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駒の流儀・第1部 新井田基信氏とは、一度だけ対戦したことがある。余が油断して負けた記憶が残っているが、余の棋歴の中でも、あれほど強く高潔な将棋人は、他にいなかった。 第1章「奇妙な盗難」 将棋の駒を打ち下ろす時、それぞれの棋士によって個性がでる。激しく盤上に音を立てて打ち下ろす者、穏やかな手つきで音も無く駒を動かす者、あるいは桝目に添ってきれいに並べる者など、千差万別である。 だが、1つだけはっきりしていることは、盤上の桝目の中に駒を置かねばならず、決して四角形の桝目の外にはみ出すことは許されなかった。 秋田県の中央に位置し、南北に長く北秋田群の西南部の山間に「上小阿仁村」がある。 平成の大合併の時も、上小阿仁村は合併協議会に参加せず、独立独歩の姿勢を貫いてきたが、秋田県においては最も人口の少ない村で、高齢化、過疎化、空洞化が進んでいた。 村内には鉄道は通っておらず、主な交通手段はバスが中心であり、その分のどかで美しい村だった。 大沢一向巡査<46歳> 「猫面さん、んがのどこで、なんか盗られたもの、んだどもあるどか?」 猫面尺治<67歳> 「さあ、それがなんただものがあったか、覚えてないんだで」 猫面の妻<65歳> 「駐在さん、こごさあるのは古くしぇものほいどりで、たいしたものはなんも無かったんだどもねえ」 大沢一向巡査 「んだどもも、蔵の中がこれだけ荒らされてるんだべら、なんかを探したことは間違いないな」 猫面尺治 「んだども、盗られるようなものは、なんも無いんだでけどねえ」 猫面夫婦は全く心当たりが無かったが、一応蔵の中をもう一度探してみることにした。 主人の猫面尺治は、村役場に勤務した後、村会議員を長年務めていたが、定年退職後は悠々自適の年金暮らしであった。 猫面の妻 「んだ、ここんとこになんかあったんでねえべか?」 猫面の妻が、思い出したように声を上げた。 猫面尺治 「おお、そういえば古くしぇ巻物みてえなもんがあったんだども、なくなってるみてえだで」 大沢一向巡査 「巻物? なんだが、それは」 猫面尺治 「詳しく見たわけでねんだども、時代劇の忍者の巻物のようなものがあっただ」 猫面の妻 「んだんだ。たすかにあっただよ駐在さん」 大沢一向巡査 「そしたら、たしかさその巻物が無くなったんだな?」 猫面尺治 「んだども、おめだもの盗んでどうこぐんだがねえ?」 猫面夫婦は、不思議なことだと首をかしげた。 大沢一向巡査 「猫面さん。一応盗難事件なので訴えますだか?」 猫面尺治 「はあ。んだども、この程度で訴えるのもめんどくへねえ」 猫面の妻 「んだばって、たいしたもの盗られてないけど、蔵の中荒らされたのは気持ち悪いし、怖わねえ」 大沢一向巡査 「そうだべ。わも出来るだけ見回るようさこぐがらよよ」 このちょっとした田舎の盗難事件が、やがて起きる連続殺人事件の引き金となったのである。
投稿者: 悪魔仮面 投稿日時: 月, 03/01/2010 - 16:15 categories [ ]
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