駒の流儀・第17部

第83章「犯罪の質」

  阿佐ヶ谷の居酒屋から戻って来た寅金と天然流の両刑事からの報告を受けて、警視庁では翌日の朝早く、捜査会議が開かれていた。
    異例だったのは、赤外線警視総監も会議に同席したことと、捜査一課と三課との連帯会議だったことである。

 
赤外線透警視総監 「先日も刑事局長に呼ばれて、盗難事件を早く解決するように言われたばかりだが、今度は殺人事件が起きてしまった。しかも、盗難も殺人も、同じ人物の仕業かも知れないということだ。今度の事件は一課も三課もない。お互いが協力し合って、解決に全力を挙げて欲しいのだが、その後の捜査はどうなっているのかね」

     警視総監は自分の椅子の背もたれに身体を預けながら目の前の幹部たちに話しかけた。
   警視総監のデスク越しに金銀銅鉄一課長や世渡甚六三課長らが直立不動で立っている。

   金銀銅鉄一課長 「はい、私のところは、寅金警部と天然流捜査官に捜査を当たらせております。では早速、会議を進めてまいりますが、まずは殺人事件の捜査を優先事項として、その容疑者が三課の盗難事件とどのように関わるのかということを協議したいと思います」

世渡甚六三課長 「私は、必ずしも盗難事件の容疑者と、殺人のほうの容疑者が同一人だとは思っておりません」

   赤外線透警視総監 「ほお。その根拠はなんだね?」

世渡甚六三課長 「はい。いわゆる犯罪の質が違う。長年の刑事生活からの勘といいますか、臭いが別なのです」

   金銀銅鉄一課長 「世渡さんは、確かに私より経験豊富で、知識もおありですが、ただ単に勘だけを捜査会議に持ち込まれても困りますね」

     有名大学卒のエリートと、高校卒の叩き上げの刑事の間には、目に見えぬ確執と対抗意識があった。

世渡甚六三課長 「はは。勘というとね、非科学的に思えるだろうが、案外正確なものですよ」

   金銀銅鉄一課長 「今は科学捜査の時代ですから・・」

赤外線透警視総監 「ま、それぐらいにして、本題に入りましょう」

    寅金邪鬼警部 「では、私から報告いたします。まず経過をもう一度、おさらいしておきますので、ご不明な点があれば、質問して下さい」
      
 
     寅金警部からは、阿佐ヶ谷の居酒屋が現在も営業を継続していること、殺害の動機をもつ者の心当たりなど、馬得店長や他の従業員からの聞き込みの内容が報告された。

寅金邪鬼警部 「殺された藁人形茂幸氏の居酒屋を引き継いだ馬得騒造なる人物に、事件のあった状況を確認しているのですが、犯人は変装していたと見えて、有力な手がかりは今のところ得られておりません」

   赤外線透警視総監 「それで、その晩殺された藁人形氏と、一緒に飲んでいた客が有力容疑者だということだが、何も出てこないのかね?」

寅金邪鬼警部 「はい。店長の話では、初めて見た客だったが、店主とは親しげに話していたらしいです」

   金銀銅鉄一課長 「つまり、店に来たのは初めてだが、藁人形氏とは知り合いだったということになるね」

天然流誠捜査官 「そうだと思います。まるっきり初めて会う男と、深夜に飲み明かすのはどうみても不自然ですので」

    赤外線透警視総監 「よし。店主とは知り合いだったという方向でいく」

寅金邪鬼警部 「死因は、ビールに混入された<青酸カリ>です。これは、床に落ちていたコップの中と、こぼれていた液体にも含まれていました。ビール瓶の中からは検出されておりません」

   金銀銅鉄一課長 「犯人が隙を見て、藁人形氏のコップに毒を入れたんだろうなあ」

天然流誠捜査官 「はい。そのように推測されます。なお、一緒に飲んでいた男のほうのグラスは、発見されておりません。おそらく、持ち帰ったものと思われます」

   寅金邪鬼警部 「指紋などは、多すぎて誰のものか判別できませんでした」

赤外線透警視総監 「うむ。犯行は計画的に行われている。指紋や手掛かりになるものなどは、いっさい消し去っているだろうな」

   金銀銅鉄一課長 「はい。もし本当に怪人60面相の仕業なら、手掛かりになるようなものは残していないでしょうな」

    捜査会議は連帯で行われたものの、どうしても捜査一課が主導権を握って進められていた。
     怪人60面相が、果たして盗難と殺人の両方に関与しているのか、いまだに捜査本部としては半信半疑であり、当面は両睨みで捜査をしていかざるを得なかったのである。

赤外線透警視総監 「ところで、三課のほうの進展状況は、どうなっているのかね?」

   世渡甚六三課長 「はい。いまだに有力な手掛かりがありません。申し訳ありません」

赤外線透警視総監 「君たちはそれでも優秀な日本の警察官なのですか、もう少し知恵を働かせてはどうかね」

    世渡甚六三課長 「はい、いろいろ捜査は進めており、何しろあの名探偵暇名小五郎氏にも協力をお願いしているのですが、進展のない状態でして」

赤外線透警視総監 「情けない、暇名君に頼るのは結構ですが君たちは優秀な警察官なのですよ、少しは自分たちで考えたらどうかね」

   渡り鳥旭警部「しかし、手がかりが全く無い状態では手のつけようがありません」

   熱血警部の額には脂汗が浮き上がってきた。

赤外線透警視総監 「手がかりならあるでしょう」

    警視総監室に西日が差し込んできて、陽の光が渡り鳥警部の顔に当たり汗がキラキラ光りだした。
    赤外線透警視総監はクルッと椅子を回転させるとゆっくり立ち上がり窓際に近寄るとブラインドを降ろした。
   渡り鳥警部はポケットからハンカチを取り出し額の汗を盛んにぬぐっている。

    赤外線透警視総監はデスクに戻ると2番目の引き出しから怪人60面相から送られてきた犯行声明文を取り出し、デスクの上に置いた。

渡り鳥旭警部「これが手がかりですか?」

  赤外線透警視総監 「良く文面を読んでみたまえ,何か気が付かないかね」

    警視総監のデスクに怪人60面相の手紙を広げ皿のように目を開けて覗く2人。

赤外線透警視総監 「分からんかね」

  世渡甚六三課長 「・・・・・・・」

   渡り鳥旭警部「・・・・・・・」

赤外線透警視総監 「情けない、君達の脳には“ぬかみそ”でも入っているのかね」

    渡り鳥旭警部「そう言われましても分からないものは分からないとしか・・・」

赤外線透警視総監 「『駒の流儀書にある全ての流儀に反する行為が見られたために、王命により断罪した』と書いてあるではないか」

    世渡甚六三課長「そのようですな」

赤外線透警視総監 「駒の流儀書には7つの教えがあるそうではないか」

     渡り鳥旭警部「そのようですな」

赤外線透警視総監 「まだ分からんのかね、君が犯人だとして居酒屋の店主が7つ全てに違犯したとどうすれば分かりますか」

   渡り鳥旭警部「それは、その場で見ていれば分かるのでは・・・ア、そうか」

赤外線透警視総監 「やっと分かったのかね、私には7つの教えなるものは分かりませんが、犯人はその場にいた者しか分からないことをこの声明文に書いているのですよ」

   渡り鳥旭警部「早速その時取材に行った週間ポテト社の後呂記者に当たってみます」

赤外線透警視総監 「なに、雑誌記者が取材していたのかね、それは都合がよい」

     世渡甚六三課長「都合がよいとはどういう事でしょうか?」

赤外線透警視総監 「本当に君達の頭には“ぬかみそ”しか詰まっていないのかね、雑誌記者が取材すると言うことは、必ずカメラマンが同行しているでしょ」

    渡り鳥旭警部 「なるほど、その時撮影したスナップ写真があれば犯人がその中に居る可能性が高いわけですね」

赤外線透警視総監 「少しは頭が働き出したようですね、しかし、フィルムが切れていたとかカメラマンが腹痛を起こしていたとかで、写真がないと言いこともある」

   渡り鳥旭警部「その時はどうすればよろしいのでしょう?」

赤外線透警視総監 「主催者に会って当日会場にいた者全員のリストを作りなさい」

     渡り鳥旭警部「全員ですか?」

赤外線透警視総監 「アマチュアの将棋指しで当日観戦に集まった者ははずしても良い、そのほかの者は主催者を含めプロ棋士、雑誌記者、その他の関係者全員のリストを作りなさい」

     渡り鳥旭警部 「分かりました」

     こうして、捜査本部では、捜査一課と捜査三課が連携して、怪人60面相を追求することになったのであるが、警察の威信を掛けて、殺人鬼との壮絶な攻防戦が繰り広げられようとしていた。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 06/28/2010 - 13:52 categories [ ]

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