駒の流儀・第21部  第105章

第105章「該当者なし」

 週刊ポテト社では、暇名探偵を囲んで、打ち合わせが行われていた。
   将棋連盟の越中事務局長から聞いた話を、検証するためである。

温対記者 「編集長。越中事務局長さんによると、怪人60面相はブロ棋士であり、子供の頃は<ゆきちゃん>と呼ばれていたらしいですよ」

    皆本義経編集長 「だが、どうやって調べて、どういうふうに断定したかは分からんが、本当に間違いないのか?」

暇名小五郎 「可能性は、十分高いと思いますよ。あの慎重な越中さんが、あそこまではっきり言われたのですから」

     温対記者 「そうですよ。越中さんは、自信がありそうでしたから」

皆本義経編集長 「そうか、わかった。事実関係は、また後でじっくり調べるとして、とりあえず問題は<ゆきちゃん>ということだな」

      後呂記者 「編集長。プロ棋士に限定しないで、奨励会の退会者も範囲に含めてはどうですかねえ」

皆本義経編集長 「うん? 奨励会の退会者か・・・。だけど、彼らはプロじゃないだろ?」

     暇名小五郎 「越中さんの話では、<ゆきちゃん>はプロ棋士になったと、はっきり聞いたそうですから、この際、奨励会の退会者は除外というか、保留して考えたほうがいいでしょうね」

      将棋界にあまり詳しくない人は、奨励会員はプロ棋士かどうかわからないはずなので、一概に奨励会退会者を外すことはできないと思ったが、暇名の直感では、プロ棋士以外には考えられなかったのである。

皆本義経編集長 「では、その<ゆきちゃん>に該当しそうな棋士が、5人ということか?」

     温対記者 「はい。森内、畠山、窪田、高野、中尾。みんな名前に<ゆき>がつきます」

     温対は、連盟の伊加職員から聞いたことを、そのまま伝えた。

皆本義経編集長 「5人だけか・・・。すぐ分かるな」

      温対記者 「それがですねえ。結果から言うと、全員該当しないんですよ」

後呂記者 「え! 全員だめ? どういうことなの?」

      温対記者 「いままで6回の盗難事件があったんですけど、みんなそれぞれ、どれかの事件の日のアリバイがあるんですよ」

皆本義経編集長 「ほんとか?」

      温対記者 「はい。対局してたり、研究会だったり、講師や解説やってたりで、確かなアリバイなんすよ」

暇名小五郎 「怪人60面相の予告に基づく盗難事件は、ひとりの人物によって引き起こされていると考えられますから、どれか1つについてでも、アリバイが成立すれば、違うということになります」

      皆本義経編集長 「なるほどなあ。それで該当者なしか」

     検討会の途中だったが、暇名探偵の携帯に、警察から連絡が来た。

暇名小五郎 「はい。暇名ですが。あ、寅金警部ですか。何かありましたか?」

      捜査一課の警部からということで、暇名だけではなく、編集部の面々も緊張して聞いていたが、暇名小五郎の表情は次第に険しくなってきていた。
       電話が終わると、すぐ皆本が暇名に問いかけた。

皆本義経編集長 「どうしたんですか。何かあったんですか?」

     暇名小五郎 「はい。寅金警部からでしたが、また殺しがあったそうです」

皆本義経編集長 「殺し? それで」

     暇名小五郎 「はい。八幡山のマンションで死体が発見されたようです」

皆本義経編集長 「もしかして、毒殺か?」

    暇名小五郎 「そのとおりです。阿佐ヶ谷の事件と手口が似ているから、私に知らせたらしいですよ」

温対記者 「だ、誰が殺されたんですか?」

    暇名小五郎 「やくざです。山岡組の組長らしいです」

皆本義経編集長 「山岡組なら、池袋だな」

      さすがに皆本は、その方面は詳しい。だてに編集長をしているわけではなかった。

     後呂記者 「編集長、知ってるんですか?」

皆本義経編集長 「名前はな。それで、何で殺されたんだ?」

     暇名小五郎 「詳しいことは、まだ分かりません。あとで警視庁へ行って見ます」

      例によって、温対記者も同行することになった。

暇名小五郎 「それで、さっきの<ゆきちゃん>のほうですが、越中さんに会ったときに、詳しい経緯を聞こうと思ってます」

    皆本義経編集長 「そうですね。それからでないと、判断できない」

      週刊ポテト社の専用車を出してもらって、暇名と温対は、霞ヶ関の警視庁まで来た。

暇名小五郎 「警部、ご連絡有難うございます。それで、どういうことですか?」

    寅金邪鬼警部 「うん。まだ断定は出来ないが、怪人60面相との関わりも考えられる」

       鬼警部の判断を聞いて、暇名小五郎も興味を示した。

暇名小五郎 「課長、この事件は匂いますね」

    金銀銅鉄一課長 「暇名さんも、そう思うのかね。阿佐ヶ谷の事件と関係があると」

暇名小五郎 「思います。勘ですが、同一人物の犯行です」

    天然流誠捜査官 「暇名さんの勘は、当るからなあ」

暇名小五郎 「問題は、やはり動機でしょうねえ。なぜ暴力団の組長が・・・」

      暇名の頭の中には、山岡組と対立する組織との抗争などは、毛ほども無かった。
       この後、暇名探偵が、警視庁を出て、温対記者とともに向ったのは、西池袋だった。

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