駒の流儀・第2部  第10章

第10章「挑戦状」

 暇名小五郎が、長野県から帰ってきた日の翌日、銀座の帝王ビル3階にある暇名小五郎探偵事務所に、1通の手紙が届いた。

  藤田舞子 「先生、手紙の送り主の名前がありませんけど・・・」

暇名小五郎 「うん。時々あるんだよ、そういうのが」

  藤田舞子 「どうしますか?」

暇名小五郎 「開けて見て」

 藤田舞子 「はい。じゃあ読みます」

     訝しげな顔をしながら、藤田舞子が読み出した内容は、実に不思議なものだった。

       親愛なる暇名小五郎君

         初めましてと言うべきなのだろうが、私にはどうも君に会うのは、初めてのような気がしないのだよ。
        ま、そんなことはどうでも良いのだが、君は日本将棋連盟の依頼を受けて<駒の流儀書>の秘密を探り、私の正体までもを暴こうとしているそうだな。
        無駄なことだが、せいぜい頑張りたまえ。

       ところで、この怪人60面相から君にひとつ忠告しておこう。  
        駒の流儀書に書かれている7つの流儀に抵触する行為を行った棋士からは、それにふさわしい物を、罰として頂戴するつもりだ。

       ★第1の流儀は『歩』の流儀である。

         そして、その心得は『座』

        座とは、<棋士が対局場において座す時は、その技量、実力はもとより品格、態度、人望ともに秀でている者が上座に座るもの也>

       これが、流儀書に記されてある座の心得である。
        ヒントは与えたつもりだ。これは盗難の予告と考えてもらって結構だ。
       君が果たしてこの盗難を阻止することが出来るかどうか、大いに楽しみだ。
        天下の名探偵暇名小五郎の名声をかけて、怪人60面相の挑戦を受けよ。

                     怪人60面相

 
藤田舞子 「先生、これはなんですかねえ?」
     

      舞子は、いかにも気味が悪いというふうに、暇名のほうを見た。

暇名小五郎 「見ての通り、私への挑戦状だよ。だが、何か裏がありそうだな」

   暇名探偵は、いつもよくある悪戯とは違う何か得体の知れない不気味なものを感じていた。

  藤田舞子 「裏というと?」

暇名小五郎 「うん。裏を探るためには、表をしっかりと把握すること。あるいは表と裏が逆かも知れないがね」

      暇名探偵が何を言ってるのか、藤田嬢にはさっぱりわからなかったようだ。

暇名小五郎 「ちょっと出かけてきます」

     まずは依頼を受けた将棋連盟へ行き、次に温対記者の居る週刊ポテト社、そして警視庁というのが、藤田舞子に告げた行き先だった。

      天下一の名探偵に、挑戦状を突きつけた怪盗の狙いは一体何か。
     将棋界を巻き込んでの恐るべき陰謀の舞台が幕を開けようとしていた。

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