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魔物の棲家・第23部 解決編第148章 「公開捜査開始」 都営地下鉄大江戸線か、JR総武線のどちらでも<両国駅>で下車すると、歩いて数分で<両国国技館>に来れる。 午後1時から、いつもの大相撲ではなく、警察の公開捜査が行われるというので、マスコミだけではなく、一般の観衆も国技館の周りに集まってきていた。 だが、実際に館内に入れるのは、警察から招待された関係者だけであった。 温対記者 「いやあ、緊張しますよねえ。いつものことですけど」 公開捜査開始とあって、温対記者の顔も紅潮してきていた。 暇名小五郎 「そうですね。うまくいくといいですがね」 一方の暇名小五郎は、落ち着き払っていた。 藤田舞子事務員 「温対さん。先生がついてるから、大丈夫よ」 国技館は、1982年までは日大講堂として使用されており、マンモスと呼ばれた日本大学の入学式や卒業式は、ここで行われていた。 しかし、実際には日本大学の関係で利用するよりは、プロレスやボクシングなどのスポーツ興行や、コンサートなどのイベントに使われることが多かった。 現在は、財団法人日本相撲協会が管理運営していて、地下1階、地上2階の収容人数1万1千人の施設である。 赤外線透警視総監 「只今から、連続殺人事件の公開捜査を行います。皆さんは、担当官の指示に従い、冷静に行動されるようにお願い致します。では、捜査一課長と交替します」 警視総監は、手短に挨拶してから、すぐ山蛇捜査一課長に代わった。 山蛇知之捜査一課長 「ご来場の各位に申し上げます。私は、本日の公開捜査を指揮する山蛇と申します」 律儀に山蛇一課長が、自己紹介した。 山蛇知之捜査一課長 「さて、すでに皆様ご承知でしょうが、プロの将棋棋士が2名も殺され、都合4人殺害という史上稀に見る凶悪犯罪の捜査のために、関係者の皆様方に集まっていただきました」 普段は、土俵がある場所の上に、仮設ステージが出来ていて、その上に山蛇捜査一課長がマイクを持って立った。 藤田舞子事務員 「ねえ。なんか、あれね。福祉大相撲で歌を歌うみたいよねえ。ふふ」 温対記者 「はは。ほんとすねえ」 笑うような状況ではなかったので、2人は声を殺して笑った。 大橋宗雪館主 「質問してもよろしいかな?」 喫茶<勝負師>のオーナーも来ていた。 山蛇知之捜査一課長 「どうぞ」 大橋宗雪館主 「4名の殺害者は、同一人物だということのようじゃが、この会場に呼ばれた人物の中に、犯人がいるということじゃな?」 山蛇知之捜査一課長 「その通りです。まもなく探偵諸氏により、正体が明らかになると思いますが、皆さんに危険はありません」 寅金邪鬼警部 「警備体制は万全です」 大橋宗雪館主 「よく分かりました」 山蛇知之捜査一課長 「ほかにも何か質問のある方は、途中でも構いませんので、いつでも質問してください」 寅金邪鬼警部 「では、これから公開捜査を始めますが、探偵役を希望する方は、どなたでも自信があれば、申し出てください」 天然流誠捜査官 「但し、冷やかしや悪戯は困りますよ」 不利舎耕介博士 「前置きは、そのぐらいでいいだろう。時間の無駄になるから、私が早々に真犯人を当てて、お開きにさせますよ。課長さん、いいですよね?」 1番手に出てきたのは、コンピューター魔界将棋代表の不利舎耕介博士だった。 山蛇知之捜査一課長 「勿論です。早く解決するにこしたことはありません」 藤田舞子事務員 「あら、先生。あの機械狂いが、犯人見つけちゃったら困るわね」 暇名小五郎 「はは。そんなことはない。殺人犯が見つかればいいので、誰が見つけようと構わないことだからね」 藤田舞子事務員 「もう、先生ったら。先生が負けたら、事務所としては、収入に影響するんですからね」 暇名小五郎 「ははは。そういえばそうだ。はは」 暇名は笑いながらも、藤田舞子の言い分にも一理あると思っていた。 派手ないでたちで、周囲を見渡しながらステージに立った不利舎博士は、臆することなく堂々としていた。 その怪人不利舎耕介は、いったい誰を犯人として名指しするのであろうか?
投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 水, 02/22/2012 - 11:13 categories [ ]
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魔物の棲家・第23部 解決編
第152章 「衆議院議員の犯罪」
藁人形茂憲所長 「いま私は、殺人犯は将棋の世界とは無関係と申しましたが、正確な表現ではありませんでした。なぜなら、その人物は名人審議委員会の委員をしているからであります」
喝采賢介副委員長 「ええ!」
金銀銅鉄委員 「我々の中に、殺人犯がいるというのか?」
酔理清張委員 「ほほお。凄いことになってきましたなあ」
湯川慶子委員 「誰よ、いったい。デタラメだったら、許さないわよ」
さすがに名人審議委員会の委員たちは、殺気立った。
藁人形茂憲所長 「もちろん、いい加減なことは言いませんよ。私共で徹底して調査した結果です」
今陣孝太郎委員 それで、あなたは誰が犯人だと言うのですか?」
藁人形茂憲所長 「では申し上げます。殺人犯は、仁歩犯則衆議院議員であります」
仁歩犯則代議士 「な、なにい! き、君は正気なのか?」
衆議院議員の仁歩犯則の名前が挙げられると、会場内が異様な空気に包まれた。
益田幸三委員長 「これは、穏やかではありませんなあ。当然、確固たる根拠があるのでしょうね?」
名指しされたのは、現職の国会議員である。間違いでしたでは済まされないだけに、益田委員長も慎重だった。
藁人形茂憲所長 「あります。では、私の推理を披露しましょうか」
悠然と藁人形所長は、愛用の煙草をくゆらせた。
仁歩犯則代議士 「ふ、何が推理だ。話にならんよ」
仁歩代議士は、殺人犯との指摘を受けて、すっかり落ち着きをなくしていた。
温対記者 「暇名さん。藁人形さんは、余裕がありますねえ。ほんとに仁歩先生が犯人なんですかねえ?」
暇名小五郎 「はは。まあ、じっくり推理を伺いましょうよ」
暇名小五郎と温対記者は、テレビ中継なら、向こう正面にあたる桟敷席に座っていたが、この時、暇名小五郎の携帯に電話が入った。
天然流誠捜査官 「もしもし。あ、暇名さんですね。天然流です」
暇名小五郎 「どうも、天然流さん。ご苦労様です。で、どうでしたか?」
天然流誠捜査官 「はい。鑑識から連絡がありました。やはり、暇名さんの予想が的中しましたよ」
暇名小五郎 「そうですか。間違いないですね?」
天然流誠捜査官 「ええ。完全に一致しました。見事なものです。間違いありません」
暇名小五郎 「分かりました。有難うございます」
横で聞いていた温対記者も、暇名の電話が気になって聞いた。
温対記者 「天然流さんからみたいですね。何の電話ですか?」
暇名小五郎 「はは。いい知らせです。あとでゆっくり教えますよ」
暇名小五郎が上機嫌の時の、鼻歌が出ていた。
藁人形茂憲所長 「さて、この事件については、多勢の方々が錯覚をしているのです」
今陣孝太郎委員 「我々が、錯覚をしていたと?」
藁人形茂憲所長 「そうです。名人審議委員会だけではなく、警察も目指す方向を間違えたのです」
金銀銅鉄委員 「面白い。自信があるようですな」
喝采賢介副委員長 「ま、聞いてみますかな」
藁人形茂憲所長 「私が、錯覚と言った意味はですね、プロ棋士が2名も殺されているために、将棋が関係した殺人事件だと思い込んだことです」
益田幸三委員長 「だが、そう思うのは自然ではないかねえ?」
藁人形茂憲所長 「いいえ。この事件は、将棋とは何の関係も無いのです。たまたまプロ棋士が殺害されるに至っただけのことなのですよ」
魔物の棲家・第23部 解決編
第151章 「事故」
藁人形茂憲所長 「ははは。せっかくの不利舎博士の推理というか、コンピューターの結論のようですがね、残念ながら間違っています。世渡甚六氏は犯人じゃありませんよ」
藁人形所長は、まだ笑いをかみ殺していた。
不利舎耕介博士 「おや。たかが興信所の親方が、私の推理が間違っているというのだな。その根拠はなんだね?」
不利舎耕介は、藁人形所長の態度に、不快感を顕わにした。
藁人形茂憲所長 「はは。あ、失礼。あまりにも可笑しくてね。はは」
湯川慶子委員 「あなたも笑ってばかりいないで、ちゃんと説明しなさいよ」
ここでも、姉御が睨みを利かせた。
藁人形茂憲所長 「当然です。では、ご説明しましょう。私どもの機関で調査したところ、渡り鳥旭7段と世渡甚六席主が、以前は真剣師であり、両人とも山岡ルリ子さんに恋心を抱いていたのは事実です」
不利舎耕介博士 「うむ。コンピューターは、正確だからな」
湯川慶子委員 「2人とも、ルリ子さんに思いを寄せていたのね」
藁人形茂憲所長 「はい。しかしですね、渡り鳥旭7段が山岡ルリ子さんを妊娠させて、そのあげく母子を捨てたという説は、完全な誤りです」
喝采賢介副委員長 「ほほお。興味津々ですなあ」
野次馬根性丸出しの喝采である。
藁人形茂憲所長 「そして、そのことを知った世渡甚六席主が、渡り鳥旭7段を怒りのあまり殺害したということですがね。ははは」
不利舎耕介博士 「そんなに可笑しいかね!」
不利舎博士が苛立ってきた。
藁人形茂憲所長 「ええ。そんなことは、絶対にあり得ないんですよ。はは」
不利舎耕介博士 「不愉快だ。いちいち笑うな」
大橋宗雪館主 「藁人形殿。なぜ、あり得ないのかのお?」
藁人形茂憲所長 「はい。そのことについては、調査に当った猫面所員から報告させましょう」
いつのまにか、猫面尺治所員が藁人形所長の隣りに来ていた。
猫面尺治所員 「では私から説明します。渡り鳥旭7段は、関係者は皆、知ってのとおり右足が不自由でした」
小茶園猛主任講師 「そうですね。それは知ってます」
猫面尺治所員 「若いときに、オートバイの事故で負傷したのが原因です」
不利舎耕介博士 「うむ。それで?」
猫面尺治所員 「当時は、かなりひどい事故だったようで、失ったのは右足だけではなかったのですよ」
猫面所員は、意味深な言い方をした。
湯川慶子委員 「何を言いたいのよ。もしかして、あれ?」
猫面尺治所員 「そうです。皆さんの想像通りです。その事故で渡り鳥7段は、男性機能も麻痺させてしまったのです」
喝采賢介副委員長 「つまり、子供を作れない体になっていたということですか?」
藁人形茂憲所長 「はい。勿論、山岡ルリ子に出会う前の事故であり、当時の診断をした病院にも確認しております」
再び藁人形所長が、口を出した。
不利舎耕介博士 「う、うむ。そ、それは資料には無かった」
自信満々だった不利舎博士の顔が、苦しそうに歪んだ。
不利舎耕介博士 「では聞くが、いったい誰が犯人だと言うのだ?」
藁人形茂憲所長 「はい。殺人鬼は、将棋とは全く無関係の世界にいる人物です。私が、調査結果に基づいて犯人を絞り込みますが、よろしいですか?」
寅金邪鬼警部 「うむ。勿論、構わぬ」
意外な展開に、さしもの鬼警部も困惑気味だった。
魔物の棲家・第23部 解決編
第150章 「争い」
不利舎耕介博士 「ところが、山岡ルリ子が登場したことによって、2人の間に亀裂が生じるようになった」
大橋宗雪館主 「ほお。つまり、2人とも山岡ルリ子に恋心を抱くようになったのじゃな」
喝采賢介副委員長 「女を巡る争いか」
不利舎耕介博士 「その通り。お互い山岡ルリ子を愛したために、のっぴきならない状態になった。そこで、2人の真剣師は、将棋で決着をつけようとした」
湯川慶子委員 「勝ったほうが、女をものにするのね」
こういう話は、女性は好きである。
不利舎耕介博士 「いや。負けたほうが、恋愛から手を引くということだったのでしょう」
喝采賢介副委員長 「なるほどね。将棋に勝ったからといって、ものに出来るとは限らないからなあ」
不利舎耕介博士 「その結果、渡り鳥氏が勝った。世渡甚六氏は約束どおり、山岡ルリ子をあきらめたのです」
小茶園猛主任講師 「そんな馬鹿な話は、到底信じられんよ」
世渡甚六席主 「・・・・・」
小茶園猛は、いきり立っていたが、当事者の世渡甚六のほうが、何も言わずに黙って聞いていた。
不利舎耕介博士 「だが、勝った渡り鳥旭氏は、その後ルリ子が妊娠すると、手のひらを返したように、ルリ子に冷たく当るようになった。そして、幼児を抱えたルリ子を捨てた」
湯川慶子委員 「なぜなの?」
不利舎耕介博士 「おそらく、プロ入りするのに邪魔になったのだろう」
大橋宗雪館主 「ひどいことをするものじゃのお」
伊加訓生事務局長 「では、山岡源太3段は、渡り鳥旭7段の子供なのですか?」
不利舎耕介博士 「その通りだ」
大吉三郎和尚 「しかし。真剣勝負で争うほど、惚れた女を簡単に捨てるものかなあ?」
不利舎耕介博士 「たしかに、普通はしないだろうが。渡り鳥旭氏は、真剣師といっても浮き草家業で、収入は不安定だった。とても親子3人が、暮らしていける収入は無かったのですよ」
馬得騒造 「それはそうやろな。よく分かるがな」
不利舎耕介博士 「そこにプロ入りのチャンスが巡ってきた。将棋に専念しなければならない渡り鳥旭氏にとって、母子がうっとおしい存在になったのです」
世渡甚六席主 「うーむ」
ちょうど、将棋の対局で長考するように、世渡甚六は腕組みをした。
不利舎耕介博士 「世渡甚六氏が、あれほど真剣に愛した山岡ルリ子を、簡単に捨てた渡り鳥旭氏に憤慨したのは、当然の帰結だったのですよ」
湯川慶子委員 「そうね。誰だって怒るわよ。ひどい男だったのね」
不利舎耕介博士 「絶対に渡り鳥旭7段を、許すことは出来ないと誓った世渡甚六氏は、渡り鳥旭7段を殺害することを決意し、機会をうかがっていたのです」
世渡甚六席主 「困りましたなあ。そういうふうに決めつけられてもねえ」
場内の熱気で暑くなってきたのか、世渡甚六は、ハンカチを取り出して、しきりに汗を拭いていた。
不利舎耕介博士 「そして、ようやく機械が訪れたとき、一気に渡り鳥旭7段を殺害したのですよ。どうです、世渡さん。違いますか?」
小茶園猛主任講師 「先生はそんな人ではない。とんでもない話だ」
小茶園主任講師は、興奮を抑え切れなかった。
藁人形茂憲所長 「ちょっと、よろしいですかな。不利舎博士、発言したいのですが」
一同の視線が、世渡甚六席主に集中していたが、そのとき東洋友愛興信所の藁人形所長が、発言を求めた。
不利舎耕介博士 「はあ。どうぞ。構わないが」
丁重に発言を求めた藁人形所長は、なにやら、可笑しくてたまらないというように、含み笑いをしながら、壇上に上がってきた。
魔物の棲家・第23部 解決編
第149章 「コンピューターの結論」
不利舎耕介博士 「ふっ、それにしても大袈裟ですなあ。こんな馬鹿でかい入れ物を使うとは。暇名探偵には、ハッタリ癖があるようだな」
怪人は、国技館全体を見回しながら、暇名小五郎を挑発した。
藤田舞子事務員 「先生、あいつあんなこと言ってますよお」
暇名小五郎 「うん」
金銀銅鉄委員 「たしかに、国技館で公開捜査を行うことを要望した暇名氏の意図がさっぱり分からない。何か関係ありそうなことがあったかな?」
今陣孝太郎委員 「 同感ですね。地下1階、地上2階の収容人数1万1千人の施設に、本日の公開捜査場には、警察から招待された関係者何人が来場されて居るのでしょう、... 数十人?」
一癖も二癖もある両委員から、早くも牽制球が投げられてきた。
益田幸三委員長 「八百長ではないでしょうか。暇名探偵の洒落でしょう」
流石に委員長には、大人の対応をする余裕があった。
館内には、事件関係者だけではなく、その家族、国税当局の幹部、同僚、上司等も来ていた。
日本将棋連盟の棋士の大多数と、事務局職員らも駆けつけており、数百名は居るように見えた。
不利舎耕介博士 「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。本題に入ることにする」
不利舎耕介は、自信満々だった。
不利舎耕介博士 「推理というものは、様々な証拠や仮説を組み立ててするものらしいが、それは古い価値観を持った昔の探偵がすることだ」
言葉にとげがあった。明らかに暇名小五郎を揺さぶっている。
不利舎耕介博士 「現代は、将棋と同じでコンピューターで分析すれば、すぐに解答が導き出されるのだよ。人間の推理より遥かに優秀だ。はは」
先日の、米中国雄会長がボンクーラに敗れたことが、不利舎博士の言葉に力を与えていた。
湯川慶子委員 「あら、ずいぶん自信あるみたいね。ほんとに大丈夫なの?」
不利舎耕介博士 「勿論だ。尤も、コンピューターだからといって、間違った情報を入力すれば、答えも間違ったものになる。したがって、あらゆる角度から寄せ集めた情報を、取捨選択して、有益な情報のみを入れる作業をするわけです」
湯川慶子委員 「あんたも、結構前置きが長いわね。早くして」
怪人物不利舎耕介も、この女史は苦手のようだ。
喝采賢介副委員長 「たしかに」
不利舎耕介博士 「苛立ちはご尤もです。しかし、この事件は非常に複雑でして、事件の発端から順序良く説明していかなければ、一般の方には理解が得られないのです」
喝采賢介副委員長 「はいはい」
湯川慶子委員 「わかったから、ずばり言いなさいな。誰が犯人なの?」
不利舎耕介博士 「いいでしょう。ではズバリ犯人を指摘する」
不利舎博士の言葉に、一瞬、時間が止まった。
不利舎耕介博士 「犯人は<世渡甚六>。あなたです」
なんと、久我山将棋教室の世渡甚六席主の名が呼ばれた。
世渡甚六席主 「ほお。私が? これはこれは」
不利舎耕介博士 「そうです。時間の無駄だから、とぼけるのはやめなさい」
世渡甚六席主 「うーむ。そう言われてもねえ。はは」
殺人犯だと名指しされたが、世渡甚六にあまり慌てた様子は無かった。
いつものように、着流しに下駄と扇子のスタイルである。
小茶園猛主任講師 「世渡席主が犯人だとは、何かの間違いでしょうが、いったいどんな証拠があって、席主が犯人だと言うのですか?」
自分の教室の席主が殺人犯だと言われては、主任講師の小茶園としても、穏やかではなかった。
不利舎耕介博士 「あらゆる情報と資料をコンピューターに入力した結果、犯人が導き出されたものだ」
湯川慶子委員 「でも、それだけじゃ駄目よ。誰も納得しないわ。ちゃんと説明しなさいな」
不利舎耕介博士 「いいでしょう。自白しないのであれば、やむを得ないな。4件の殺人事件の中心となる殺人。つまり明らかな動機を持った殺人は、最初の渡り鳥旭7段の殺害です」
大吉三郎和尚 「うむ。つまり、他の3件は、つけたしというか、最初の殺人に付随して生じたものと言うのじゃな」
不利舎耕介博士 「少なくとも棋士以外の2名はそうです。したがって、4件もの殺人の動機を探る必要は無いし、同一犯であるので、最初の犯行動機さえ掴めれば、十分だと考える」
大吉三郎和尚 「なるほどのお。理屈は合っている」
不利舎耕介博士 「そこで、渡り鳥旭7段殺害の動機だが、<山岡ルリ子>という女性が動機である」
馬得騒造 「へえ。女性問題ちうことだすか。面白くなってきたやないか」
湯川慶子委員 「あなたね。面白がってどうするのよ。人殺しなのよ」
女史は、誰かれなく叱り飛ばしている。
不利舎耕介博士 「渡り鳥旭7段は、プロ入りする前は真剣師だったが、同じ真剣師の世渡甚六氏とは、よく知った仲だった」
当時の世渡甚六は、<新宿の殺し屋>と呼ばれた小池重昭と肩を並べるほどの真剣師で、<池袋の仕事人>と恐れられていた。
世渡甚六席主 「うむ。それは認めましょう」
世渡甚六は、怒るでもなく飄々としていた。
不利舎耕介博士 「元々は、2人は仲が悪くはなく、むしろ仲間同士の付き合いをしていたのだろう」
世渡甚六席主 「彼が、プロ入りしてからも、仲良く付き合ってたがねえ」
世渡甚六は、困ったような顔をしていた。