駒の流儀・第15部  第77章

第77章「計画的殺人」

  阿佐ヶ谷での<居酒屋店主殺害事件>は、その後意外な方向へ飛び火することになるが、まだこの段階では誰も気がつく者はいなかった。

   鑑識課員や立ち番の警察官を残して、刑事たちは報告のため、いったん警視庁へ引き返して来た。

   【霞ヶ関 警視庁捜査一課】

寅金邪鬼警部 「課長、検視の結果では、毒殺と断定されました。やはり青酸カリでした」

  金銀銅鉄一課長<40歳> 「うむ。報告書を読むと、単純な事件にも思えるが、どうなのかね?」

     金銀課長は、部下から報告を受けるときは、常に冷静に疑問点を質しながら聞いていた。

寅金邪鬼警部 「初めは私もそう思いましたが、案外難しそうな事件です」

  金銀銅鉄一課長 「ほお。どうしてかね?」

寅金邪鬼警部 「はい。不可解な点がたくさんある事件だからでして。天然流君、説明してくれ」

  天然流誠捜査官 「わかりました。まず第1点は、初めて来た客と、店主が一緒に遅くまで何故酒を飲んでいたのか」

金銀銅鉄一課長 「うむ」

  天然流誠捜査官 「2点目。店の現金は盗まれていないので、殺害の動機は盗みではありません。考えられるのは個人的な恨みや憎しみですが、それほど憎まれている相手と、深夜に酒を酌み交わすだろうか?」

金銀銅鉄一課長 「うむうむ」

  天然流誠捜査官 「さらに、店の従業員は、その晩遅くに来たその客のことを、覚えていないということ」

金銀銅鉄一課長 「誰も覚えていないのかね?」

   寅金邪鬼警部 「馬得という店長だけは覚えていたようですが、他の従業員は気がつかなかったと言っています」

金銀銅鉄一課長 「ほお、そんなに混んでいたのかね?」

   天然流誠捜査官 「そうなんです。木曜日ということもあって、かなり混んでいて、ホールの女性従業員たちが手一杯なので、店長が応対したそうです」

金銀銅鉄一課長 「その男に、連れはいなかったのか?」

   天然流誠捜査官 「いません。その男は1人で来て、ひとりで飲んでいたらしいです」

金銀銅鉄一課長 「なるほどねえ。それで、1点目の疑問だが、一見の客であっても、藁人形社長とは顔見知りだったのだろう。従業員が知らないだけではないのか?」

   寅金邪鬼警部 「たしかに、そういうことも考えられますが、かならずしも知り合いでなくても、酒を酌み交わす場合があります」

     酒豪の寅金警部が言うと、説得力が出てくるようだ。

金銀銅鉄一課長 「そうかね。どういう場合だ」

   寅金邪鬼警部 「たとえば仕事関係の用事で来たような場合です。酒や料理などの仕入れ関係の人。同業者や組合関係の行事などに関する話で来たとか」

金銀銅鉄一課長 「なるほど」

   寅金邪鬼警部 「ほかにも、青色申告会とか法人会、納税貯蓄組合などの税金や融資などの話、生命保険の勧誘や自動車保険の代理店とか、いわゆる諸々の仕事関連の人です」

金銀銅鉄一課長 「うむ。だが、そういう人は、もっと早い時間に来るのではないかな?」

  天然流誠捜査官 「私も課長と同意見です。深夜にそういう業者が来るのは不自然ですよ」

寅金邪鬼警部 「そうとも言えないぞ。居酒屋だからな。午前中は寝てるし、午後は仕入れやなにやらで忙しい。店が始まれば、会えるのは閉店後ぐらいしかない」

     なかなか寅金警部も頑固で、譲らない。

金銀銅鉄一課長 「ところで肝心の、顔かたちや服装はどうなんだ?」

   天然流誠捜査官 「それなんですがね、サングラスをしていて、帽子を被り、顔全体にヒゲも生やしていたそうです。明らかに変装です」

金銀銅鉄一課長 「だろうな。それじゃあ、まるで顔がわからんなあ」

  天然流誠捜査官 「夜中にサングラスですから、普通は変に思いますが、今時はそういうのも多いようです。光線よけというよりは、一種のお洒落として定着してますので、そんなに変には思われないみたいですね」

寅金邪鬼警部 「おそらく付け髭でしょうから、店を出て、帽子もサングラスもヒゲもとって、まるっきり別人になったのでしょうなあ」

    金銀銅鉄一課長 「うむ。計算づくだな」

寅金邪鬼警部 「はい。初めから殺しが目的です。計画性が感じられます」

       こうして捜査一課では、動機不明ながら、計画的殺人と判断された。

     それにしても、駒音探偵団諸氏の卓越した推理力には、ただただ敬服するしかない。
      その調子で、名探偵暇名小五郎より先に、怪人60面相による盗難事件と、何者かによる連続殺人事件を解明してもらいたいものである。

     なお、17日、18日は所用のため休載する。 

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