駒の流儀・第18部  第92章

第92章「大学出のヤクザ」

 暇名たちが、福井県の小浜市を訪れていた時、山岡組の山岡鉄収組長は、福井県の福井市にいた。
      若頭の小茶園猛も同行していた。

山岡鉄収組長 「たしか若頭は、福井県出身だったよなあ」

   小茶園猛若頭 「ええ、そうです。このあたりは、よく知ってますよ」

     2人が歩いているのは、福井市役所を少し過ぎたばかりのところだった。

山岡鉄収組長 「大学も、福井なのか?」

   小茶園猛若頭 「違いますよ。東洋大学です。高校までは福井だったんすけど、大学は東京ですよ」

山岡鉄収組長 「そうか。大学まで出て、ヤクザになる奴も珍しいな」

     どんな勉強をしてたのか怪しいものだが、話しながら歩いているうちに、福井体育館の近くまで来ていた。

 小茶園猛若頭 「組長、あっちのほうに行くと福井商業があります。自分の母校ですよ」

    若頭は、体育館とは逆の方向を、指差してみせた。

     福井商業高校といえば、甲子園の高校野球で全国に知れ渡っている。
      近年は、あまり出場機会に恵まれていないが、北陸の野球界では名門校であった。

    2人は、その福井商業高校のほうには向わず、真っ直ぐ北へ進んだ。

  
  小茶園猛若頭 「もうすぐです。あそこの建物が美術館で、その先すから」

     若頭が教えてくれた通り、目指す建物は、県立美術館と歴史博物館などが立ち並ぶ一角にあった。

      【警視庁 合同捜査本部】

 東京霞ヶ関の警視庁では、捜査一課と三課による合同捜査本部が立ち上げられ、赤外線警視総監が、臨時の本部長を兼任していた。

赤外線透警視総監 「今度の予告状では、例の駒の流儀による一連の盗難事件の犯人によるものと思われるので、三課長が中心になって捜査を進めてください」

     警視の言葉には、強い決意がこめられていた。

世渡甚六三課長 「私は、怪人60面相は2人いると考えていますが、一課のほうでは同一人説だと聞いています。これでは足並みが揃わないのでは?」

合同捜査ならば、意思の統一を図るのは当然であり、世渡の懸念は重要なことだった。

  金銀銅鉄一課長 「いや。まだ同一人と断定したわけでもないし、うちのなかでも意見が割れています。気にせずに、三課長の判断で指揮を執ってください」

     一課長のほうから歩み寄りをみせた。やはり人心掌握術に長けているようだ。

    
世渡甚六三課長 「承知しました。では今後の方針を、渡り鳥警部から説明するように」

      捜査三課の熱血警部が、立ち上がった。

渡り鳥旭警部 「はい。怪人60面相からの予告状に基づいて、対局の監視をした結果、高橋9段が狙われるのではないかという報告がありました」

  寅金邪鬼警部 「ほお。それは、どういう理由からですか?」

すかさず、捜査一課の鬼警部が、説明を求めた。
     協力し合ってとはいいながらも、縄張り争いや手柄争いは見え隠れしていた。

渡り鳥旭警部 「やはり、新人賞を獲得しているという被害者に共通していること、対局の内容など諸々加味して判断しています」

   寅金邪鬼警部 「他に新人賞を獲っている棋士の対局は、無かったのですか?」

渡り鳥旭警部 「いや、いることはいますが、既に被害にあっている棋士ですので、除外しました」

  赤外線透警視総監 「なるほど。同じ棋士が2度狙われるというのは無いだろうねえ」

      捜査本部としては、同一人が再度被害に遭うことは無いだろうということで、被害対象者から外したが、至極当然のことであろう。

寅金邪鬼警部 「それで、高橋9段は何が盗まれそうなのですか?」

   細波雷蔵刑事 「名人審議委員会の話ですと、最優秀棋士賞で贈呈されたときの、<柘植の駒>ではないかということです」

寅金邪鬼警部 「駒ですか。なるほど、あり得ますね。持ち運びにも便利だ」

   赤外線透警視総監 「理由は何かね?」

細波雷蔵刑事 「はい。高橋9段は、駒を集めるのが趣味で、いろいろな種類の駒を収集しているらしいのですが、その中でも一番大事にしている駒だそうです」

   赤外線透警視総監 「なるほど。わかった。こんどこそ万全を期すようにお願いする」

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