駒の流儀・第10部

第49章「ゴキゲン流」

越中褌事務局長 「はい。たしか近藤6段と村山5段が持っているはずです。三浦8段はちょっと分かりません」

    それまで議論に加わらないでいた越中事務局長が、不利舎の質問に答える形で口を開いた。

 伊加訓生職員 「僕の記憶では、三浦8段はパソコンは苦手で使わないと言っていたように思います。今、確認します」

      すかさず、伊加職員が補足した。

不利舎耕介副委員長 「そうすると2人ですね。詰め将棋もパソコンでやるのでしょうね」

  越中褌事務局長 「そうですね。パソコンを持っているほとんどの棋士はそうです」

湯川慶子委員 「私は、パソコンが盗難品ということに賛成するわ」

 大橋宗雪理事長 「うむ。儂も同意じゃ」

       みんなが考えているうちに、ちょっと席を立っていた伊加職員が戻って来た。

伊加訓生職員 「今、調べてきましたが三浦8段は、やはりパソコンは持っていません。それから、近藤6段が升田幸三賞を獲得した時の副賞がパソコンです」

      この報告は、一同を緊張させた。

渡り鳥旭警部 「それが本当なら、間違いないな」

  喝采賢介委員 「近藤6段のパソコンで決まりですな。これは」

米中会長 「ほお、みんなパソコンを持ってるんだねえ。私なんかブログで日記を書く時に使う程度だよ。ははは」

     今はそんなことは関係なかったが、誰にも読まれないのでは気の毒である。
      その会長の自慢の日記とは、<さわがせ日記>と称するものである。

不利舎耕介副委員長 「うむ。村山5段のほうは、何かの賞でパソコンを貰っていないのですか?」

 伊加訓生職員 「それも調べてみたのですが、賞としては貰っていませんでした」

      不利舎としては、村山5段を本命と考えていただけに、不服そうではあったが仕方が無いというところだった。

大吉三郎委員長 「では、我々合同検討会の結論として、第4の流儀の被害者は、近藤6段ということに決めましょう。もちろん、他の被害者ということもあり得ますが、そこまで考えればキリがないので、これで対策を立てたいと思います」

 世渡甚六三課長 「承知しました。皆さんご苦労様でした。警察も近藤6段宅を徹底マーク致します」

     こうして、その日のうちに近藤6段宅の厳重な警戒が行われることになったが、渦中の近藤6段とはどんな棋士なのか紹介しておくことにする。

      近藤正数6段 1971年生 39歳

        新潟県出身 順位戦C級1組 竜王戦4組        
       純粋な振飛車党で、通称<ゴキゲン流>と呼ばれている。
        この<ゴキゲン流>と呼ばれるようになったのは、トレードマークの坊ちゃん風の髪型と、いつもニコニコして愛嬌があるところからである。

       2001年には、升田幸三賞を受賞しており、<ゴキゲン中飛車>と呼ばれた。
        2004年度は、勝率8割2分の好成績を残し、年度最高勝率を達成して、その実力の非凡さを証明したが、ここ数年は鳴かず飛ばずの印象のほうが強かった。

 

    一方、合同検討会の結論は、各関係諸団体にも伝わるところとなった。

      【東京池袋 山岡組事務所】
    

山岡鉄収組長 「成る程なあ。それだけのメンバーで検討した結果なんだから、間違いねえようだな」

  筒井村重本部長 「うん。十中八九当りだろう」

     山岡組長の兄弟分の筒井が、事細かく検討会議の様子を離して聞かせた。

小茶園猛若頭 「組長、俺たちのほうで先に怪人60面相とやらを捕まえねえと、巻物は手に入らねえし、どうしますか?」

  山岡鉄収組長 「ああ、そうなんだが。なにしろ察が張り込んでるところだからなあ」

弐吐露隆若頭補佐 「筒井の兄貴、近藤6段の自宅は何処ですか?」

  筒井村重本部長 「うむ。駒込のアパートだ。独りで住んでる」

     若頭は、若い衆に地図を持ってこさせて拡げて見せた。

小茶園猛若頭 「この辺はアパートや住宅が密集してるなあ。住所でみると、この和泉荘というところすねえ」

      その和泉荘は、二階建ての木造アパートで古い建物であった。
       上下ともに5世帯ずつ10世帯が暮らしているが、近藤6段は2階の一番端の部屋に住んでいた。

     どうやら、山岡組も乗り出してくる気配である。   捜査陣は、今度こそ怪人60面相を捕らえることが出来るのであろうか。

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 火, 05/11/2010 - 11:01 categories [ ]

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