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魔物の棲家・第20部第130章 「世話役」 広島から帰ってきた暇名小五郎と温対記者は、休む間もなく東京将棋会館で、伊加訓生事務局長と会っていた。 伊加訓生事務局長 「広島から帰ってきたばかりですか。おふたりともお疲れでしょう」 暇名小五郎 「いいえ。慣れてますから。それより、伊加さんのほうこそ大変でしたね」 米中国雄会長とボンクラズの、電王戦の対応と処理に携わっていた伊加事務局長のほうが、よほど疲れているはずだったが、伊加は平然としていた。 伊加訓生事務局長 「はは。それで、私に何か用事でも?」 暇名小五郎 「はい。実は5年前の山岡源太3段の自殺に関連していることなのですが、当時の奨励会の世話役が、殺された渡り鳥旭7段でしたね」 伊加訓生事務局長 「そうです。代表幹事をしてました」 事務局長は、いったい何事かというように、暇名の次の質問を待った。 暇名小五郎 「その世話役の人は、全員で何名いたのですか?」 伊加訓生事務局長 「6人です。今も同じですよ」 正式な役職ではないが、人数は定まっていた。 暇名小五郎 「そうですか。任期というものも、あるのですか?」 伊加訓生事務局長 「一応ありますが、再選も妨げないので、何年もやっている人もいますよ。なり手があまりいないので」 誰もやりたがらない仕事だということが、うかがい知れた。 温対記者 「現在の幹事は、誰なんですか?」 伊加訓生事務局長 「ええと。代表幹事が越中褌6段、その他の幹事は大沢一向8段、中田功7段、日浦一郎7段、近藤正数6段、真田啓一7段です」 さすがに伊加事務局長は、何も見ないですらすら答えた。 暇名小五郎 「5年前は?」 伊加訓生事務局長 「5年前ですか・・。渡り鳥旭7段のほかは、越中褌6段と大沢一向8段は継続してます」 暇名小五郎 「なるほど」 伊加訓生事務局長 「あとは、神崎健次7段、武者野勝実7段、天秤座冬彦7段の6人です」 この質問にも、伊加事務局長は資料無しで即答した。 温対記者 「へえ。天秤座さんも、奨励会の世話役やってたんだあ。知らなかったすよ」 天秤座冬彦には、何度も会っているが、世話役をしていたという話は、一度も聞いたことが無かった。 暇名小五郎 「うむ。わかりました」 伊加訓生事務局長 「暇名さん。もし、渡り鳥7段が個人的な恨みや、通り魔に殺されたのではなく、奨励会の幹事をしていたことが原因だとすると、他の幹事たちも危ないのではないですか?」 伊加事務局長ならずとも、至極当然の心配であった。 暇名小五郎 「はい。私も、そのことが気になって、こうして確かめに来たのですよ」 温対記者 「じゃあ、暇名さん。あと5人殺されるってことですか?」 暇名小五郎 「いや。そんなことは無いでしょう。ただ、まだ被害者が出るような気がしてならないのですよ」 暇名小五郎独特の直感だったが、温対記者も同様に、このままでは終わらないような気がしていた。 暇名小五郎 「伊加さん。この中で、渡り鳥7段と特に親しくしていた人は誰ですか?」 伊加訓生事務局長 「そうですねえ。大沢先生と越中先生は、親しかったですね。年齢も近いし、話も合うようで。大体奨励会の世話をするときは、3人一緒でした」 温対記者 「たしか、渡り鳥7段が殺された日も、大沢8段と最後まで飲んでいて、帰りの電車も一緒だったんですよね」 暇名小五郎 「そうだったですね。この2人だけが、今も幹事役を続けているのですね」 伊加訓生事務局長 「はい。渡り鳥先生が殺されてからは、あまり顔を出さなくなりましたね。世話役を代わる話も出てきてますから」 暇名小五郎 「ほお。どうしてですかねえ?」 伊加訓生事務局長 「よくは分かりませんが、ほかの連中の噂では、何かに怯えているようだとも聞きましたけど」
投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 金, 01/27/2012 - 11:19 categories [ ]
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魔物の棲家・第20部
第135章 「嫁候補」
暇名小五郎 「それは楽しみですねえ」
関根銀四郎 「君たちも一緒にどうかね?」
暇名小五郎 「はは。お誘いはうれしいのですが、なにしろまだ仕事が片付いていないものですから」
関根銀四郎 「ははは。相変わらずだのお」
藤田舞子は、一緒に行きたそうにしていたが、丁度その時、藤田舞子の携帯に電話がかかってきた。
藤田舞子事務員 「もしもし。あら・・・。今夜?」
舞子は、急に声をひそめた。
藤田舞子事務員 「急なのね。場所はどこなの?・・・ちょっと待ってね」
藤田舞子は、聞かれたくない電話だったようで、そのまま教室の玄関のほうへ出て行って、ドアを閉めた。
小茶園猛主任講師 「舞子ちゃん、ボーイフレンドからみたいですね」
暇名小五郎 「ははは。はて、ボーイフレンドなんかいたかなあ?」
世渡甚六席主 「それは可哀想だよ。若くて、きれいな娘さんなんだから。はは」
関根銀四郎 「孫の嫁さんにどうかのお」
小茶園猛主任講師 「関根先生。いくらなんでも年が違いすぎますよ。ははは」
関根銀四郎 「そうかのお。若い者の年は、わからんもんだのお。はははは」
関根総裁の、おどけた仕草に、皆大笑いだった。
藤田舞子事務員 「あら、皆さんで何をそんなに笑ってるんですか?」
5分ほどで、舞子が戻って来た。
世渡甚六席主 「いや。なに、たいしたことではない。ははは」
藤田舞子事務員 「なーに?。きっと私の悪口言ってたんでしょ?」
小茶園猛主任講師 「そんなことは無いですよ。誉めてたんですよ。美人でいい子だって」
藤田舞子事務員 「ほんとうですかあ?」
小茶園猛主任講師 「本当ですよ。関根先生なんか、お孫さんの嫁にもらいたいぐらいだって言ってますから」
藤田舞子事務員 「ははーん。やっぱり、そういうことなのね。馬鹿にしてたわけね」
世渡甚六席主 「ははは。困ったなあ」
藤田舞子が、美人で可愛いことは事実であり、皆が認めることだった。
藤田舞子事務員 「もういいわよ。それより、この教室は休みは無いんですか?」
舞子は、また来るつもりで聞いた。
小茶園猛主任講師 「年中無休みたいなもんですよ。この間、2日間ほど休みましたけど、めったに休むことは無いです」
おそらく葬儀の関係であろう。
藤田舞子事務員 「あら、2日も休みがあったんですか? いいわねえ。うちの事務所は、ほとんど休みは無いんですから」
舞子は、言いながら暇名を睨みつけた。
暇名小五郎 「ははは」
暇名は、知らん顔でとぼけた。
藤田舞子事務員 「ねえ、先生。お友だちが晩御飯一緒に食べに行こうって言うので、そろそろ帰りませんか?」
暇名小五郎 「うん、いいよ。またゆっくり来ればいいしね」
暇名は、内心食事代が助かったと思っていた。
関根銀四郎 「もう帰るのかね?」
暇名小五郎 「はい。またそのうち、落ち着いたら名古屋まで遊びに行きます」
関根銀四郎 「うむ。あっ、そうだ。暇名君に儂の孫を紹介しておくかのお」
関根総裁は、他の少年たちの対局を見ていた孫を呼んだ。
関根銀四郎 「この子が儂の孫でのお。それが、すこぶる強い。儂でもかなわないほどじゃよ」
総裁は、孫が可愛くてたまらないというように、目を細めた。
魔物の棲家・第20部
第134章 「愛知連合」
警視庁の次は久我山へと、暇名小五郎は息つく暇もなかった。
藤田舞子事務員 「ねえ先生。きょうは温対さんは呼ばないんですか?」
暇名小五郎 「うん。温対さんだって、それなりに忙しいしね」
藤田舞子事務員 「そうですよね。遊んでばかりいるみたいだけど、仕事もやってるのよね」
暇名小五郎 「はは。今頃、くしゃみしてるかな」
天気が良くて、久我山駅から歩くのも、藤田舞子には楽しそうだった。
【久我山将棋教室】
暇名小五郎 「こんにちは。遊びに来ました」
世渡甚六席主 「おお、暇名さん。丁度良かった。今、あなたの噂話をしていたところだよ」
暇名の訪問を受けて、世渡席主はびっくりしたようだが、嬉しそうでもあった。
暇名小五郎 「嫌だなあ。どうしてですか?」
暇名は、世渡席主と将棋を指している相手を見て、驚いた。
関根銀四郎<89歳> 「儂じゃよ。しばらくだのお」
なんと、あの魔道館の関根元総裁である。
暇名小五郎 「関根総裁じゃないですか。どうしてここに?」
関根銀四郎 「はは。どうしてもこうしてもないものだ。儂の孫が、世渡君のところで世話になっとるのだ。たまにこうして名古屋から出てきて、様子をみとるのだよ」
世渡甚六席主 「ははは。関根少年のことは、何も心配ないと言ってるんだがね。それでも、孫のことは心配みたいだねえ」
暇名小五郎 「そうだったのですか。お変わりないですか?」
関根銀四郎 「ああ、勿論だ。ますます元気じゃよ」
藤田舞子事務員 「もう米寿を過ぎたって聞きましたけど、ほんとにお元気ですよね」
関根銀四郎 「はははは。お嬢さんとも、まだ恋愛できるぞ。ははは」
藤田舞子事務員 「あっはははは。ほんとですねえ」
関根銀四郎 「ま、孫の様子を見るためもあったが、席主をなぐさめようと思っての」
暇名小五郎 「何かあったのですか?」
暇名は、世渡のほうを見た。
世渡甚六席主 「はは。なに、先日私のDNA提供者が亡くなりましてね」
世渡は、一瞬悲しげな顔をみせた。
暇名小五郎 「そうでしたか。それは、どうも」
世渡甚六席主 「高齢でしたからね。でも、なんとも切ないような、諦めがついたような」
関根銀四郎 「はは。それで、わしが慰めに来たというわけじゃよ」
本気で慰めに来たのか、酒をたかりにきたのか、わかったものではなかった。
小茶園猛主任講師 「暇名さん、きょうは温対さんは?」
暇名小五郎 「忙しいみたいです。藤田君に頼まれて遊びに来たのですが、プロ棋士の指導は無いみたいですね?」
世渡甚六席主 「そうだね。夜は、石田和男先生や松尾君、豊島君が来るようだけどね」
藤田舞子事務員 「あら。豊島君って、可愛いのよね」
舞子は、将棋は出来ないが、若手の棋士の顔は知っているようだった。
小茶園猛主任講師 「夜は、指導ではなくて、関根総裁が来てるので、歓迎会をやりに来るようですよ」
関根銀四郎 「うむ。西村君も来てくれる様な事を、言っとったのお」
世渡甚六席主 「はは。なるほど。愛知県人会というわけですな」
関根銀四郎は名古屋市だが、西村和義9段も同じ名古屋だった。
松尾渉6段は、愛知県日進市。豊島将行6段は、愛知県一宮市。
そして、酒豪の石田和男9段は、愛知県岡崎市出身であり、愛知連合を形成していた。
魔物の棲家・第20部
第133章 「鑑識課」
鑑識課に入ると、ガランとしている。広い部屋には、机と椅子がたくさんおいてあったが、3人居るだけだった。
天然流誠捜査官 「山城さん。お客さん連れてきたよ」
天然流捜査官は、暇名小五郎と藤田舞子を紹介した。
山城寛斎係長<46歳> 「はは。知ってますがな。うちで暇名さんを知らない人は、もぐりだす」
言葉遣いからは、関西方面出身のようだった。
暇名小五郎 「はは。それはどうも」
山城寛斎係長 「こないな可愛い子が秘書でっか。うらやましいがな」
藤田舞子事務員 「こんにちは。山城係長さんて、正直な人ね」
暇名小五郎 「ははは」
山城寛斎係長 「はは。そんで、名探偵はんが、わしにどないな用事かいな?」
いままで一度も暇名探偵が、鑑識課に来たことが無かった
だけに、山城係長も面食らっていた。
暇名小五郎 「実はですね。教えて欲しいのは・・・・」
天然流捜査官も興味を持ったのか、捜査一課に戻らず、一緒に話を聞いていた。
山城寛斎係長 「それはそうだす。特殊なもんですよって、何処にでもあるものとは違いますがな」
暇名小五郎 「そうすると、パール粉とかラメとか等のようなものですか?」
山城寛斎係長 「うーん。ちょっと違うで。ラメは、よく女の人が使う、ほれ、なんとかいう化粧に使うもので・・」
藤田舞子事務員 「ネイルアートよね。私も時々使うから」
言葉を思い出せないでいた山城に、藤田舞子が助け舟をだした。
山城寛斎係長 「そうそう、それや。マジョーラとか蓄光粉なんかも特殊なもんやが、そもそも目的が違うよってな」
話しながら、山城係長は保管場所の棚から、1缶持って来てみんなに見せた。
ちょっと見ただけでは、牛肉の缶詰のようだった。
暇名小五郎 「そうでしょうねえ。警察で使用するものは、臭いはどうなのですか?」
山城寛斎係長 「わざと臭いつける場合もあるけどな、ほとんどは全然臭いはしないがな。そのほうが利用価値もあるよって」
暇名小五郎 「なるほどね。色はどうですか?」
山城寛斎係長 「無色透明や。見た目では、全然わからんがな」
暇名小五郎 「そうですか。じゃあ、それでもって・・・・・」
山城寛斎係長 「そうやな。その場合は、はっきり出るがな。雨に濡れても同じや」
暇名小五郎 「分かりました。それを1缶、わけていただけますか?」
1缶といっても、軽く手に持てるほどの小さなものだった。
山城寛斎係長 「ま、危険なもんでもないよって。差し上げますがな」
暇名小五郎 「代金は、払いますよ」
山城寛斎係長 「はは。特殊なものやから、結構高いがな。事件を解決してくれるちう条件で、ただで進呈するで」
藤田舞子事務員 「気前いいわねえ。男前だわあ」
舞子が、手を叩いて喜んだ。
天然流誠捜査官 「ははは。暇名さん、それはいったい何に使うんですか?」
天然流にしてみれば、どうにも気になって仕方が無かった。
暇名小五郎 「あとで教えますよ。はは」
秘密主義が、暇名小五郎の持ち味であり、魅力でもあった。
天然流誠捜査官 「これから、どうされますか?」
暇名小五郎 「はは。藤田君との約束でしてね。久我山のほうへ、デートですよ」
独身の天然流捜査官は、羨ましそうだった。
暇名小五郎は、もしかすると彼は、藤田舞子のことを好きなのではと、ふと思った。
魔物の棲家・第20部
第132章 「警護」
暇名小五郎 「はい。そうなんですよ。実は、例の一連の殺人事件ですが、その出発点は5年前の山岡3段の自殺ではないかと思うのです」
山蛇知之捜査一課長 「うむ」
山蛇一課長は、暇名小五郎が何を言うのか、興味深く耳を傾けた。
暇名小五郎 「最初の被害者の渡り鳥旭7段は、その当時、奨励会の代表幹事をしていました」
寅金邪鬼警部 「うむ。それは承知している」
警察も、それなりに調べていた。
暇名小五郎 「はい。そこで、考えたのですが。渡り鳥7段が殺害される原因が、奨励会の世話役をしていたことと関係があるとすれば、当然ほかの幹事たちにも危険が及ぶのではないかと」
寅金邪鬼警部 「なるほど。だが、誰がどのように関係していたのかは、把握できていない」
暇名小五郎 「たしかにそうですが、5年前に奨励会世話役をしていた人たちの中でも、大沢一向8段と越中褌6段の2人は、特に危険だと思います」
暇名の口調に、熱が入ってきた。
山蛇知之捜査一課長 「理由は何かね?」
暇名小五郎 「2人とも渡り鳥7段と年齢が近く、わりと仲も良くて、よく一緒に飲みに行っていた間柄のようです」
山蛇知之捜査一課長 「ほお」
暇名小五郎 「そんな関係で、奨励会の決め事とか、奨励会員との接し方や、細かいことまで相談しあっていたらしいのです」
寅金邪鬼警部 「なるほどな。つまり、渡り鳥7段が殺害される原因が、奨励会に関する事なら、その2人にも関係してくるということだな」
鬼警部の飲み込みは早い。
暇名小五郎 「そういうことです」
山蛇知之捜査一課長 「うむ。では、その両名を保護又は警戒しろということだね」
暇名小五郎 「はい」
山蛇知之捜査一課長 「分かった。保護は、今の段階では無理だが、両名に私服をつけて警護するようにする。それでいいね?」
暇名小五郎 「結構です。出来れば、本人たちには気づかれないようにお願いします」
寅金邪鬼警部 「うむ。そうしよう」
暇名小五郎 「安心しました。それから、別件ですが、警部に頼みがあります」
寅金邪鬼警部 「まだあるのか。なんだ?」
暇名小五郎 「鑑識課の人を、紹介してもらいたいのですが」
寅金邪鬼警部 「鑑識? 何するんだ?」
暇名小五郎 「ええ。ちょっと。警察の備品のことで教えて欲しいことがあるのと、借りたい品物があるんですよ」
相変わらず、暇名小五郎は秘密めいたことしか言わない。
寅金邪鬼警部 「事件に関係あることか?」
暇名小五郎 「あります」
これには、きっぱりと断言した。
寅金邪鬼警部 「わかった。いいだろ。ほかならぬ暇名探偵の頼みだし、美人も一緒だしな。ははは」
藤田舞子事務員 「あっはははは」
舞子も、つられて豪快に笑った。
寅金邪鬼警部 「じゃあ、天然流君が一緒に行って、山城係長に紹介してやるように」
天然流誠捜査官 「承知しました。行きましょうか」
暇名小五郎と藤田舞子は、天然流捜査官に連れられて、4階の鑑識課へ案内された。
魔物の棲家・第20部
第131章 「人気者」
温対記者 「暇名さん、何かありますね」
暇名小五郎 「そうですね。渡り鳥7段の殺害が、当時の奨励会に関係しているとしたら、大沢さんと越中さんが危ないです」
暇名は、それまでは彼らに危険が及ぶとは考えていなかったのだが、広島から帰ってきて推理の視点に変化が出ていた。
伊加訓生事務局長 「わかりました。私から会長に報告して、対処を考えます」
さすがに、伊加事務局長の動きは早い。
暇名小五郎 「そうしてください。私は、あとで警視庁へ行って、警戒してもらうように頼んできます」
伊加訓生事務局長 「お願いします」
暇名小五郎と温対記者は、このあと将棋会館を出てくると、近くにある喫茶店で30分ほど打ち合わせをしてから別れた。
温対記者は、四谷の週刊ポテト社に戻り、暇名は、銀座の事務所に戻った。
藤田舞子事務員 「先生、お帰りなさい。お土産は?」
暇名小五郎 「はは。忘れた」
仕事で出かけたのに、お土産なんかあるものかと思ったが、あえて口に出さなかった。
藤田舞子事務員 「先生や温対さんは、ほんとにいいですよねえ。羨ましいわ」
暇名小五郎 「はは。私は、もう少ししたら警視庁へ行くからね」
藤田舞子事務員 「あら、じゃあその帰りにでも、こんどは久我山将棋教室に連れてってくださいな。お土産代わりに」
暇名小五郎 「ははは。そうだね。じゃあ、一緒に行くことにするか」
あまり藤田舞子の機嫌を損ねると、後が怖かった。
藤田舞子事務員 「わあ、うれしい。先生も約束守るんですねえ」
暇名小五郎 「当たり前だよ。だけど、千駄ヶ谷の将棋センターと違って、有名なプロ棋士が来てるかどうかは、わからないよ」
藤田舞子事務員 「はい。その時は、仕方ないです。行くだけ行きましょ」
藤田舞子は、すっかり喜んでいる。暇名小五郎もそれを見て、たまにはいろんな所へ連れて行こうと思っていた。
暇名小五郎 「はは。じゃあ、もう少し待って」
事務所での用事を片付けると、暇名小五郎は藤田舞子と一緒に、霞ヶ関の警視庁へやって来た。
寅金邪鬼警部 「おや。今日はどこの女優さんを連れてきたのかな?」
暇名と一緒に現れた藤田舞子を見て、寅金警部が真面目な顔で笑いかけた。
藤田舞子事務員 「あら、寅金警部さん。ずいぶんお世辞が上手になりましたわねえ。ほほほ」
山蛇知之捜査一課長 「はは。警部は、お世辞なんか言ってない。私も石原さとみが来たのかと思ったからねえ」
山蛇一課長は、世辞ではなく、嘘を言った。
暇名小五郎 「はははは」
藤田舞子は、刑事たちにも人気者だった。
天然流誠捜査官 「でも、暇名さんが藤田舞子さんを連れてくるなんて、珍しいですね」
暇名小五郎 「ええ。たまには外へ連れて行けって、うるさくてねえ」
藤田舞子事務員 「失礼ね。そんなにしつこく言ってませんよ」
寅金邪鬼警部 「はは。ところで、何か用事があったんだろ?」
暇名小五郎が、意味も無く捜査一課までやって来るわけが無いことを、刑事たちは十分承知していた。