駒の流儀・第4部  第22章

第22章「仮説」

暇名小五郎 「そうです。現在までに知りえた情報を整理して、仮説を立ててみるのです」

     コーヒー党の暇名探偵は、自分でいれたコーヒーを上手そうに口に運んだ。

 温対記者 「そうか。それが予測ですね」

      温対のほうは、藤田舞子が出してくれたお茶を飲んだ。

暇名小五郎 「はい。まず1点目。私のところへ怪人60面相からの予告状が届いた後、将棋関係の品物が盗まれています」

  細波雷蔵刑事 「そうです」

暇名小五郎 「2点目。盗まれた人は、プロ棋士です」

      細波刑事も温対記者も、きちんとメモをとっている。

 暇名小五郎 「3点目。犯人は品物を盗んだ後で、将棋連盟の米中会長に宛てて、犯行声明文を送っている」
  

     暇名探偵は、みんなに分かるように、一語ずつゆっくり区切りながら説明していく。

暇名小五郎 「さらに4点目は、その中で犯行理由を掲げている」

      皆、黙って名探偵の説明を聞いていた。

暇名小五郎 「そして5点目。流儀書に記されている<心得>が、盗まれる品物と関係があるということ」

  渡り鳥旭警部 「うむ。そのとおりだ」

暇名小五郎 「そこで問題になるのは、最初の盗難のパターンが、二回目の盗難にも当てはまるかどうかということです」

  温対記者 「僕は同じ展開になるような気がします」

暇名小五郎 「はい。流石は温対さんですね。私もそう思います。わざわざ予告状を出す以上、そうならなければ不自然です」

     藤田舞子は、温対記者の隣りで神妙な顔で聞いている。

渡り鳥旭警部 「つまり、こういうことだな。近いうちに、プロ棋士が所有している大事な品物が盗難に遭うが、その品物は流儀書に記載されている<心得>に関係があると」

  暇名小五郎 「はい、そうです。そこで<直>という心得から、どんな物が思い浮かびますか?」

     左手の親指と人差し指で、顎をなでる得意のポーズで、暇名探偵は全員の顔を見回した。

温対記者 「うーん。道路とか、定規、宿直、直線・・・」

       さっそく、温対が答えた。

藤田舞子 「ちょっと温対さん、品物よ。道路盗む人なんかいないでしょう。それに、将棋に関係する物って言ったでしょう」

     温対は、やり込められてしまったが、当然悪い気持ちはしなかった。

暇名小五郎 「警部はどうですか?」

 渡り鳥旭警部 「いやいや、俺は駄目だ。まず、将棋がまったくわからんからなあ」

細波雷蔵刑事 「私も駒を動かす程度ですから・・」

      警視庁は、全く自信がなさそうだった。

暇名小五郎 「ではその心得ですが、<真っ直ぐの道を歩け、奇策はいけない>とあります」

  渡り鳥旭警部 「うむ」

暇名小五郎 「そのことから連想すると、将棋は<定跡>の通りにやりなさいということでは?」

   渡り鳥旭警部 「というと?」

暇名小五郎 「私の推理が正しければ、狙われる品物は<定跡書>です」

 渡り鳥旭警部 「なるほど。将棋の解説書か」

暇名小五郎 「はい。将棋の定跡を紹介したり、解説をしたりしている本です」

     暇名が断言する時は、自信のある証拠だ。

 細波雷蔵刑事 「しかし、本ならそれ程大切な物とは言えないのではありませんか?」

暇名小五郎 「それは分かりません。その人にとってだけ、大事だというものもありますから」

  細波雷蔵刑事 「それはそうですね」

       若い刑事は、あっさり引き下がった。

暇名小五郎 「分からないのは、盗まれる本人が書いた本なのか、別の棋士が書いた本なのかということです」

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