駒の流儀・第4部

第17章「ギンナン面の駒」

  去る2010年1月31日、関根名人記念館では女流名人位戦が行われた。毎年恒例となるようである。
   清水一夜女流名人対里見華菜倉敷籐花。
     立会人は中村収9段 聞き手は野田澤綾乃1級。

  
  あらかじめ電話で用件を話しておいたため、館長も待ち構えていたようだった。

山蛇知之館長 「あの座布団盗難事件で、早速マスコミの方が来られるとは驚きですな」

    館長は実際この程度のことで、東京から週刊誌や探偵が来たことを驚いていたようだ。

 温対記者 「驚かれるのはごもっともです。これにはちょっと事情がありまして・・」

     温対が言葉に詰まると、横から暇名が助け舟を出した。

暇名小五郎 「確かに一般の人たちからみると、なんでもない品物ですが、所有者の屋敷9段にとっては、とても大切なものだったようで、警視庁にも被害届を出しています」

 山蛇知之館長 「そうらしいですね。うちからも千葉県警に被害届を出しましたが、両方で捜査ということになるんでしょうか?」

暇名小五郎 「実はこの盗難の発端は、最初に私宛に来た手紙でして、すでにこの事件が起こる前に警視庁に届けを出しています。その延長線上にある事件ですから、警視庁が引き継ぐことになると思います」

  山蛇知之館長 「そういうことですか。わかりました。それで、今日あなた方のご用件は?」

暇名小五郎 「はい。いろいろと教えていただきたいことがあります。いずれも今回の盗難に関係があると思います」

     山蛇館長は、軽く頷いた。

暇名小五郎 「まず、盗まれた座布団ですが、どこに展示してあったのでしょうか?」

   この質問には、職員の亀臨辰彦が展示室を案内しながら教えてくれた。

  温対記者 「なるほどね。このパネルの下に置いてあったんですね」

亀臨辰彦 「そうです。持っていこうと思えば、誰でも持ち出せます」

暇名小五郎 「何か他に変わったことはありませんでしたか?」

 亀臨辰彦 「そうですねえ。無くなった座布団が置いてあったところに、駒が1枚置いてありました」

暇名小五郎 「駒? なんの駒ですか?」

  亀臨辰彦 「歩です。これがそうです」

       亀臨は、手に持った駒を見せた。

暇名小五郎 「ほお!」

  温対記者 「変わった装飾の駒ですねえ」

      ふたりとも、今まで見たことがない駒だった。

 亀臨辰彦 「ええ。これは<ギンナン面>といって、ちょっと珍しい装飾駒なんです」

暇名小五郎 「ギンナン面ですか?それは初めて聞きました」

     手にとってみると、駒の角に段ちがあり、そこから丸く削りこみがあって、また反対側にも段ちがあり、都合3段階の面取りがしてあった。

山蛇知之館長 「一般の人は知らないでしょうね。ギンナン面というのは、駒の表面と裏面の駒形の縁が、このように段になっているものです。うちの記念館にも展示してありますよ」

暇名小五郎 「そうですか。後でゆっくり見物しますよ。ところで、閉館は何時ですか?」

 山蛇知之館長 「展示室は午後5時までです」

暇名小五郎 「休館日はいつですか?」

 山蛇知之館長 「火曜日です」

暇名小五郎 「それで、座布団の紛失に気がついたのは、何曜日でしょうか?」

  亀臨辰彦 「水曜日の朝でした」

温対記者 「じゃあ、盗まれたのは火曜日の休館日ですよね?」

 山蛇知之館長 「そうかも知れませんが、月曜日ということもあり得ます」

温対記者 「どうしてですか?」

 山蛇知之館長 「つまり、月曜日の午後に盗まれていたんだけど、水曜日まで気がつかなかったというケースです」

暇名小五郎 「毎日チェックはしていないのですか?」

  亀臨辰彦 「基本的には毎日点検しています。ただ、こんなものが盗まれるとは想定していないので、どうしてもおざなりになってしまって、見逃した可能性もあります」

     亀臨は、面目ないという態度をみせた。

暇名小五郎 「わかりました。当然休館日には、鍵がかかっていたはずですが、戸をこじ開けられたような痕跡はありますか?」

 山蛇知之館長 「それは無いです。ですから、可能性としては月曜日に来館者を装って入り、隙を見て盗んだということのようです」

投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 火, 03/23/2010 - 13:23 categories [ ]

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