駒の流儀・第14部

第69章「疑問の交錯」

  池袋の暴力団山岡組にも、初台の行方8段宅での盗難未遂事件の詳細が知らされていた。

筒井村重本部長 「そういうわけで、結局、さしもの怪人60面相も今回は失敗したというわけです」

  山岡鉄収組長 「ま、これだけ警戒されていたら、俺がやっても難しいな」

筒井村重本部長 「しかし、不思議なのは、なぜ今回は1人でやらずに他人を利用したのかだ」

 仁歩犯則書記長 「本部長、実は私も疑問に思ってました」

山岡鉄収組長 「つまり、どういうことだ。怪人60面相の仕業じゃねえってことか?」

 筒井村重本部長 「いや。そうは言ってないが、奴が石辺五郎とかいうタクシー運転手を利用したのが、どうも気に入らないんだ。タイプが違う」

山岡鉄収組長 「石辺五郎? 聞いたことがあるな。若頭のダチじゃねえのか?」

       山岡は、若頭の小茶園を呼んだ。

山岡鉄収組長 「おい、石辺五郎ってのは、若頭のダチじゃなかったか?」

  小茶園猛若頭 「ええ。五郎がどうかしたんですか?」

         仁歩書記長が、一部始終を小茶園に説明した。

小茶園猛若頭 「そうだったんすか。五郎のやつ、またどじりやがったな」

 筒井村重本部長 「知り合いでしたか。どんな男ですか?」

小茶園猛若頭 「喧嘩は俺たちよりも強えし、度胸もある。だけど嘘つくような男じゃねえすよ」

 筒井村重本部長 「そうですか。今度、一度会わせてくれませんかねえ」

小茶園猛若頭 「ああ、いいすよ。俺が呼べば、すぐ来ますよ」

    その頃、名人審議委員会では石辺五郎の釈放を受けて、すぐさま検討会が開かれていた。

大吉三郎委員長 「木村8段と行方8段の両者に絞り込んだところまでは正解だったが、結果は意外な形で終わりました。被害者は行方8段でしたが、容疑者として逮捕された石辺という男も釈放された。このことは、怪人60面相が第5の盗難に失敗したと考えていいのでしょうか?」

 喝采賢介委員 「常識的には、失敗したということでしょうな」

不利舎耕介副委員長 「だが、いくつか疑問点がある」

 大吉三郎委員長 「たとえば、どんな?」

不利舎耕介副委員長 「石辺の供述によると、入るときに部屋には鍵はかかっていなかったと言っています」

   大吉三郎委員長 「そうでした」

不利舎耕介副委員長 「そして、そのことを怪人60面相は石辺に教えています。と言うことは、前もって怪人60面相が行方宅の入り口ドアを開けておいたことになります」

 湯川慶子委員 「たしかに、そうなるわね」

不利舎耕介副委員長 「では、いつ開けたのでしょうか?」

 喝采賢介委員 「そう言われると変だ。行方氏が警察の指示で、部屋を出るときには鍵をかけて出かけてますから、その後はずっと刑事たちが監視している。どうやって警察の目を盗んで、ドアの鍵を開けたんですかね」

丸潮新次郎委員 「怪人60面相が、石辺氏に合鍵を持たせたのではないかな?」

 不利舎耕介副委員長 「いや。それなら石辺氏が警察に言うはずだ」

湯川慶子委員 「そうよ。彼は、はっきり鍵はかかっていなかったと供述しているもの」

  大吉三郎委員長 「不思議だね。どういうことだろう」

喝采賢介委員 「それと、暇名探偵の指摘によると、石辺氏が入室してから、出てくるまでの時間ですが、5分はかかりすぎだと・・・。その間彼は何をしていたのかなあ」

  湯川慶子委員 「そうなのよ。そのことも疑問よね」

丸潮新次郎委員 「その点ですがね。私はね、タクシーの運転手だから、つい人の家だけど、小用を足していたのではないかと思うね」

  湯川慶子委員 「あら、いやだ」

喝采賢介委員 「しかし、それだけなら、やはり5分は長いですよ」

     しばらく難しい顔で考え込んでいたホームズが、面白い説を披露した。

不利舎耕介副委員長 「私もその5分間の意味については、考えてみたのです。行方8段の部屋に入った石辺は、初めは
頼まれた物を持ってすぐ戻ってくるつもりだったと思います」

  丸潮新次郎委員 「うむ。そうだろうね」

不利舎耕介副委員長 「ところが部屋に入ってみると、思った以上に豪華な部屋だった。そこで石辺は、頼まれたトロフィーを持ってくるついでに、なにか金目のものはないか物色したのではないかと思うのです」

  大吉三郎委員長 「なるほど、ありうることだね」

不利舎耕介副委員長 「つまり、何か盗むというほどではなくても、つい他人の部屋にどんなものがあるのか、あちこち覗いてみてたというのが真相でしょうな」

 喝采賢介委員 「それで石辺氏は、警察に話せなかったんですなあ。納得です」

     この不利舎耕介の意見は、皆の賛同を得た。
     事実は、石辺五郎本人の自供を待たねばならないが、恐らくそれほどの違いは無いはずであった。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 金, 06/04/2010 - 11:33 categories [ ]

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