駒の流儀・第24部  第121章

第121章「オーナー交代」

 東北新聞販売店に入り、応対に出てきた奥さんに用件を伝えると、すぐ入れ替わりに店主の益田幸三が現れた。
  温対記者が名刺を渡すと、奥に通された。

益田幸三<55歳> 「この前も、東京から訪ねて来た人がいましたよ」

      越中事務局長のことだと、すぐ分かった。
     その越中氏が、ここを訪れてから、しばらくして殺害されたこと。そして、別の事件にも深く係わっていることなどを説明すると、益田店主も興味をそそられたようで身を乗り出してきた。
 

  温対記者 「そういうわけで、僕らは越中さんが、どんなことを聞きに来たのか知りたいんです」

益田幸三 「なるほど。その時の話ですね。いいですよ」

     店主は、顔は髭を生やしていて怖い印象だったが、話してみると意外と人懐っこい男だった。

 益田桃子<52歳> 「どうぞ。東京から来たのですか。こっちは東京よりは涼しいでしょう?」

益田の妻が、冷たい緑茶を運んできた。

    暇名小五郎 「はい。どうぞ気遣い無く」

     3人で、その冷えた緑茶を飲んだが、このあたりの水質が良いのか、東京では味わえない上手さだった。

益田幸三 「その人は、猫面尺治さんの息子さんの忠治君と、一緒にアルバイトで働いていた少年の名前を教えて欲しいと言ってきました」

     暇名小五郎 「なるほど。それで」

 益田幸三 「教えるもなにも、話を聞くと20年以上も前のことで、その時は私がやっていたわけじゃないんですよ」

       温対記者 「えっ! 違うんですか?」

益田幸三 「はい。私は15年前に今の仕事を始めたんで、その前は違う人がやっていました」

     温対記者 「でも、ここの店だと猫面さんが言ってましたけど・・」

 益田幸三 「そりゃあそうです。場所も店もここですよ。東北新聞店のままですから」

      暇名小五郎 「つまり、オーナーさんが代わったということでしょうか?」

益田幸三 「そうですよ」

      温対記者 「そ、そしたら、ここの店と住居を前のオーナーさんから買ったということですか?」

益田店主は、一瞬怪訝そうな顔をした。

益田幸三 「はは。この業界のことを、あまりご存じないようですね。ここは、私の持ち物ではないんですよ」

       温対記者 「はあ・・」

益田幸三 「新聞販売店の店舗は、通常、新聞社が所有又は賃借してましてね、私たち販売店は、その店舗を無料で新聞社から使用貸借により借りるという関係にあるのです」

       暇名小五郎 「なるほど。そうすると、オーナーさんの家族や従業員は、店舗内に住み込みということなのですか?」

益田幸三 「そういう場合も多いですよ。うちは家族だけですけどね」

      温対記者 「じ、じゃあ、前のオーナーさんには何もないのですか?」

温対からみると、納得のいかない話のようだった。

 益田幸三 「いや。通常、新たに新聞店を開業する場合、廃業したり他の店へ移る既存の販売店主さんに<代償金>を支払います」

       暇名小五郎 「営業権のようなものですか?」

益田幸三 「そうです。代償金というのは、その区域で独占的に新聞を販売する権利の売買代金と考えてください」

      温対記者 「高い金額なんすか?」

益田幸三 「それほどでもないですが、その時点の1か月分の新聞・雑誌等の売上高とするのが慣例です。その他にも、販売代金の未収分や、自転車・バイク・折込機等の備品代なども払います」

     温対記者 「へえ。ずいぶん払うものなんですねえ」

益田幸三 「ええ。ほかにも新聞社には、<取引保証金>を支払らわなければなりません。おおむね1か月分の新聞等仕入相当額ですよ」

       暇名たちは、初めて聞く話で業界の知識として、なんとなく聞いていたのだが、ここでの益田幸三の話は、後に事件の解決に大きく寄与することになるのである。
 

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