駒の流儀・第13部  第68章

 第68章「目撃者」

不満多羅オーナー 「実は、うちの大那店長から電話で報告を受けたときに、初台店近くのマンションでの盗難事件の話を聞きまして、それで思い当たることがあったものですから・・」

     不満氏は、髪の毛はだいぶ薄くなっていたが、品の良い紳士だった。

 渡り鳥旭警部 「そうでしたか。で、どんなことを?」

不満多羅オーナー 「はい。容疑者として捕まっている人は、初台店の常連客ですが、だからといって、わざと有利なことは言いません」

   渡り鳥旭警部 「そうでしょうとも。よくわかっています」

不満多羅オーナー 「初台店は、タクシーの運転手さんが多いのですが、石辺さんは目立つ人なので、よく知っています」

  渡り鳥旭警部 「ええ」

     なかなか本題に入ってくれないので、渡り鳥は内心じれったい思いだった。

不満多羅オーナー 「それで、石辺さんがうちの店の中で会ったという男ですが、その人相を店長から聞きまして、お電話したわけです」

   細波雷蔵刑事 「はい。それで?」

       細波のほうも、いらいらしている。

不満多羅オーナー 「はい。その日、私が上北沢店で余った弁当を売るつもりで、初台店まで運んできました。その時、入り口から出てきて、すれ違った男が、その人相の男でした」

     人相といっても、サングラスにマスク、野球帽なので、正確には人相とはいえなかった。

  渡り鳥旭警部 「本当ですか!」

細波雷蔵刑事 「何時ごろですか? 見間違いと言うことはないですね?」

不満多羅オーナー 「いいえ。服装も黒っぽいブレザーにズボンでした」

      時間も服装などの特徴も、石辺五郎の供述どおりだった。

   暇名小五郎 「何か話しをしましたか?」

不満多羅オーナー 「いいえ、ただすれ違っただけですから」

 暇名小五郎 「特に目に付いたことはありませんでしたか?」

不満多羅オーナー 「さあ・・・」

    暇名小五郎 「何か持っていたとか。例えばカバンとか傘とか・・」

不満多羅オーナー 「いや。何も持っていませんでしたな」

 暇名小五郎 「他の客や店員さんは、気づかなかったようなのですが、どうしてオーナーさんはわかったのでしょうか?」

不満多羅オーナー 「それはね、日頃から私は、自分の店の客層がどうなっているか、男か女か、若いか年寄りか、学生なのかサラリーマンなのか、常に観察しているからですよ」

 暇名小五郎 「そうですか。よくわかりました」      

     このオーナーが、8店舗も経営している理由がうなづけたようだった。

渡り鳥旭警部 「どうも、ご協力感謝します」

       刑事たちは、礼を述べて店を出てきた。

細波雷蔵刑事 「警部、驚きましたねえ。オーナーが目撃者とは」

 渡り鳥旭警部 「まったくだ。だが、これで石辺は釈放だな」

       署に戻ると、世渡課長が待っていた。

世渡甚六三課長 「お、暇名さんたちも一緒に来たのか。丁度良かった。どうだったね?」

  渡り鳥旭警部 「はい。実はセブンイレブンのオーナーが目撃してました」

 世渡甚六三課長 「ほお」

細波雷蔵刑事 「こういうわけです。・・・・・」

      不満オーナーの証言で、石辺五郎の供述が真実であることが確認された。

世渡甚六三課長 「うむ。やっぱり石辺は、本当のことを言ってたんだねえ」

  渡り鳥旭警部 「そうなりますね。不満オーナーが、嘘を言う理由も無いですから」

世渡甚六三課長 「そうすると、こういうことになるのか。怪人60面相は、警察官が張り込んでいるのを察知して、咄嗟に石辺を代理人に仕立てて、行方8段の自宅からトロフィーを盗ませようとした」

   暇名小五郎 「はい」

世渡甚六三課長 「2人が接触したのは、セブンイレブン初台店の中で、最初は客を装った。そして、車に乗ってから、すぐ忘れ物をしたと言って、石辺に取りに行かせた」

   暇名小五郎 「結構です」

   実は、暇名小五郎には細かい点で、疑問がいくつかあったのだが、あえて言わずにいた。
    まだ疑問が、具体的な形になっていなかったからである。

世渡甚六三課長 「石辺は、料金を倍額払うと言われて喜んで引き受けた。そして、指示されたとおり808号室へ入り、トロフィーを持ち出してきた。そして、タクシーへ戻ってみると、客はいなくなっていて、警察が飛び掛ってきたというわけか」

       世渡課長は、自問自答するように繰り返しつぶやいていた。
      こうして、石辺五郎は嫌疑が晴れて、釈放されたのである。

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