駒の流儀・第34部 完結編

第166章「顧客名簿」

 暇名小五郎によれば、本命である第1の殺人事件は、相続財産が絡んでいた。
   第2、第3の殺人事件は、どうなのであろうか。名探偵の一挙手一投足に、全員の視線が集中していた。

          暇名小五郎 「では、第2の殺人事件を考えて見ましょう。山岡組長は何故殺されたのかですが、山岡組長は藁人形茂幸氏殺しの犯人を捜すことを、関東連合会から依頼されていました」

筒井村重本部長 「その通りだ。我々が山岡に頼んだのです」

  大橋宗雪理事長 「うむ。山岡は、うちの筒井と兄弟分じゃったからのお」

     筒井も大橋も、山岡組長の死の原因が連合会にあることを知っていて、沈痛な面持ちであった。
    

        暇名小五郎 「そのため、山岡組長は福井県まで行き、父親の茂和社長が入院していることを、突き止めたのです」

 湯川慶子委員 「目的は何だったの?」

          暇名小五郎 「はい。目的は、被害者の茂幸氏や父親の茂和社長に恨みを持つ人物がいないか、あるいは、何か殺害動機に繋がるものはないかを探るためであり、それほど深い意味があったわけではなかったのです」

大橋宗雪理事長 「うむ。ところが、予期しない重要な手掛かりがあったのじゃな?」

         暇名小五郎 「お察しの通りです。山岡組長が病室を訪れたときに、思いがけない人物に出会ったのです」

 大吉三郎委員長 「ほお」

        暇名小五郎 「その時、病室で付き添っていたのは、藁人形茂和社長の実の姉でした」

湯川慶子委員 「お姉さんなら、付き添っていても当然じゃないの?」

       暇名小五郎 「もちろんそうですが、山岡組長には、見覚えのある人でした。その時は、気がつかなかったようですが」

 仁歩犯則書記長 「なぜ、わかるのですか?」

        暇名小五郎 「それはですね、山岡組長は、その晩は東京に戻らず、福井市に泊まっているからです」

小茶園猛若頭 「それは暇名さんの言うとおりだ。自分も一緒に行ったので、間違いねえ」

        暇名小五郎 「翌日、山岡組長は、病院に行って担当の最所医師に面会を求めています」

最所才吾医師 「そのとおりです」

        暇名小五郎 「最所先生。その時、山岡組長は何を聞きに来たのですか?」

 最所才吾医師 「山岡氏は、藁人形社長の病状について、詳しく教えて欲しいと言ってきました」

       暇名小五郎 「もちろん、医者には守秘義務がありますので、一切先生は、口外してはおりません。ほかにも何か聞いてきたはずですよね?」

最所才吾医師 「ええ。病室で付き添っていた、藁人形氏の姉のことについても聞いてきました。私は、何も知らないと答えましたがね」

  今陣孝太郎管理人 「なるほどね。山岡組長が福井で一泊した理由は、姉だったのか」

湯川慶子委員 「女に興味をもっただけじゃないの?」

   喝采賢介委員 「うんうん。あり得ますなぁ」

        暇名小五郎 「いいえ。湯川さんのような美しい女性なら別ですが、62歳の藁人形社長のお姉さんですから、それは無いでしょう」

丸潮新次郎委員 「まあ、そうでしょうなぁ」

        暇名小五郎 「そして、東京に戻って来た山岡組長は、山岡商事で、貸金業の債務者名簿を閲覧したのです」

弐吐露隆若頭補佐 「自分も、それは知ってますよ。どうして、組長はそんなもの見てるのか不思議だったすから」

  不利舎耕介副委員長 「普段は、帳簿など見ないのだね」

 小茶園猛若頭 「ああ。そういうことに無頓着だったし、事務員がきちんと管理してるから、組長が自分で帳簿を見ることなんかないよ」

   大吉三郎委員長 「ま、そうでしょうな。それで、何が出てきたのですかな?」

         暇名小五郎 「その貸金の顧客名簿には、ある女性の顔と金額が、写真付きで載っていました。そうですよね?」

 
弐吐露隆若頭補佐 「そうです。うちの名簿には、必ず写真を貼っておくんですよ。組長には、新規の顧客の略歴や写真は、最初に見せるだけです」

 湯川慶子委員 「一応、債務者の顔写真は見てるわけね」

小茶園猛若頭 「そうだね。組長の決済がいるからな。新規の客の時は、必ず見せてるよ。ちゃんと見てるかどうかは、知らねえけどな」

  湯川慶子委員 「女の写真だから、しっかり見てるんじゃないの?」

女の写真に、いやにこだわっている。

喝采賢介委員 「もちろん、湯川さんのほうが美しいですよ。うんうん」

       臆面も無く持ち上げている。こういうタイプは、長生きしそうである。

          暇名小五郎 「名簿を閲覧した山岡組長は、藁人形社長の姉が、山岡商事の顧客であることを確認したのだと思います」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 11/01/2010 - 13:45 categories [ ]

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魔界奇談と Second System Effect

http://en.wikipedia.org/wiki/Second-system_effect

我の居る業界には”Second System Effect”と呼ばれる呪いがありまする。平たく言えば「二回目に作る時には前回できなかった事を全部盛り込もうとして消化不良を起こす」...と言った所ですか。三作目には前二作の蓄積による飛躍がある...かもしれませんよ。

何はともあれ長期連載お疲れ様でした。当倶楽部の至宝と致します。

駒の流儀・第34部  第169章

第169章「母と子」

 名探偵暇名小五郎が、あらためて話を聞きたいと指名した人物に、当然ながら注目が集まった。

大橋宗雪理事長 「ほお。暇名殿は、誰を指名されるのかな?」

      暇名小五郎 「将棋連盟の伊加訓生事務局長代理に、お聞きしたいのですが」

伊加訓生事務局長代理 「僕ですか? さあ、何だろう」

     伊加代理は、キツネにつままれたような顔つきだった。
 

        暇名小五郎 「はは。そんなに驚かないでくださいよ。参考までに少しお聞きしたいことがあるだけですから」

 伊加訓生事務局長代理 「はあ」

       暇名小五郎 「伊加さんには、本当にいろいろと手助けをしていただいて、有難いと思っています」

     不安そうにしていた伊加は、暇名探偵にそう言われて、やや安心したようだった。

伊加訓生事務局長代理 「わかりました。僕で分かることでしたら、どうぞ聞いてください」

    いかにも善良で、真面目な人柄が滲み出ていた。

       暇名小五郎 「大したことではありません。型どおりの質問ですから、どうぞ気楽に答えてください」

       
伊加訓生事務局長代理 「はい」

      暇名小五郎 「では、お聞きしますが。伊加さんのお母さんは、今年お幾つですか?」

暇名は、穏やかな笑みを浮かべながら、雑談でもするように話しかけた。

 伊加訓生事務局長代理 「母の年ですか。 なぜです?」

        暇名小五郎 「どうぞ教えて下さい」

伊加訓生事務局長代理 「たしか、64歳だったと思います」

      好青年の伊加は、暇名小五郎の質問に明るく答えた。

        暇名小五郎 「あなたは、現在どこにお住まいですか?」

伊加訓生事務局長代理 「なんか、身上調査みたいですねえ。僕は大久保のアパートに住んでますよ」

     会場の参加者たちは、暇名探偵がなぜ伊加職員にそんな質問をしているのか不思議だった。

         暇名小五郎 「そうですか。お母さんは、千葉県じゃなかったですか?」

伊加訓生事務局長代理 「そうです。それが何か?」

         伊加代理の父親は、すでに他界していた。

           暇名小五郎 「千葉県の何処ですか?」

伊加訓生事務局長代理 「松戸市です。どうして、そんなことを?」

      暇名小五郎 「伊加さんは、子供の頃は友達から、何と呼ばれていたのですか?」

伊加訓生事務局長代理 「別に。普通に名前で呼ばれてましたけど」

        暇名小五郎 「そうですか。ところで、あなたのお母さんが、消費者金融から多額の借金があったことは、ご存知ですか?」

 伊加訓生事務局長代理 「そんなことまで答える義務はないですよ」

         温厚な伊加が、顔を真っ赤にした。

伊加訓生事務局長代理 「暇名さん、いやだなあ。ひょっとして僕を疑ってるんですか?」

  後呂記者 「そうですよ、暇名さん。伊加君は、僕の親友ですよ。どうして彼を疑うんですか?」

         暇名小五郎 「必要なことをお聞きしているだけです。どうか黙っていてください」

       珍しく暇名探偵が、語気を強めた。

          暇名小五郎 「では、別なことをお聞きします。あなたはたしか、今年結婚の予定があったように聞いていますが、結婚式はいつですか? もう決まったのでしょうか?」

 伊加訓生事務局長代理 「なぜそんなことを、ここで言う必要があるのですか? プライベートなことじゃないですか」

     いつの間にか、伊加の顔から穏やかな笑みが消えていた。

          暇名小五郎 「大事なことだから、聞いているのですよ。答えてください」

               強い口調だった。

伊加訓生事務局長代理 「結婚の予定はありましたが、都合で中止になったんです」

        暇名小五郎 「そうでしたか。それは、つらいことをお聞きしました。もし、よければ結婚をやめた理由も聞かせてくれますか?」

      暇名の話し方は、淡々としていたが、答えを拒めない強い押し出しを感じさせた。

 伊加訓生事務局長代理 「別に、ただお互いの気持ちが変わったからですよ」

         暇名小五郎 「なるほど。ところで、そのお相手の女性は、何という方ですか?」

伊加訓生事務局長代理 「多勢の人の前で、名前は出せませんよ。彼女のプライバシーがありますから」

      ほんの少しだが、伊加代理の顔が苦しそうに歪んだ。

         暇名小五郎 「たしかにそうですね。失礼しました。では、名前は伏せますが、その女性は殺された藁人形茂幸氏と婚約された方ですね?」

伊加訓生事務局長代理 「・・・・・」

         暇名小五郎 「しかも、伊加さん。あなたが先に結婚するはずだった女性ですよね?」

伊加訓生事務局長代理 「い、いったい何を言いたいのですか!?」

     さっきまで真っ赤だった伊加代理の顔が、真っ青になっていた。

伊加訓生事務局長代理 「暇名さん。あなたは僕が母の借金のためと、婚約者を奪われたために、藁人形茂幸さんを殺害したとでも言うつもりですか!!」

       伊加は、怒鳴るような大声を出した。一瞬、道場内は静まり返った。

 今年の3月から8ヶ月に渡った魔界奇談も、ようやく次章で最終回を迎える。
    来週8日の月曜日。第170章「真犯人」に期待していただきたい。

  前作の時に比べて、読者が少なかったのが残念であり、回を重ねても視聴率は上がらなかった。
   内容に不満のむきもあったようで、読者を楽しませることができなかったようだ。

  次回作の構想もあったのだが、請われていないのでは、やらぬほうが良いであろう。
   なにはともあれ、無事に終了できることを感謝したい。

 

駒の流儀・第34部  第168章

第168章「殺人鬼の怯え」

        暇名小五郎 「越中氏が本当に、殺人犯が誰なのか知っていたのかどうかは、微妙です。私は、まだそこまではっきりとは判っていなかったと思っています」

大橋宗雪理事長 「ほお」

     暇名小五郎 「むしろ殺人犯のほうが、越中氏に正体を知られたのではないかと疑ったのではないでしょうか」

 米中会長 「うむ」

       暇名小五郎 「だからこそ、越中氏が福井県と秋田県を周って帰京するときを狙って、殺害したのだと思います」

大橋宗雪理事長 「うむ。つまりそれだけ、越中氏が犯人を、追いつめていたということじゃのお」

      暇名小五郎 「はい。特に秋田県の上小阿仁村では、新聞販売店で猫面忠治君とアルバイトをしていた少年が、現在の連続殺人犯ではないかというところまで迫ったはずです」

 喝采賢介委員 「キョーシロウですな」

        暇名小五郎 「私と温対記者も、越中氏と同じ行程をたどって、東北新聞販売店まで行きました」

筒井村重本部長 「そこから先が違ったのだな」

      暇名小五郎 「ええ。そこの新聞販売店のオーナーは、忠治君たちが働いていたときのオーナーとは変わっていました。ここで越中氏の調査は、壁に突き当たったのです」

湯川慶子委員 「じゃあ、犯人は何も心配しなくても良かったんじゃないの?」

         暇名小五郎 「とんでもない。いずれ、そこの販売店の線から、真犯人のところへ辿りつくことは、目に見えていました」

山城寬斎事務局長 「そうやな。犯人にしてみれば、気がきではないやろなあ」

     冷静に次から次へと、殺人を実行してきた殺人鬼だったが、内心は彼らの追及の鋭さに、恐れを抱いていたのである。

丸潮新次郎委員 「つまり、殺人鬼も怯えていたのですねえ」

       暇名小五郎 「現実に、我々は運よく忠治君がアルバイトをしていた当時のオーナーが、札幌にいることを突き止めました」

仁歩犯則書記長 「なるほど。当然、札幌へ飛んだわけですね」

    喝采賢介委員 「大変でしたなあ。あっち行ったり、こっち行ったりで」

 湯川慶子委員 「茶化さないの」

     またまた湯川女史にたしなめられたが、相手が美人だけに嬉しそうだ。

喝采賢介委員 「はい、すみません」

          暇名小五郎 「札幌では、訳知雀オーナーが将棋クラブを経営していて、話を聞くことができました」

訳知雀席主 「君たちが、訪ねて来たときは驚いたよ」

  温対記者 「訳知席主には、お世話になりました」

         暇名小五郎 「そこで殺人犯が少年当時の名前は聞き出せませんでしたが、仲間たちには<キョーシロウ>と呼ばれていたことがわかったのです」

大吉三郎委員長 「それは、不利舎君も言っていたね」

      暇名小五郎 「はい」

大橋宗雪理事長 「やはり、<キョーシロウ>が鍵になるのお」

  湯川慶子委員 「そうね。狂五郎を1ランク下げたとか要ってたわよねえ。違うんでしょ?」

      湯川女史は、不利舎耕介に向って聞いた。

不利舎耕介副委員長 「石辺が、狂五郎と呼ばれていたのは事実だ」

       ホームズが、むきになって言った。
 

       暇名小五郎 「はは。でも、石辺さんが犯人でないことは、あきらかんですよ。そうですね、捜査官」

天然流誠捜査官 「そうです。石辺さんは、小学校から高校まで、福島県の会津若松市にいたことは、確認済みです」

 丸潮新次郎委員 「うむ。そうすると、いったい誰が、その時の少年なんだね?」

      暇名小五郎 「はい。話をまとめてみましょうか」

大橋宗雪理事長 「そうじゃのお。だいぶ儂の頭は、こんがらがってきたからのお」

   今陣孝太郎管理人 「では、私が大橋氏のために、事件の経過を簡単にまとめましょう」

       今陣孝太郎は、管理人のかたわら、重要な記録や資料を整理しファイリングすることを、得意としており、その手並みはプロ級であった。

  今陣孝太郎管理人 「殺人犯は、怪人60面相が駒の流儀書に基づく盗難事件を起こしていることを利用して、以前から殺害を計画していた藁人形茂幸氏を殺害しました」

喝采賢介委員 「うんうん」

   今陣孝太郎管理人 「これが第1の殺人であり、目的そのものでした。続いて起こった第2、第3の殺人は、殺人鬼の正体に迫ってきた彼らを処分したものです」

湯川慶子委員 「ゴミ処理みたいね」

     緊迫した場面だったが、再び笑いが起きた。
      この後、まだ今陣氏によるまとめがあって、全員、事件の全容が理解できたようである。

        暇名小五郎 「はは。ところで、ここで是非、お話を伺いたい人がおります。ご協力をいただきたいと思います」

      なんのために、話を聞きたいのか分からないが、暇名探偵は、一体誰を指名するというのだろうか。

駒の流儀・第34部  第167章

第167章「見えない敵」

 藁人形茂和社長の姉が、闇金融の山岡商事から金を借りていたことは、初めて聞く者にとっては、ある種衝撃の事実でもあった。

今陣孝太郎管理人 「信じられない話だが、いったいどのぐらい借りてたのかな?」

  小茶園猛若頭 「企業秘密なんで、金額は言えねえけど、かなりの額だ。あんたの給料じゃ返せねえな」

喝采賢介委員 「弟の茂和社長は金持ちなのに、なんでわざわざ闇金なんかに借りたんですかねえ?」

   弐吐露隆若頭補佐 「おい!闇金なんかとは、なんて言い草だ。取り消さねえと無事ではすまさねえぞ」

      山岡組の武闘派代表の弐吐露が、すごんだ。

湯川慶子委員 「ちょっとお。あんたこそ、なにいきがってるのよ。闇金は闇金じゃないの。事実を言って何が悪いのよ」

        姉御の剣幕に、やくざの幹部も押された。

寅金邪鬼警部 「ま、そのぐらいにしろ。湯川先生も抑えてください」

      鬼警部のとりなしで、治まったようだ。

 

        暇名小五郎 「喝采委員が言われるように、本当なら実の弟が資産家なのですから、何も闇金融から借りなくても、弟から借りれば良いのですが、この姉弟は普段から非常に仲が悪く、弟からは借金が出来なかったのです。尤も、頼んだところで貸してくれなかったでしょうけど」

 丸潮新次郎委員 「仲の悪い兄弟は、確かに多いですねえ。裁判沙汰になるケースもあるようだから」

大橋宗雪理事長 「だが、その姉はなぜ、そんなに多額の借金をしたのかのお」

        暇名小五郎 「そこが問題でした。藁人形社長の奥さんの話によると、義理の姉は親友のご主人が経営していた会社が倒産して逃げたので、そのご主人の債務の連帯保証人になっていたために、大きな借金を抱えることになったそうです」

大吉三郎委員長 「うむ。それは気の毒なことだ」

  皆本義経編集長 「災難だったですねえ」

         暇名小五郎 「ええ。山岡組長は、顧客名簿で確認した後、とても重要な事実に気がついたのです」

喝采賢介委員 「うんうん」

          暇名小五郎 「そして、そのことを確認し、利用するために或る人物と接触を試みたのです」

湯川慶子委員 「女じゃないわね」

       暇名小五郎 「はい。もちろん、その人物は女性ではありません。山岡組長は、八幡山の自宅マンションで1杯やろうと誘い出し、交渉する前にその人物によって、毒を盛られて殺害されました」

 筒井村重本部長 「そうすると、やはり山岡組長とその男は、顔見知りということになるな」

  不利舎耕介副委員長 「うむ。知り合いだということは、事件当初から分かっていたはずだ。問題は、山岡組長がその男が殺人犯だと知っていたかどうかだ」

       暇名小五郎 「はい、仰るとおりです。山岡さんは、その人物が殺人犯だとは、全然思っていなかったはずです。いくらなんでも、人殺しを自宅に招いたりはしないでしょう」

丸潮新次郎委員 「では、なんのために呼んだのですか?」

      暇名小五郎 「山岡さんにとって、その人物は利用価値があったからだと推測できます」

湯川慶子委員 「でも、いくら利用価値があったからって、殺されたんでは、なんにもならないわよ」

  喝采賢介委員 「うんうん。その通りですなぁ」

        暇名小五郎 「はは。まさに仰るとおりです。こうして、第1、第2の犯罪は、いずれも被害者と犯人が一緒に酒を飲んでいて、殺害されたのですが、第3の犯行は性格が違っていました」

大吉三郎委員長 「そうだね。一緒に酒を飲んではいなかった」

 湯川慶子委員 「じゃあ、越中氏殺しの犯人は、違う人ってことなの?」

不利舎耕介副委員長 「それは無いと思う。同一人の犯行ですよ」

          暇名小五郎 「はい。犯人はひとりですよ」

       見えない敵ながら、その影は2つに重なることはなかった。

喝采賢介委員 「では、なぜ殺しの方法が変わったのかなぁ?」

      暇名小五郎 「殺しの方法は変わっていませんよ。毒物を使っており、方法は同じです。変わったのは、酒を一緒に飲むほど親しくないか、あるいは、酒に誘うと怪しまれると思われるからです」

 大橋宗雪理事長 「なるほどのお」

           暇名小五郎 「それとも、その時点で越中氏は、殺人者の正体を見破っていたのかも知れません。そして、殺人者もそのことを察知していたとも考えられます」

 湯川慶子委員 「そうよね。それなら、悠長に酒なんか飲んでられないわね」

今陣孝太郎管理人 「しかし、どうして越中氏は、真犯人が誰なのかが解かったのかなあ?」

          暇名小五郎 「はい。越中事務局長は、山岡組長とは全く別のルートで殺人者の素顔へと迫っていました。山岡氏が福井県ルートなら、越中氏は秋田県ルートです」

湯川慶子委員 「なあに。山登りみたいね」

       湯川女史の一言で、緊張が一気にほぐれて、会場は大きな笑いに包まれた。
      女性がいるのといないのとでは、なごやかさが違うものである。

     だが、将棋会館の2階道場に集まった関係者にとっては、やがて訪れる恐怖と戦慄の瞬間までの、ほんのつかの間の安らぎでしかなかった。 

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