駒の流儀・第2部

第7章「伝説の人物」

 越中事務局長が思い浮かべた人物は、元魔道館総裁関根銀四郎であった。
  魔界奇談シリーズ第2弾に登場し、故花村9段と奨励会入門試験を戦って、事件の鍵を握ることになった伝説の人物である。

  週刊ポテト社の後呂記者は、将棋連盟の越中事務局長と共に関根宅を訪れた。
 関根銀四郎の自宅は、名古屋市の閑静な住宅街にあった。

   関根銀四郎率いる魔道館は、2009年に闇の棋士との戦いに敗れ、すでに解散していた。
  引退後の関根総裁は、89歳という高齢ながら特に病床に伏すということもなく、静かな隠居生活を送っていた。

関根銀四郎<89歳> 「こんな引退した年寄りに会いに来るとは、週刊誌も暇だのお」

     口の悪さは変わっていない。

 後呂記者 「関根総裁、ご無沙汰してます。お元気そうで良かったです」

越中褌事務局長 「はじめまして」

 関根銀四郎 「もう儂は総裁ではない。普通に名前で呼んでくれんか」

    後呂記者は、越中事務局長を紹介した。越中も将棋連盟の米中会長の指示で、駒の流儀書の内容を調べていたのである。

関根銀四郎 「うむ。米中の右腕だそうだが、奴も元気なのか?」

 越中褌事務局長 「はい。元気にしております」

関根銀四郎 「相変わらず憎まれ口をきいているんだろうなあ。憎まれっ子世にはばかるというからのお。はははは」

     口が悪いのは、どちらもいい勝負だった。

後呂記者 「早速ですが、お伺いした理由をお話します。関根さんは<駒の流儀書>というものを、ご存知でしょうか?」

 関根銀四郎 「ほほお。珍しいものが出てきたのお。無論知ってるぞ」

越中褌事務局長 「ということは、見たことがあるのですか?」

  関根銀四郎 「ある」

後呂記者 「内容も読んだのですか?」

関根銀四郎 「うむ、読んだ。だが覚えていない。小学生の時だからなあ。ははは」

    89歳の関根が小学生の時なら、75年以上も前だ。これは大昔だ。

後呂記者 「ずいぶん前ですねえ。でも少しは何か記憶があると思いますが・・・」

 関根銀四郎 「いや。そもそも興味があって見たわけではないし、ほんのちょっと流し読みしただけだからのお」

  越中褌事務局長 「記憶にあるだけでいいです。覚えていることを何でもいいですから、教えて下さい」

    越中は、何とか記憶を引き出そうとしていた。

関根銀四郎 「そうだのお・・・。巻物だったが筆字で書かれていた。何が書かれていたのかは、とんと思い出せぬ」

 後呂記者 「そうですか・・。後でもいいですから、思い出したときにでも連絡してください」

関根銀四郎 「それは構わぬが、そんな古い物をいったいどうするのだ?」

この質問には、越中が後呂に代わって答えた。

越中褌事務局長 「・・・そういうわけで、米中会長も、できればその中身を知りたがっておりますので、こうして訪ねて来たわけです」

  後呂記者 「僕のほうは、会社の命令で、なんとか怪人60面相の正体を突き止めて、あわせて流儀書の存在も明らかにしたいと思っています」

    せっかく関根元総裁に面会したにもかかわらず、結局得るものは何もなかった。
   2人は謝辞を述べて、関根宅を後にした。
    越中事務局長は、まだ聞くべきことがあったのだが、後呂記者がいたために、あえて黙って帰ってきたのである。 

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 03/08/2010 - 11:23 categories [ ]

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駒の流儀・第2部  第10章

第10章「挑戦状」

 暇名小五郎が、長野県から帰ってきた日の翌日、銀座の帝王ビル3階にある暇名小五郎探偵事務所に、1通の手紙が届いた。

  藤田舞子 「先生、手紙の送り主の名前がありませんけど・・・」

暇名小五郎 「うん。時々あるんだよ、そういうのが」

  藤田舞子 「どうしますか?」

暇名小五郎 「開けて見て」

 藤田舞子 「はい。じゃあ読みます」

     訝しげな顔をしながら、藤田舞子が読み出した内容は、実に不思議なものだった。

       親愛なる暇名小五郎君

         初めましてと言うべきなのだろうが、私にはどうも君に会うのは、初めてのような気がしないのだよ。
        ま、そんなことはどうでも良いのだが、君は日本将棋連盟の依頼を受けて<駒の流儀書>の秘密を探り、私の正体までもを暴こうとしているそうだな。
        無駄なことだが、せいぜい頑張りたまえ。

       ところで、この怪人60面相から君にひとつ忠告しておこう。  
        駒の流儀書に書かれている7つの流儀に抵触する行為を行った棋士からは、それにふさわしい物を、罰として頂戴するつもりだ。

       ★第1の流儀は『歩』の流儀である。

         そして、その心得は『座』

        座とは、<棋士が対局場において座す時は、その技量、実力はもとより品格、態度、人望ともに秀でている者が上座に座るもの也>

       これが、流儀書に記されてある座の心得である。
        ヒントは与えたつもりだ。これは盗難の予告と考えてもらって結構だ。
       君が果たしてこの盗難を阻止することが出来るかどうか、大いに楽しみだ。
        天下の名探偵暇名小五郎の名声をかけて、怪人60面相の挑戦を受けよ。

                     怪人60面相

 
藤田舞子 「先生、これはなんですかねえ?」
     

      舞子は、いかにも気味が悪いというふうに、暇名のほうを見た。

暇名小五郎 「見ての通り、私への挑戦状だよ。だが、何か裏がありそうだな」

   暇名探偵は、いつもよくある悪戯とは違う何か得体の知れない不気味なものを感じていた。

  藤田舞子 「裏というと?」

暇名小五郎 「うん。裏を探るためには、表をしっかりと把握すること。あるいは表と裏が逆かも知れないがね」

      暇名探偵が何を言ってるのか、藤田嬢にはさっぱりわからなかったようだ。

暇名小五郎 「ちょっと出かけてきます」

     まずは依頼を受けた将棋連盟へ行き、次に温対記者の居る週刊ポテト社、そして警視庁というのが、藤田舞子に告げた行き先だった。

      天下一の名探偵に、挑戦状を突きつけた怪盗の狙いは一体何か。
     将棋界を巻き込んでの恐るべき陰謀の舞台が幕を開けようとしていた。

駒の流儀・第2部  第9章

第9章「流儀書の存在」

  見覚えのある長野信金と信州大学との中間地点まで来ると、丸田9段の自宅が見えてきた。

温対記者 「へえ。大きな家ですねえ。門が立派だし」

  暇名小五郎 「私も最初来た時は、びっくりしましたよ」

     2人が訪問すると、待ち構えていたように長男夫婦とともに、丸田9段も迎えに出てきてくれた。
    挨拶もそこそこに、酒と食事でもてなしてくれたが、今回は正攻法で臨むことにしていたので、暇名小五郎は早速訪ねた目的を話した。

     うまそうに酒を口に運びながら、丸田9段は時折難しい顔をした。
      暇名探偵の説明が一通り終わると、丸田9段が口を開く番だった。

丸田祐蔵9段<91歳> 「その流儀書が存在するのは間違いないよ。私は実物は見たことがないが、話には何度も聞いている」

 暇名小五郎 「そうですか。実在するのですね」

     まさかとは思ったが、丸田9段は流儀書の存在を知っていた。

丸田祐蔵9段 「私がその流儀書のことを知っているのは、先輩棋士たちが、よくそのことを話題にしていたんでね」

  温対記者 「へえ。丸田先生の先輩って、どんな人たちなんですか?」

丸田祐蔵9段 「ははは。今と違って、昔は対局中でも雑談しながらやったものでね、私が時計係や記録係をしている時に坂口さんや、加藤治朗、大野源市、小堀誠一さんらが、よくそんなことを話していたよ」

    古い世代でなければ、なかなか思い浮かばぬであろうが、丸田9段と同世代には塚田正男名誉十段、荒巻三行9段、松下努9段らがいた。

温対記者 「どちらもなくなられてますが、現在生きている方ではいませんか?」

      温対記者からみれば、みんな活字でしか目にしたことがない棋士たちだった。

 丸田祐蔵9段 「ははは。みんな私より年上だからねえ」

     たしかに、91歳の丸田9段より年上は、今の将棋界にはいなかった。

暇名小五郎 「それで、その時の話で何か印象に残ったこととか、覚えていることはありませんか?」

     丸田9段は、しばらくじっと考え込んでいた。

丸田祐蔵9段 「正確かどうかは保証できないがね、7つの流儀があると言っていた気がする。私が印象に残ったのは、流儀に違反すると、重い罰が与えられると聞いたねえ」

  温対記者 「へえ。どんな罰ですか?」

丸田祐蔵9段 「いや、それは知らない。私もどんな罰なんだろうと考えたことはあったんだけど、結局原田さんたちも知らなかったようだね」

    
 暇名小五郎 「つまり、その流儀書の中には、その罰の内容も書かれているということですね」

      暇名探偵は、7つの流儀に罰と聞いて、映画<セブン>を思い浮かべた。

丸田祐蔵9段 「そうだろうね」

   温対記者 「それで、その7つの流儀って、いったいなんですかねえ?」

丸田祐蔵9段 「うむ。聞き覚えだが。1番目が歩の流儀で、以下香の流儀、桂の流儀、銀の流儀、金の流儀、角の流儀、そして飛の流儀となっているようだ」

 暇名小五郎 「ふむ。王の流儀が無いんですね」

丸田祐蔵9段 「そう言われるとそうだねえ」

   温対記者 「ふーん。それで7つの流儀なのかあ」

暇名小五郎 「丸田先生、その他何か覚えていることはありませんか?」

     暇名探偵のねちっこさが出た。

丸田祐蔵9段 「そうだねえ。その流儀書を手にした者は、将棋で天下を取るという言い伝えがあるそうだが、それは嘘っぽいね」

  暇名小五郎 「しかし、中には本気で信じている人もいるでしょうねえ」

    その夜は、丸田家に泊まって、2人は翌朝早々に長野を後にして東京に帰った。

駒の流儀・第2部  第8章

第8章「再会」

  暇名小五郎が、長野県善光寺を訪れたのは、昨年2月の寒い日だった。
   あの日と同じく<あさま529号>に乗って、長野に向っているが、今日は1人ではなく温対記者も同行していた。

温対記者 「丸田9段とは、流石にいいところに目をつけましたよねえ。この間もNHKに蛸島さんと一緒に出演してましたけど」

    
 暇名小五郎 「はは。元気そうでしたね。でも温対さん、あまり期待しないで下さい。丸田先生が流儀書のことを知ってる可能性は少ないですから」

     困ったときの善光寺参りかも知れぬ。

  温対記者 「わかってます。でも他には当てもないし。丸田先生がわからなければ、誰も知らないでしょうねえ」

暇名小五郎 「そうですねえ。芹澤9段でも存命であれば、何か面白い話でも聞けたでしょうけど」

 温対記者 「ええ、僕は直接会って話したことはないですけど、凄い博識の人みたいですね」

暇名小五郎 「はは。何をやっても有能だっただけに、才能が分散したのかも知れませんね」

    いずれにしても、2人は藁をもつかむという心境であった。

温対記者 「僕は善光寺に行ったら、やっぱり信州そばが食べたいです」

   発想が平凡なところが、温対らしかった。

 暇名小五郎 「はは。美味しい店があるから、着いたら行きましょう」

      JR長野新幹線は、長野駅ホームに16時52分に到着した。

 温対記者 「時刻表通りですね。日本の鉄道は正確だなあ」

   つまらぬことで感激するのも温対記者の特徴だが、それだけ人間が素直で純粋なのであろう。
    ホームへ降り立った暇名探偵は、こんどは迷うことなく善光寺口へと向った。
   まだあれから何年も経っていないが、街の様子は少しずつ変化していた。

暇名小五郎 「前に来た時にあった建物が無くなっていたり、変わっていたりしてますね。都市の変化は激しいですねえ」

    温対記者は初めて来た土地だけに、暇名探偵の感慨はわからなかった。

  温対記者 「思ったより大きい街ですねえ」

暇名小五郎 「ええ。温対さんのために、歩いて行きますか」

   暇名探偵は、前回と同じ道を辿りながら善光寺へと向かった。
    目指すは勿論、蕎麦屋<まるた>である。
   慣れた足取りで<まるた>に着いたのは、夕方6時頃だった。
   
   暇名探偵が挨拶をすると、店主も覚えていてくれて、喜んで迎えてくれた。
    再会を喜び合ったあと、懐かしい<しっぽく蕎麦>を頼んだ。

 
 温対記者 「美味しいです。やっぱ本場は違いますよねえ」

   とても蕎麦の味が判る男には見えないが、大勢に流されるタイプであり、魅力でもあった。

暇名小五郎 「丸田先生にもう一度、お会いしたくて来たのですが、お元気でしょうか?」

     魔界奇談シリーズが初めての読者には判りづらいと思うが、まるたの店主は丸田祐蔵9段の長男である。

 店主<63歳> 「はい。変わりないです。あとで連絡しておきます。これから行かれるんでしょう?」

暇名小五郎 「ご迷惑でなければ」

    店主は、すぐ自宅へ電話を掛けた。短い時間で会話が済んだ。

店主 「暇名さんが来ていると伝えたら、すぐにでも会いたいと言っていました。お酒を用意して待っているそうですよ」

    どうやら暇名探偵は、丸田9段にすっかり気に入られているようだ。
 

きっと・・・

越中は悪いヤツですよ。またはスパイかな。

偶然かもしれませんが、伊加は私の昔のHNなのです(当時は平仮名でした)。こいつも妖しいな。 でも、犯人になれるほどの度胸が無いはず。 今回は死体の役を演じるのかな?

管理人さん、どうもありがとうございます。 会社では、駒音の通称裏を見ることができるのですが、仕事中には開き辛いのです。 こっちで読めるのはたいへんありがたいです。

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