駒の流儀・第6部  第33章

第33章「現役のプロ棋士」

    <つまり、どういうことだね?>

  将棋連盟の米中会長も、先ほどまで居た警視庁の捜査三課長と同じ場面で、同じことを聞いた。

     【日本将棋連盟 会長室】

暇名小五郎 「はい。警視庁でも話したのですが、本当にこれから起こる対局のどれかが、偶然<駒の流儀>に違反したために、盗難事件が発生したのだろうかという疑問です」

  米中会長 「もう少し分かり易く言ってくれないかね。私は頭が悪くてね」

     実兄は、頭が悪くて東大にしか入れなかったが、弟はその兄よりは少し良くて、名人になれたと言いたげだった。
     自慢の種は尽きぬものである。

暇名小五郎 「つまり、盗難が起こる原因となる対局は、偶然ではなく、何かそこに方程式のような関連があるのではないかと考えたのです」

 越中褌事務局長 「しかし暇名さん、対局は終わったものではなく、これからのものですよ」

暇名小五郎 「わかってます。事務局長さんの言うとおりなのですが、この怪盗にはそこまで読み筋にあって、計算しながら行動しているようにみえるのです」

  米中会長 「うむ。例えばこういうことかな。これから行われる対局のうち、最初からどの対局が狙いなのか決まっていて、その理由付けが流儀書の心得ということだと」

暇名小五郎 「はい。その通りです」

     流石は平成の妖怪である。頭は良い。

暇名小五郎 「もしかすると順序が逆なのかもしれません。ターゲットが先にあって、原因が後です」

 米中会長 「なるほど。理由などは、後から何んとでもこじつけられるからなあ」

暇名小五郎 「ズバリ会長さんの言われたことが、私の推測です。もし私の読みが正しければ、3回目の盗難が起きた時点で、きっと新たな発見があるはずです」

  米中会長 「うむ」

       名探偵に誉められたようで、妖怪はご満悦だった。

温対記者 「暇名さん、3つの盗難が関連性があるとすると、それはどんな関連になるんですか?」

 越中褌事務局長 「まだ盗難は2つだけですよ。それからでないと・・」

暇名小五郎 「そうです。3回目の盗難を待ちましょう。その上で対策を立てます」

      暇名小五郎と温対記者は、将棋会館を出てくると、近くの鳩森神社の境内を歩いた。

温対記者 「暇名さん、ここへ来ると<闇の棋士事件>を思い出しますねえ」

 暇名小五郎 「そうですね。ここで殺人事件があったんでした」

     読者諸氏も、まだ記憶に新しいであろうが、連続射殺事件の始まりが、この神社であった。
      今回の連続殺人事件の始まりは、いったい何処になるのか、楽しみにして待っていていただきたい。
 

温対記者 「あれから、犯人を捜して全国を飛び回りましたよね」

 暇名小五郎 「はは。思い出せば、本当に難解で複雑な事件でしたね」

      こう言いながらも暇名小五郎は、その<闇の棋士事件>以上に、今度の事件は難事件であることを予感していた。

温対記者 「ところで暇名さん、怪人60面相とは何者でしょうかねえ?」

温対は、あらためて当面の課題を持ち出した。

 暇名小五郎 「温対さん。前にもちょっと言いましたが、私は怪人60面相はプロ棋士だと思ってます。それも現役です」

温対記者 「え! 現役のプロ棋士ですか?」

     ある程度予想していたが、実際に言われてみると驚きだった。

温対記者 「ほんとなら大変なことですよねえ。根拠は何ですか?」

 暇名小五郎 「もう少し事件が深くなったら、はっきりします。徐々にボロを出すはずです」

      暇名探偵も、現時点では確かなことは言えなかったが、怪人60面相の正体に迫る自信はあった。

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