉三郎委員長 「4,5人は大丈夫だと思いますよ」

 暇名小五郎 「私もお手伝いできますので、人員は確保できそうですね。あとは、日程を決めて、どういうところに着目して監視すればよいか等を、具体的に決めておく必要がありますね」

     着々と準備が整ってきた。
      こうして、全対局を監視するという前代未聞の出来事が、将棋界で行われることになったのである。

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