王の棺・最終回

第191章 「悲しい笑い」

     暇名小五郎 「自尊心の塊のようなあなたは、自他共に認める天才棋士であり、名人も狙える器だと評価されていました」

  越中褌6段 「そのとおりですね」

     暇名小五郎 「その自分を辱めた彼らを、絶対に許せないという妄想に駆られたのです」

 今陣孝太郎8段 「よくそんな馬鹿げたことを言うものだな。ははは」

     暇名小五郎 「今陣先生は、自分では気がつかないうちに、精神を病んでいたのでしょう」

 今陣孝太郎8段 「・・・」

      暇名小五郎 「屈辱を晴らし、事実を隠蔽するためには、人を殺すことさえ、何んとも思わなくなっていたのです」

  今陣孝太郎8段 「おい! 暇名小五郎とやら。さっきからお前の言ってることは、全て出鱈目だ。何ひとつ、証明できるものが無いではないか」

   媚巣斗呂卓也 「たしかにそうだ。今陣8段が、犯人だとする決め手が無い」

   大橋宗雪館主 「そうじゃのお。全部、暇名殿の推測にしかすぎぬ」

 今陣孝太郎8段 「私が、犯人だと言うのなら、誰もが納得する証拠を出せ」

 
                             今陣は、強気に出た。

     暇名小五郎 「わかりました。もうそろそろ、証拠が出てくる頃ですから・・」

                 暇名は、天然流捜査官に目で合図を送った。

  天然流誠捜査官 「暇名さん。もう少しです」

          天然流は、鑑識課の職員とともに、しきりに何かの作業を行っていた。

 今陣孝太郎8段 「彼らは、何をしているのだ?」

                  今陣は、漠然とした不安と、得体の知れない恐怖を感じた。

     暇名小五郎 「はは。気になりますか?」

 今陣孝太郎8段 「ああ。当然だろ」

      暇名小五郎 「今陣先生。世界中の人を探しても、あなたしか犯人になり得ないという、決定的な証拠があるんですよ」

  今陣孝太郎8段 「決定的な証拠だと?」

     暇名小五郎 「はい」

          不敵な笑みを浮かべる暇名に、天然流捜査官が勇んで報告に来た。
           手には、成績表が入った白い封筒を持っていた。

 

 天然流誠捜査官 「暇名さん。一致しました。完璧です」

         普段冷静な天然流捜査官が、やや興奮気味だった。

  今陣孝太郎8段 「・・・」

     暇名小五郎 「そうですか。有難うございます」

 今陣孝太郎8段 「一致したとは、何のことだ?」

            暇名小五郎 「指紋ですよ」

  今陣孝太郎8段 「指紋?」

                    今陣には、まだその意味が判らなかった。

     暇名小五郎 「はい。指紋です」

  今陣孝太郎8段 「はははは。君は本気なのかね。いいかね。私は、箱根の帰りに、小茶園さんから、成績表を渡されたんだよ」

     暇名小五郎 「はい。そうお聞きしました」

  今陣孝太郎8段 「私の指紋が付いてるのは、当たり前じゃないか」

     暇名小五郎 「今陣先生。何か勘違いされているようですが、今陣先生の指紋ではありませんよ」

  今陣孝太郎8段 「私の指紋ではない? じゃあ誰のだ?」

              今陣8段は、最後の詰みを読むように、頭の中をフル回転させていた。

 今陣孝太郎8段 「あ、そうか。小茶園さんの指紋だな。彼の指紋だって、あるはずだ。無いほうがおかしい」
  
     暇名小五郎 「いいえ。小茶園さんの指紋でもないです」

  今陣孝太郎8段 「・・・・・」

               今陣は、手のひらにべっとりと汗をかいていた。

     暇名小五郎 「実はですね。今陣先生。探していたのは、私の指紋なんですよ」

 今陣孝太郎8段 「ん? どういうことだ? なぜ君の指紋なんだ?」

     暇名小五郎 「先ほども少し話しましたが。私が小茶園さんの自宅にお邪魔したときに、小茶園さんは誰かと会うからと急いでいましてね。玄関で靴を履くときに、持っていた白い封筒を落としたのですよ」

 今陣孝太郎8段 「・・・」

     暇名小五郎 「私は、その封筒を拾って、小茶園さんに手渡したのです」

   小茶園薫 「それは本当ですわ。私も見ていました。暇名さんが封筒を拾って、主人に渡しておりました」

     暇名小五郎 「私には、探偵としての習性がありましてね。何でも手にしたものには、指紋を押し付けておくのですよ」

  今陣孝太郎8段 「・・・・・」

     暇名小五郎 「少しは、分かってきたでしょうか?」

 今陣孝太郎8段 「・・・・」

     暇名小五郎 「鑑識課からの報告で、あなたが持参してきた成績表が入った封筒に付いていた指紋と、私の指紋とが完全に一致したのですよ」

 今陣孝太郎8段 「・・・・・」

      暇名小五郎 「あなたが、箱根の合宿の帰りに、小茶園氏から手渡されて、自宅に保管したまま誰にも触らせなかった封筒に、どうして私の指紋が付いているのですかねえ」

  今陣孝太郎8段 「・・・・・」

                    今陣孝太郎の顔は、苦痛に歪んでいた。

     暇名小五郎 「今陣先生。説明していただけますか?」

 今陣孝太郎8段 「ははははは」

                今まで苦しげに沈黙を続けていた今陣が、急に大声で笑い出した。

     暇名小五郎 「運がなかったですねえ」

  今陣孝太郎8段 「うわっはははは。はははははは・・・」

               笑い声は、誰も聞いたことが無いような、悲しい笑いであった。

                                  完       

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 火, 11/12/2013 - 11:15 categories [ ]

コメントの表示オプション

お好みの表示方法を選択し、「設定の保存」をクリックすると、表示方法を変更することができます。

P2

越中さん

コロンボは 30年以上にわたり 69作品が作られました
小生も大好きで 全部見ております 笑

別れのワイン
コロンボ作品の人気投票で TOP 5 には入ります
プロット的には いま一つですが なんとはなしに 落ち着いてますね
犯人の社長をかばう おばさん秘書が 愛がなくても結婚できる と 迫った時にはのけぞりました

マジシャンの幻想
マイクの声と実際の声は少し違うのですが それなりの作品でした
タイプライターも ポイントになりますが その昔はあれだったんですね

2枚のドガの絵

いい表題ですね。 酒仙さんどうもありがとうございます。

私が初めてTVで観たのは、きっと子供の頃だったと思います。 学生時代(大学院かも)にレンタルビデオでコロンボシリーズを全部観直しました。 いくつか印象的な作品がありますが、これとワインの作品が好きでした。 マジシャンの作品も良かった。

悪魔仮面さんの作品も短編でもいいですから復帰して欲しいなぁ。 酔っ払いの投稿です。失礼しました。

越中さん

刑事コロンボ の指紋の件

2枚のドガの絵 ですね
犯人がバッグに入れ 持ち帰った絵を 手を入れて コロンボが見ようとします
犯人は拒否しました が 指紋は付きました
最後に 決め手となったのは コロンボの指紋が 絵についていました
ラストで 犯人は いま指紋をつけたのだと叫びましたが
コロンボが レインコートから出し 突き上げた両手には 手袋を付けたままでした

実に 見事なラストシーンでした

PS
追加しておきますが
ピストルにワザと 犯人が指紋を残した事件等あります

刑事の指紋

今日映画館で相棒(劇場版)を見た。犯人逮捕の決めては馬の蹄について刑事(水谷豊)の指紋だった。

この小説において犯人逮捕の決めては封書についた探偵の指紋だった。

この映画(相棒)の作者はこの小説(王の棺)を見てヒントを得たのかも知れない。

祝御完結

有難う御座いました.

愚は以前から長編ミステリーは苦手(終盤になるまで何が何だか分からないので疲れまする.)なので,時折拝見しては居りましたが,毎回読んだのは再開のお知らせを頂いてからでした.お陰様で面白さの一端は十分味わわせて頂きました.

イマジンさんのコメントは,何か含む所がありそうで御座いますね.(当たり前か.)

悪魔仮面さん、楽しかったデス!

ありがとうございました。 おもしろかったです。

スケールが大きかったし、私は犯人が誰なのか全くわかりませんでした。動機もよかった。

刑事コロンボに、封筒に自分の指紋を付けていた、みたいなのがありましたねぇ~ 記憶違いかもしれませんし、今回の場面とは状況も違っていました。 こまやかで深い味わいがありました!

悪魔仮面さん、大作をありがとうございました。少し休まれて、また、佐藤さんや田村さんの指し手の解説でもしてください。お願いします。

追記; さっき帰宅。昨夜も遅くなってしまい投稿できませんでした。ビール飲んで寝ますzzz

悪魔仮面さま ありがとうございます

この小説の最初の投稿は2012年9月13日でした。途中4ヶ月の中断がありましたが、1年以上のおよぶ大作でした。今までの小説の中で最高でした。

再度 ありがとうございました。

悪魔仮面様 ありがと

悪魔仮面様

ありがとうございました。

疾風の寄せで最後はきれいに即詰みにされたような気分です。

私が犯人でなくてよかったです!!!

王の棺・最終回

>
> 暇名小五郎 「今陣先生は、自分では気がつかないうちに、精神を病んでいたのでしょう」
>
> 今陣孝太郎8段 「・・・」
>
 なるほど…ね。

 なんとなく、今更ですが、今陣孝太郎8段が犯人のような気は、していました。 (^_^;

 悪魔仮面様、

 Web駒音が縁の「一期一会」。

 いろいろと有りましたが、最終回まで拝読できて、とてもうれしいです。

 お互いに心身の健康に留意し、自身の人生を全う致しましょう。

 さようなら、ごきげんよう。

コメントの表示オプション

お好みの表示方法を選択し、「設定の保存」をクリックすると、表示方法を変更することができます。