駒の流儀・第8部

第38章「張り込み」

  その日のうちに、山崎7段とは連絡がついて、暫くの間留守にしてもらうことになった。

  温対記者 「警部。今日は山崎さんは何処で泊まるんですか?」

渡り鳥旭警部 「さあ、友達のとこじゃないかなあ。麻雀
をすると言っていた」

 温対記者 「そうか。山崎さんは麻雀が趣味だと聞いたことがあります。強いそうですよ」

細波雷蔵刑事 「彼はイケ面だし、暇つぶしする場所には困らないだろうね」

      いま、彼らが会話している場所は、山崎7段の自宅マンション308号室の真向かいの部屋の中だった。
       この部屋の住人は、やはり独身の会社員だったが、警察が事情を話して、数日間借りたものである。

 温対記者 「ところで、僕が不思議なのは、山崎7段の自宅マンションと関西将棋会館は、目と鼻の先ですよね」

細波雷蔵刑事 「ええ。それが?」

 温対記者 「そんなに近いのに、どうして1時間も対局に遅れたんですかね?」

細波雷蔵刑事 「だから、事故にあって時間がかかったんですよ。何度も確認してます」

  温対記者 「それでも、そんなに時間がかかるもんですかねえ?」

暇名小五郎 「はは。温対さんなら、5分ぐらいで着く場所に出かけるのに、何分ぐらい前に家を出ますか?」

  温対記者 「そうですねえ。少し早めに出たとしても、20分前ぐらいですかね」

暇名小五郎 「そうでしょう? きっと山崎7段が自宅を出たのも、対局開始の15分前位のはずですから、事故で1時間ぐらい遅れたのは当然でしょうね」

       暇名に理詰めで説明されると、不思議な説得力があった。

 温対記者 「でも暇名さん、なんか退屈ですねえ。いつ犯人が来るかわからないし・・・」

暇名小五郎 「そうですねえ。でも私たちは刑事ではないので、四六時中張り込んでいなくてもかまわないんですよ」

  温対記者 「それはそうですけど。編集長がねえ・・」

       時間は、夜の11時を少し過ぎたばかりだった。

渡り鳥旭警部 「今夜現れるとも限らないから、暇名さんたちも休んだらどうかね?」

  暇名小五郎 「ええ。適当に出たり入ったりしますから」

     暇名は温対を誘って、近くにラーメンを食べに出かけた。

 温対記者 「でたらめ飯店なんて、変わった店名ですけど、美味しいんですかね?」

      いかにも欲の深そうな顔をした店主が、ラーメンを茹でていた。
       後に、東北の或る地方のラーメン屋が登場するが、店主は顔も性格もよく似ているものの、全くの別人である。

 温対記者 「暇名さん。本当に怪人60面相は、現れますかねえ?」

      運ばれて来たラーメンは、やはりまずかった。具財は変色していた。

暇名小五郎 「それなんですが。なんとなく空振りのような気がするんですよ」

      名探偵にしては、弱気な発言だった。

 温対記者 「前にも、そんなこと言ってましたよね。どうしてですか?」

暇名小五郎 「根拠は無いです。いやな胸騒ぎがするので」

       暇名小五郎の勘は当った。2日目も3日目も怪盗は、山崎宅に侵入しなかったのである。

     【張り込み4日目の昼】

暇名小五郎 「どうもおかしいですね。もう一度、視点を変えて考えてみるべきかも知れません」

       温対も、暇名同様空振りのような気がしてきた。

暇名小五郎 「温対さん、ちょっと関西将棋会館へ行って見ませんか?」

2人は、渡り鳥警部に断ってマンションを出て、関西将棋会館に行った。

     温対記者が名刺を渡して、事務局長に面会を求めると、すぐ中年の男性がやってきた。
      柔和な顔をした親切そうな男だった。

山城寛斎事務局長<45歳> 「どうも。わいが事務局長の山城ですがな」

     地元出身なのか、大阪弁丸出しである。

  温対記者 「いろいろお尋ねしたいことがあって来ました」

     山城事務局長も、現在の状況を把握していて、なんでも協力すると申し出てくれた。
 

暇名小五郎 「3日前から山崎7段の自宅前で、張り込みを続けています。しかし、怪盗が現れるような兆しが見えないのです」

      山城も、分かっているというように、深く頷いてみせた。

暇名小五郎 「そこで、何か見落としがあるような気がして、もう一度検討しなおしてみたいのです。私がお尋ねすることを、事務局長さんの判る範囲で教えてください」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 水, 04/21/2010 - 10:17 categories [ ]

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